ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[--/--/-- --:--] | スポンサー広告 |
イタリア行き(14年3月)③―ムーティ指揮ローマ歌劇場「マノン・レスコー」②
3月8日午前7時半、ホテルをチェックアウトし、ミラノ・ポルタ・ガリバルディ駅へ。Italo9915にてローマ・ティブルティーナ駅に戻る3時間20分の旅程である。復路もPRIMAを利用したが、往復で乗車すると、やや飽きが来てしまう。午後1時前に宿泊先であるベストウェスタン ホテル モンディアルに到着。こちらはクラシックな4つ星ホテルで、バスタブ等の設備は一通り揃っているものの、一昨日のホテルからは若干ランクが落ちるような印象であった。もっとも、ローマ歌劇場の隣という立地は文句ない。

ランチは、ホテルから徒歩10分ほどにあるシーフードレストラン、DA VINCENZOへ。日本語メニューを備えているが、必ずしも観光客向けというわけではなく、地元の人も多く来店して賑わっていた。ボンゴレ・スパゲティと白身魚のグリルは、どちらも水準以上の味わいではあった。

午後5時半すぎ、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮によるプッチーニ「マノン・レスコー」千秋楽。マノン役とレスコー役の2人が入れ替わった。

20140308-01

筆者の確保した座席は、PAL.16 SX II OR A P6A 1列目。馬蹄3層目中央正面であり、全体の見晴らしがよく、思いのほか残響が華やかである。平土間に比べると、声がよく飛んでくるのは良いが、舞台最前方に限っては、声が極端に増幅されて聴こえくるため、やや不自然さを感じたことは否めない。また、打楽器の音が相対的に大きかったのも、ひとえに座席の位置に起因するものであろう。この劇場の場合、ボックス席に座るのであれば、サイドにずらした方が音響的には無難なようだ。

20140308-03

20140308-04

さて、この日の上演では、マエストロ・ムーティの卓越した統率力が如何なく発揮された。千秋楽を飾るにふさわしいものであったといえる。

階上席から眺めていると、マエストロのタクトや表情から窺える情報量の多さに改めて驚かされる。リハーサルにおける徹底した仕込みに加え、一寸の狂いもない必要十分な完璧なアウフタクト。歌劇場全体がマエストロの楽器と化しているといっても過言ではない。また、この日は、キャスト2名が入れ替わった反動で、タイミングが狂いそうになる箇所も散見されたが、ものすごいオーラとともにこれを瞬時に立て直す修正能力の高さは、圧巻である。しかも、そうした崩れを逆手にとり、舞台の緊張感を高める方向に導く神業的な推進力は、他の指揮者にはないマエストロの凄さかもしれない。

一昨日と異なり、第一幕では、マチネ公演らしい活力に漲っていた。一昨日の印象と異なり、合唱が存在感を持って聴こえてきたのが興味深かった。躍動感が上がったことで、ややスリリングな演奏となる箇所もあったが、幕切れまで概ね順調に進行した。

第二幕前半は、一昨日と同様の落ち着きを取り戻し、穏やかな表情で音楽が進行。マノンのアリアは、この日マノン役を演じたセレーナ・ファルノッキアの歌唱に、大きな破綻はなかったが、細部にわずかなムラが垣間見られ、ネトレプコの圧倒的な名歌唱を聴いた後では、どうしても物足りなさが残る。逆に言えば、ネトレプコが凄すぎたということではあるが。

第二幕後半のマノンとデ・グリューによる二重唱も、残念ながら音楽的な覚醒の境地にまでは至れなかった。マノン役のファルノッキアも、デ・グリュー役のユージフ・エイヴァゾフも、瞬発力はあり、決め所はしっかりとおさえてくるが、それ以外の台詞的なパッセージで声が沈んでしまうため、音楽的な緊張感が持続しない。スコアにおいてクレッシェンドの指示があり、管弦楽的にはもう少し盛り上がりたいところでも、歌とのバランスを保つため、ボリュームを抑え込まざるを得ず、一昨日と比べると、もどかしさの残る演奏になっていた。通常であれば、後味が悪いままに終わってしまうところだが、マエストロの凄さはここからであった。ギリギリまでピアニッシモのままぐっとこらえつつ、クライマックス直前でスッと手綱を緩め、オーケストラにスイッチを入れた結果、管弦楽と歌とのバランスを最上の状態に保ちつつも、クライマックスらしい高揚感を当たり前のように演出。この選球眼の鋭さには、鳥肌が立つほどの感銘を受けた。

20140308-05

間奏曲は、座席による印象の違いはあるにせよ、一昨日よりもやや解放感のある演奏。今から振り返ると、この日は、第三幕と第四幕が一昨日よりも速めのテンポで進行することが予定されていたため、間奏曲のテンポ感もそれに合わせていたものと推察される。こういうセンスは、オペラ指揮者らしい。

第三幕は、第二幕と同様、前半におけるマノンとデ・グリューの二重唱がいま一歩であったものの、一昨日と同様に、後半に向け、声の積み重ねによる壮大なクライマックスが構築された。デ・グリューの瞬発力は、特に後半において功を奏し、悲劇性を印象付けることに成功していた。なお、マエストロのタクトに関して、新たな発見は二点。一点目は、音楽的な高揚感の演出にあたり、オーケストラの内声部の響きを充填することで、ピット内から湧き上がるような盛り上がりを導き出す手法である。声と衝突しないため、歌手が掻き消される事態は避けられる。二点目は、後半のクライマックス後の落ち着かせ方で、大見得を切るような締め括り方を回避することで、舞台の進行に連続性をもたらすという手法である。次の場面を見越して、頂点に到達した直後にギアをローに入れ直すことで、舞台上の空気は、着実に次の場面へと向かってゆく。いずれの場合も、必要十分な効果を導くバランス感覚が問われることとなり、しかも、さりげなさを失わないための加減が極めて難しいことは言うまでもない。

第四幕は、前向きなテンポで無難にまとめ上げられていた。この日演じたマノンとデ・グリューの状態に鑑みると、秀逸な判断である。展開がスピーディーで、流れは良いが、最弱音のニュアンスは弱く、一昨日にネトレプコが描いた孤高の世界には及ばない。無いものねだりといえるかもしれないが。

なお、度胆を抜かされたのは、第四幕のコーダ8小節である。第四幕全般を通じて、最弱音の繊細さを描き出すことが出来なかったことを踏まえたのか、幕切れの管弦楽によるコーダのクレッシェンドの頂点を、あえてmf程度に抑え込んだ。これにより、やや健康的な印象であった第四幕全体の色合いが、淡色系のポートレートへと急に変化し、絶望的な荒野の中での喪失感を印象付けた。完全に心を射抜かれた瞬間であった。

20140308-06

カーテンコールでは、マエストロが万雷の拍手で迎えられ、有終の美を飾った。

20140308-07

終演後は、ホテルに直帰し、ビールとともに就寝。翌朝は午前4時半にチェックアウトし、タクシーでローマ・フィウミチーノ空港へ。チェックアウト時、ホテルのフロントで請求額を巡り、警察沙汰になって大騒ぎしている集団がいたため、手続に手間取り、危うく飛行機に乗り遅れるところであった。駐車場を利用したかどうかで、早朝から大騒ぎしないでほしい。LH243便にてフランクフルトへ。そしてNH204便にて羽田へ。帰路は無事にビジネスクラスにアップグレードされた。午前7時前に帰国し、自宅にタッチアンドゴーして、職場へ急ぐ。


(公演情報)

MANON LESCAUT

Teatro Costanzi
Musica di Giacomo Puccini

Sabato 8 marzo, ore 18.00

Direttore: Riccardo Muti
Regia: Chiara Muti
Maestro del Coro: Roberto Gabbiani
ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
Nuovo allestimento

Interpreti
Manon: Serena Farnocchia
Des Grieux: Yusif Eyvazov
Lescaut: Francesco Landolfi
Geronte: Carlo Lepore
Edmondo: Alessandro Liberatore
Oste: Stefano Meo
Maestro di ballo: Andrea Giovannini
Un Musico: Roxana Constantinescu
Sergente: Gianfranco Montresor
Lampionaio: Giorgio Trucco
Comandante: Paolo Battaglia
スポンサーサイト
[2014/03/16 15:27] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
イタリア行き(14年3月)①―ムーティ指揮ローマ歌劇場「マノン・レスコー」①
3月6日午前1時、NH203便にてフランクフルトへ。羽田発の深夜便は、ビジネス客を中心に、最近は特に人気が高いようだ。今回も満席に近い予約状況で、ビジネスクラスへのアップグレードが叶わず、プレミアム・エコノミー。隣が空席で、窓側2席を独占できたのが唯一の救いか。フランクフルトにてLH230便に乗り継ぎ、ローマ・フィウミチーノ空港へ。列車の接続が良く、午前10時半には宿泊先であるベストウェスタン プレミア ホテル ロイヤル サンティーナに到着。テルミニ駅前徒歩1分に位置するこのホテルは、内装がスタイリッシュかつ綺麗であり、日本の上級ビジネスホテルと遜色なく、バスタブもあり、1泊90ユーロの4つ星ホテルとして十分に満足できる水準といえる。

チェックイン時間前であったため、オスティエンセ駅脇のイータリー本店でショッピングを楽しみ、ダ・オイオ・ア・カーザ・ミア(Da Oio a Casa Mia)へ再訪。カルボナーラと仔牛肉のグリルを堪能。飾らない安定感が嬉しい。ホテルに戻り、しばし休息。

午後7時半、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮による「マノン・レスコー」。アンナ・ネトレプコ出演という話題性もあって、全公演のチケットが発売開始直後に完売になった注目の公演。今回もゲネプロ前後にストライキ騒動が勃発したが、早々に解決し、大事には至らず、一安心。このような騒動は、国際的な舞台へと転換しつつあるローマ歌劇場の現状に照らすと、時代錯誤の感を否めない。

20140306-01

筆者が確保した座席は、平土間10列目中央下手側。音響的には、前方席や階上席と比べると、オーケストラの音がやや遠のき、合唱の迫力も下がる。他方、声のよく通る独唱は、明快に伝わってくるため、やや落ち着いたテンションで鑑賞するには適した場所といえよう。マエストロ・ムーティの指揮姿も視界に収めつつ、舞台上の歌手を鑑賞することが可能な角度であった。

20140306-03

この日の上演であるが、声の積みあげによって構築される荘厳な様式観と、高ぶる感情がじわじわと溢れ出る二重唱、この二つの要素が見事に融合し、内容的な深さという意味では、近年稀に見るほどの名演となった。ネトレプコ登場組による上演は、2月27日の初日、3月2日に続き3回目で、この日が最終日であるが、回数を重ねたことで、演奏の質がさらに成熟してきたものと窺われる。

ミラノ・スカラ座との1998年録音と比べると、特に第一幕や第二幕のテンポ設定には余裕があった。しかしこれは、歌と語りの力を十分に引き出した結果であり、マエストロが歳を重ねたことに伴うテンポの弛緩と捉えるのはあまりに表面的である。管弦楽主体ではなく、あえて声の積み上げに注力した結果、舞台上にはエネルギーが充填されてゆき、歌い手たちの存在感が前面に表れる。従来の「マノン・レスコー」の演奏には見られなかった新境地といっても過言ではない。

また、通常であれば間延びしやすい旋律の数々において、マエストロらしいスマートな美意識が徹底されていたことも、注目に値する。例えば、第一幕のデ・グリューによるマドリガーレ、そして第三幕や第四幕の全般において、台詞やフレージングに伴う十分な揺らぎを兼ね備えつつ、基本的にはインテンポによるスムーズな運びで、音楽の流れがよくコントロールされていた。

20140306-04

オーケストラが、終始一貫して歌の引き立て役に徹した点も、忘れてはならない。この作品の場合、管弦楽が雄弁に書かれているため、演奏に熱が帯びると、オーケストラが歌に勝ってしまうという事態が容易に想定される。ミラノ・スカラ座やウィーン国立歌劇場であれば、管弦楽が鳴りすぎて歌が掻き消されてしまうであろう。ローマ歌劇場らしい明るい音色を基調としつつ、周到に整理され、そして練り込まれた和声観やニュアンス付けにより、安定感のある響きの潮流が生み出されていた。転調時に響きの色合いが瞬時に遷移してゆく様子は、実に見事であった。管弦楽的な観点からは、切れ味の不足やエッジの効きの悪さが指摘され得るであろうが、これはオーケストラの技術的なポテンシャルを踏まえた上でのマエストロの判断であり、スタンスの違いともいえるであろう。オーケストラによるフォルティッシモは、ここぞという数ヶ所のポイントに絞られており、中身の詰まった充実の響きが絶大な演奏効果をもたらしていた。

20140306-06

第一幕は、おとぎ話風のお芝居としてみせることで、どこか懐かしさを感じさせる仕上がりとなった。学生らと娘たちによる日常から始まり、マノンとデ・グリューによる愛の二重唱という非日常を描きつつ、最後は学生らと娘たちによる日常に戻る。第一幕だけで一つの独立した芝居として成立しており、各場面を的確に描き分けるには、プッチーニが書き残した各種の指示内容に対する深い洞察が求められる。この点において、マエストロのバランス感覚は超越していた。幕切れ前のAndante Sostenutoに至って、幕全体の設計が瞬時に腑に落ちたのは、今でも鮮明に記憶されている。

コーラスの場面の位置づけの明快さは、マノンとデ・グリューの二重唱にほとばしる感情を引き立てる。じわじわと滲み出る熱い想いは、上質な響きに支えられた管弦楽のベールをまとい、劇場全体を満たすのであった。

20140306-05

第二幕は、まずは冒頭のフルートの旋律に対する細かなニュアンス付けが見事であった。ネイティブにしか出来ない節回しであり、第二幕前半の表情を瞬時に理解させる名人芸であった。マノンとレスコーの二重唱は、導入部分にハッとさせるような驚きが伴わなかった点を除けば、上々の仕上がり。そして、マノンのアリアでネトレプコがパーフェクトな歌唱により圧倒的な存在感を示すと、劇場内の空気が高揚し、大きな期待感で包まれた。楽士たちによるマドリガーレとメヌエットのレッスンの場面は、上演によっては退屈させられることもあるが、シンプルな中にも奥深さが内在する演奏で、緊張の糸が切れなかった。

第二幕後半に入ると、マノンとデ・グリューの官能的な二重唱の世界が展開。プッチーニらしいカンタービレの色合いが無限大に拡がってゆくのを感じさせられた。ジェロンテが再登場してから幕切れまでは、快調な歩みで、期待を裏切らない安定感のある演奏。幕切れにおいても、それほど煽ることなく、格調を保ったまま、綺麗にまとめ上げていた。破綻するリスクを避けたのであろうか。ここはもう少し攻めてもよかったかもしれない。

20140306-08

間奏曲は、この日の上演の白眉の一つであった。旋律自体はこの世のものとは思えないほどに美しいのに、全体としては闇のどん底へと突き落とされるかような不安に駆られる。太いタッチで描かれた水墨画のような、枯れた表情として受け止められた。心の空白を打ち抜かれたかのような孤高の世界観だ。確かにこの作品の場合、第三幕以降、本当の意味での救いはなく、転落の一途なのである。そんな話の展開を暗示する見事な間奏曲であった。

第三幕前半は、間奏曲から続く闇の世界との対比で、愛の二重唱の美しさが引き立つ。マエストロの巧みなテンポ設定に導かれ、メリハリの効いた表情が活き活きと描かれる。デ・グリュー役のユージフ・エイヴァゾフに、スタミナ切れの兆候が見え隠れしたのが惜しかった。

第三幕後半は、点呼が始まってから幕切れに至るまで、音楽的な緊張感を保ったまま、ある種の儀式のように、一定の歩みで荘厳に進行。驚異的な構成力である。通常であれば、中盤のクライマックスが終わった段階で、リセットされてしまうであろう。群衆の悲しみ、嘆き、苦悩が、声の積みあげにより、ものすごいエネルギーを持って迫りゆく。デ・グリューの願いが聞き入れられる昇華の場面へと導きは、宇宙的な拡がりをみせる。現代社会の抱える矛盾に対する強い主張までもが宿っているかのように受け止められた。

第四幕は、マエストロとネトレプコの独壇場であった。果てしない荒野の中で、マノンの発する一言ひと言が、オーケストラの共感を呼び、ともに震え、そして観客の心に沁み渡る。限りない最弱音の演出するピュアな表情は、鳥肌ものであった。また、中盤の二重唱のクライマックスにおける盛り上がりも、鬼気迫るものがあった。

201403060-07

ところで、今回の演出は、マエストロの娘であるキアラ・ムーティが担当したが、マエストロの志向するオーソドックスな演出スタイルであることは良いのだが、センスの光るようなアイデアが見出せなかったことに加え、幕ごとの演出コンセプトの統一感の不足や、演技面での細かな味付けの不揃いや唐突さは拭えず、中途半端な結果に終わったといわざるを得ないように思われる。もっとも、美術的にはなかなか美しい舞台であり、また、マエストロ自身の持つ作品に対するイメージがよく伝わる演出であったことは確かだ。

舞台上から感じ取れるマエストロとネトレプコの絶大なる信頼関係は、今回のプロダクションの演奏面での成功を決定づけた。ネトレプコは、マエストロとの稽古を通じ、新たな境地に足を踏み入れたと思われる。力で押し切ることもなく、音程が上ずることもない。いい具合に力が抜け、イタリアオペラにふさわしい軽やかさが備わったことに加え、声が非常によくコントロールされており、細部に至るまで、理想的な状態で歌われていた。彼女のポテンシャルの高さは誰もが知るところではあるが、それを120%引き出したマエストロの凄さは、彼女自身が最もよくわかっているのではなかろうか。

20140306-09

カーテンコールでは、ネトレプコに対して割れんばかりの拍手と嵐のようなBravaが湧き上がる。そして、マエストロに対しては、劇場中から尊敬の眼差しとともに、熱い喝采が贈られた。奇跡的な名演であった。

20140306-10

終演は午後11時半すぎ。ホテルに直帰し、昼に購入済みのCasale del Giglioの白ワインで、興奮を醒ましつつ、就寝。


(公演情報)

MANON LESCAUT

Teatro Costanzi
Musica di Giacomo Puccini

Giovedì 6 marzo, ore 20.00

Direttore: Riccardo Muti
Regia: Chiara Muti
Maestro del Coro: Roberto Gabbiani
ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
Nuovo allestimento

Interpreti
Manon: Anna Netrebko
Des Grieux: Yusif Eyvazov
Lescaut: Giorgio Caoduro
Geronte: Carlo Lepore
Edmondo: Alessandro Liberatore
Oste: Stefano Meo
Maestro di ballo: Andrea Giovannini
Un Musico: Roxana Constantinescu
Sergente: Gianfranco Montresor
Lampionaio: Giorgio Trucco
Comandante: Paolo Battaglia
[2014/03/16 14:56] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
ローマ行き(13年11月)②―ムーティ指揮ローマ歌劇場「エルナニ」
11月30日は、ローマ駐在中の友人とともに、ローマ近郊のワイナリー、Casale del Giglioへ。いわゆる大人の社会科見学だが、オーナーから盛大なおもてなしをいただき、すっかりこちらのワイナリーのファンになってしまった。

12月1日は、前日までの晴天が打って変わって風雨の強い秋空に逆戻り。ローマ三越で土産物を購入し、有名レストラン、ケッコ・エ・カレッティエーレにて、フラスカーティのハウスワインに、ショートパスタのアマトリチャーナと、鮮魚のグリルを合わせ、美味しく頂いたが、付け合わせとして出された前菜が数人分の大盛りで、結果的に高くついてしまったのが残念。

午後4時すぎ、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮によるヴェルディ「エルナニ」。

20131201-01

今シーズンの開幕演目かつ新演出で、筆者がこれを鑑賞するのは、一昨日に続き二度目となる。発売初日に筆者が確保した座席は、平土間7列目上手より。真ん中よりも少し横に振れたことで、前方の視界が良くなり、マエストロ・ムーティの指揮も十分に視界に入るポジションとなった。

20131201-02

平土間前方で聴くオーケストラの音色は、オーケストラピットの壁に包まれて見事にブレンドされており、その複雑な味わい深さは、まさに夢のようである。明るく、柔らかく、虹色に輝くキメの細かい色艶は、温かな空間を演出し、舞台上から発せられる声を絶妙にサポートする。本来は1stヴァイオリンが陣取る指揮者の左側を木管楽器が縦一列に陣取るローマ歌劇場の特殊な楽器配置に、明確な意味と効果があることを再確認することができた。

20131201-04

ところで、一昨日はオーケストラピットでタクトを振るマエストロ・ムーティの指揮姿しか見ていなかったことに気付いたため、今回はちゃんと舞台も観てみた。マエストロが登場するローマ歌劇場の舞台は、台本に忠実であるとともに、目に刺さるような奇抜な演出が皆無であるため、安心して鑑賞することができる。今回のウーゴ・デ・アナによる演出も、古典的でありながら、見えないところでモダンなセンスが隠し味として効いており、完成度が高かった。ポイントを押さえた無駄のない構成は、ヴェルディでは特に引き立つ。舞台装置もオーソドックスなスタイルのものであるが、古臭さや凡庸さを感じさせることはなく、洗練された様式美によって構築されている。役者の立ち位置や細かい仕草にも目配りが行き届いており、観ているだけでシナリオが追いかけられる秀逸な演出プランであるといえる。

20131201-07

この日の上演においても、音楽の基本的な方向性は、一昨日と同様であった。もっとも、初日と二日目という2回の上演を経たことで、安定感と緊張感が適度なバランスで発揮されるようになり、プロダクションとしての円熟が進んだというのは、良い流れであると思われる。また、一昨日の上演では、マエストロは、どちらかというと、小さめの身振りで、歌手に自由に泳がせる場面が多かったように感じたが、この日は、シルヴァ役にイルデブランド・ダルカンジェロが初登場したということもあり、マエストロが立ち上がって手綱を引き締める場面が多く、その結果として、推進力や躍動感、そして劇性が高まったように感じられた。また、一昨日の上演時に流れに乗りきれていなかったエルヴィーラ役のタチアナ・ セルジャンに対して、マエストロは、冒頭から積極的にアウフタクトを出して、檄を飛ばしていたのが印象的であった。

20131201-06

キャスト陣に関しては、シルヴァ役が、迫力のあるイルダール・アブドラザコフから、綺麗めのイルデブランド・ダルカンジェロに交替したことにより、役者間のバランスが変わり、舞台全体の流れや各役者の与える印象が相当異なったものになっていた点が興味深かった。一昨日の上演では、シルヴァ役のアブドラザコフが影の支配者としての存在感を発揮し、エルナーニの運命を左右する役回りを果たしていたが、この日の上演では、むしろ国王ドン・カルロが新皇帝カルロ五世としての威厳の獲得に至る過程や、若きエルナーニとエルヴィーラの間の心情描写に、よりスポットが当たるようになったと思われる。もっとも、エルナーニがなぜ最後に自害しなければならないのか、その運命を決定づけた「誓約のモティーフ」と「角笛」の絶対性を印象付けるには、シルヴァ役において、リアルな嫌悪感を呼び起こすほどのアクの強さが欲しかったように感じた。

20131201-05

この日の上演では、開演前から劇場内が熱かった。週末ということもあり、近郊のオペラ愛好家が多数詰めかけたのであろう(昨年も感じたが、ローマ歌劇場は、曜日によって観客の雰囲気が異なり、平日よりも週末の方が熱気に満ちている傾向にあるようだ。)。幕が終わるごとに劇場内は爆発的な喝采に包まれ、ボルテージは鰻上り。第三幕の合唱曲「カスティーリャの獅子が目覚めんことを」では、桟敷席からアンコールを求める「ビス!」の掛け声が多数飛び、マエストロの判断でアンコールが行われた。アンコールの際に、タクトを振ることなく、舞台上を静かに見つめながら、合唱とオーケストラにエールを送るマエストロの横顔が印象的であった。筆者が座った場所の違いもあるが、各幕のフィナーレや、第三幕以降のスケールの大きさは、この日の上演の方が一昨日を上回っていたように感じられた。

20131201-08

カーテンコールの盛り上がりは、筆者がこれまでに観劇したローマ歌劇場の舞台の数々の中で、随一のものであった。ブラボーの大合唱とともに、足を踏み鳴らして歓喜する聴衆。マエストロ・ムーティの登場時には、マエストロ自身が驚くほどのブラボーの轟音が鳴り響き、感動的な一体感に包まれていた。

20131201-09

終演後はホテルに直帰し、ワイナリーで頂いた赤ワインを嗜みつつ、急いでパッキングをする。翌朝4時20分にホテルをチェックアウトし、タクシーでローマ・フィウミチーノ空港へ。さすがにこの時間ゆえ、30分もかからずに空港に到着してしまった。午前6時10分発のLH243便にてフランクフルトへ。約3時間の待ち時間をセネターラウンジで仕事をして過ごし、午前11時30分発のNH204便にて帰路につく。帰りの便は、予定通り、ビジネスクラスにアップグレードできたので、酒食もそこそこに熟睡。12月3日午前7時前に定刻通り、羽田に到着し、自宅に荷物を置いてそのまま出勤。仕事の合間を縫った超タイトスケジュールではあったが、充実した旅程であった。


(公演情報)

ERNANI

Teatro Costanzi
Musica di Giuseppe Verdi

Domenica 1 dicembre, ore 16.30

Direttore: Riccardo Muti
Regia, scene e costumi: Hugo de Ana
Maestro del Coro: Roberto Gabbiani
ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
Nuovo allestimento

Interpreti
Ernani: Francesco Meli
Don Carlo: Luca Salsi
Don Ruy Gomez de Silva: Ildebrando D’Arcangelo
Elvira: Tatiana Serjan
Giovanna: Simge Büyükedes
Don Riccardo: Antonello Ceron
Jago: Gianfranco Montresor
[2013/12/08 14:41] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
ローマ行き(13年11月)①―ムーティ指揮ローマ歌劇場「エルナニ」
11月29日午前1時すぎ、NH203便にて羽田からフランクフルトへ。約2時間の乗継でLH230便にてローマ・フィウミチーノ空港へ。フランクフルト行きは、多数の外国人搭乗客の影響を受け、ビジネスクラスが超満員。アップグレードに失敗し、プレミアム・エコノミーの利用を余儀なくされた。酒食はラウンジで済ませ、「エルナニ」の予習とフテ寝に徹する。

午前11時前に宿泊先であるHotel Diclezianoにチェックイン。テルミニ駅前の広場から一本入ったところにある4つ星ホテルは、アクセスもサービスも良好。バスタブ付きの快適な部屋に、一泊あたり税抜き100ユーロ程度で宿泊できるのが嬉しい。

正午すぎに市バスでトラステヴェレ地区に向かい、サンタ・チェチーリア・イン・トラステヴェレ教会に立ち寄った後、テスタッチョにある有名レストラン、フェリーチェ・ア・テスタッチョで昼食を摂る。サラリーマンや観光客で満席の賑わいだが、名物のトンナレッリ、ハンバーグ風の肉料理、ローマ風カルチョーフィのいずれも、悪くはないが、そこまで美味しいとは思えなかった。店員の対応も一見スマートだが、混雑ゆえに雑然としており、再訪したいという気分にはならない。昼食後は、夜食の買い出しを兼ねて、オスティエンセ駅脇のイータリー本店でショッピングを楽しみ、ホテルに戻る。

午後7時半頃、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮によるヴェルディ「エルナニ」。今シーズンの開幕演目で、二日前に初日を迎えたばかりの新演出だ。

20131129-01

発売初日に筆者が確保した座席は、2階層(1stOrdine)の舞台から6つ目の右手ボックス1列目。舞台上手側が僅かに見切れるが、マエストロの指揮を斜めから直視できる最高のポジション。音響的には、若干バランスが悪いものの、オーケストラピットや舞台上から発せられる臨場感のある音色を捉えることができるので、演奏者の視点からは嬉しい場所であった。

20131129-03

ローマ歌劇場の2013/2014シーズンは、直前になって、破産更生の可能性に反対した労組側がストライキを通告し、一時は開幕自体が危ぶまれたが、労組と市側とのギリギリの折衝の結果、ストライキは中止となり、11月27日は、大統領、市長、文化相、各国大使らを貴賓席に迎え、圧倒的な成功により無事に開幕初日を迎えることができたと報じられている。第三幕の合唱曲「カスティーリャの獅子が目覚めんことを」をアンコールに応える形で再度演奏したとの情報もあり、意気込みの強さが窺われる。なお、このあたりの情報は、有名なブログ「南イタリアの申し子~リッカルド・ムーティ / IL FIGLIO DEL SUD~IN OMAGGIO AL MAESTRO RICCARDO MUTI~」で詳しく紹介されているので参照されたい。

20131129-02

この日は二日目の公演にあたるが、開幕中止の危機という大きな困難をくぐりぬけて成長したローマ歌劇場の輝かしい姿が存在した。「誰も侵すことのできない音楽だけの離島」という報道記事の形容がピタリと当てはまる空間であった。

そもそもマエストロ・ムーティのローマ歌劇場での音楽造形は、スカラ座と遺した1982年の名演とは、その方向性を明確に異にしていた。鋭角的な力強さよりも、人間的な温かみを強く印象付ける。マエストロの激しい指揮振りは今回は見受けられず、むしろ優しく微笑みかけるような表情に包まれていた。同様の傾向は、昨シーズンの開幕公演「シモン・ボッカネグラ」でも感じられたが、今回の舞台では、より成熟したテクスチュアの下で際立っていた。

無論、音楽的な完成度の高さは比類ない。驚くべきは、マエストロの解釈や意図が、オーケストラや合唱、独唱の面々の身体に十分に染み渡っており、寸分の狂いも感じさせないほど、稀有な調和が生み出されていたこと。レガートを基調とした柔軟かつ巧妙なカンタービレが脈々と続く一方で、和声進行に伴う色合いの変化が克明に浮かび上がる。合いの手一つを採ってみても、そこには全く迷いがなかった。スコアに描かれた音符の一つひとつに至るまで、崇高な様式美に包含され、しかも主体性と一体性を持って活き活きと語りかけてくる。全てが驚異的であった。

20131129-04

さて、第一幕の第一曲の導入曲、第二曲のカヴァティーナ、第三曲のカヴァティーナは、いずれも1982年のスカラ座との上演に比べると、テンポがかなり落ち着いていた。初期のヴェルディという安易なレッテルから想起される熱血的・躍動的なコン・ブリオとは印象が違っていた。この日の偶然か、それとも今回の上演全般に通ずるのか、現時点では分からない。頻発するコロラトゥーラの走句を見越した安全策であった可能性も否定できない。このような状況は、幕開き直後には起こりがちではあるが、合唱の動きも若干ビハインド気味で、エルナーニ役のフランチェスコ・メーリの滑らかな歌唱と相まって、推進力が足りないようにも感じられた。出鼻をくじかれたと感じた聴衆もいたようで、キレ味のやや鈍かったエルヴィーラ役のタチアナ・ セルジャンに対してブーイングを浴びせる者もいた。

しかし、第四曲のシェーナに入ると、音楽に息吹が蘇り、躍動感が高まった。ドン・カルロ登場の足取りを表現する序奏部において、舞台上の色合いが一気に転換したのであるが、振り返ると、国王ドン・カルロという人物に対してマエストロが与えた性格表現に裏打ちされた処理であったと思われる。ともあれ、この瞬間を転機として、舞台全体のテンションはしり上がりに高まり、手に汗を握る瞬間の連続となる。

第五曲の第一幕フィナーレ冒頭で歌われるシルヴァのソロにおいて、イルダール・アブドラザコフが優美な旋律を深々とした声で歌うと、劇場内から爆発的な喝采が湧き上がり、この日の上演の行方が決定づけられた。抜群の安定感を誇る合唱に牽引され、申し分のないフィナーレとなった。

20131129-08

第二幕の第六曲、シルヴァとエルヴィーラの結婚を祝う混声合唱は、愛と優しさに満ちた柔らかい雰囲気に包まれる。マエストロと合唱の間で交わされるアイコンタクトの数々が微笑ましい。続く第七曲は、エルナーニとエルヴィーラの二人きりになった瞬間から、音楽の緊張感が一気に高まった。シルヴァの存在感が強いと、第七曲における三角関係が際立つので、面白さが倍増する。場面の切り替えの鮮やかさ、そしてテンションの高さと演奏効果を完璧に整えるバランス感覚の鋭敏さは、マエストロの独壇場であった。

第八曲のアリアでは、調子を上げてきたカルロ役のルカ・サルシが多彩な声色により要所を絶妙に歌い分け、淡々としつつもドスの効いたシルヴァ役のアブドラザコフとともども、第二幕のドラマを引き締めた。とりわけ印象的であったのは、カルロの歌う後半部のカバレッタ「Vieni meco, sol di rose」で、ここでは、言葉の意味に相応しく、ppの囁きの中にゾクゾクさせるほどのニュアンスが籠められており、誘われたエルヴィーラもこれでは万事休すといわざるを得ないシチュエーションが醸し出されていた。また、マエストロによる楽譜の処理も天才的で、オーケストラを聴いているだけで誰がどのような心情であるかが瞬時に理解できるというのは、驚異的であるというほかはない。酸いも甘いも嚙み分ける国王ドン・カルロの多面性と計算高さ、他方で若気の至りとも取れるような一面など、この場面でマエストロが描いたドン・カルロ像は、ある意味で通常の範囲を超越していたと思われる。

第九曲は、もともと台本において展開に拙速さが否めないため、特に2つの重要なキー・ポイント、すなわち、国王カルロがエルヴィーラを愛している恋敵であることをシルヴァが初めて知る場面、またエルナーニがシルヴァに角笛を渡す場面に関し、もう一呼吸欲しいと感じるが、マエストロの指揮のもと、キビキビとした動きの中で、各要素がピシッと枠の中に納まり、充実した幕切れとなった。

20131129-05

第三幕は、第十曲のシェーナと第十一曲の合唱の冒頭部分で、マエストロは究極のppを狙い、演奏者側も完璧に応えていたものの、劇場内の静寂が十分に保てていなかったのが残念。もっとも、初日の上演時にアンコール演奏が行われた合唱曲「カスティーリャの獅子が目覚めんことを」では、愛国心に訴え、そして劇場の再生と発展を願う演奏者全員の想いが、直球で客席に届けられたのを受け、劇場全体が静まり返った。第十二曲のフィナーレは、直前の合唱曲で力みすぎた反動のためか、やや印象が薄まってしまったように感じられたが、バランスの取れたアンサンブルで、上々の仕上がりであった。

第四幕は、ようやく幸せを見出したエルナーニとエルヴィーラの二人を引き裂くシルヴァという構図だが、その結末が宿命であることを終始一貫して暗示させるような音楽の展開が秀逸であった。シルヴァ役のアブドラザコフの存在感が圧倒的で、エルナーニとエルヴィーラによる愛の二重唱を完全に吹き飛ばすほどの迫力があったが、それはそれで台本上納得のゆく出来栄えである。

20131129-06

カーテンコールでは、主要キャスト陣にもれなく大喝采が送られていたが、中でもシルヴァ役のアブドラザコフと、エルナーニ役のメーリに、より大きなブラボーと拍手が飛んでいた。もちろん、マエストロ・ムーティに対しては、劇場全体から爆発的なブラボーの嵐が湧き上がった。舞台上の演奏者らからは、初日、二日目を終え、ようやく安定軌道に乗り始めたことに対する安堵の表情が窺われたように思われた。

20131129-07

終演は午後11時20分頃。足早にホテルに戻る。イータリー本店で買い込んだワインと食材とともに、しばし余韻に浸る。


(公演情報)

ERNANI

Teatro Costanzi
Musica di Giuseppe Verdi

Venerdì 29 novembre, ore 20.00

Direttore: Riccardo Muti
Regia, scene e costumi: Hugo de Ana
Maestro del Coro: Roberto Gabbiani
ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
Nuovo allestimento

Interpreti
Ernani: Francesco Meli
Don Carlo: Luca Salsi
Don Ruy Gomez de Silva: Ildar Abdrazakov
Elvira: Tatiana Serjan
Giovanna: Simge Büyükedes
Don Riccardo: Antonello Ceron
Jago: Gianfranco Montresor
[2013/12/08 14:28] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
欧州行き(12年11月)⑧―ムーティ指揮ローマ歌劇場「シモンボッカネグラ」
12月1日午前、LH1844便にてミュンヘンからローマへ。宿泊先であるヒルトン・ローマ・エアポートに午後2時すぎにチェックイン。翌朝のフライトを考えると、他に選択肢はなかった。ホテル併設のレストランで昼食を摂るが、絶対に外さないだろうと思ったペンネパスタが、自分で作った方が美味しいのではないかと思わせる低調さ。イタリアの玄関口としてのプライドはないのだろうか。

午後4時すぎ、列車でローマ・テルミニ駅へ。午後5時すぎにオペラ座に到着。リッカルド・ムーティ指揮ローマ歌劇場によるヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」。一昨日に引き続き、2度目の観劇となる。

20121201-02

前回は記さなかったが、2012/2013シーズンの開幕に合わせて、ローマ歌劇場のロビーやホワイエには、歴代のヴェルディ作品の衣装が一堂に会している。一つひとつ観てまわると、なかなか興味深い。

20121201-01

さて、発売初日にインターネットにより筆者の確保した座席は、平土間9列目上手側。この劇場は、平土間にも若干の傾斜があることに加え、ムーティの立ち位置が高いので、平土間席からでもムーティの横顔を窺うことができた。ローマ歌劇場の平土間席は、音響的にも視覚的にも理想的であった。

20121201-04

オーケストラの音色は、階上席で聴くと剝き出しになるが、平土間席で聴くと、オーケストラピットから立ち上がり、平土間に下りてくるプロセスを経ることで、見事にブレンドされ、艶を増す。生々しさも十分であり、コントラバスの刻みもズンと伝わってきた。加えて、至近距離から捉えるムーティの指揮姿からは、顔の表情や細かいニュアンスまで伝わってくるので、一昨日とは違った側面を知ることができたのも大きな収穫であった。

20121201-03

さて、上演の方だが、鑑賞した座席が異なるため、単純に比較はできないものの、一昨日よりも安定感が増し、練られた印象であった。フォルテにおける力強さとドラマチックさが増強されたように感じる。特に、第一幕第二場が圧巻であった。もちろん弱音のニュアンスも絶品である。このように、フォルテとピアノの表情の違いが明確になることで、この作品の内包する複雑な表情が、完全なる様式観の下で、多彩に描き分けられていた。

20121201-05

プロローグでは、フィエスコのモノローグの後奏部分をピアニシモのニュアンスをベースに仕立てた点が秀逸。抑制されたクレッシェンドの中に、フィエスコの悩みの深さが現れていた。前回も指摘したが、3拍子系モデラートの歌唱部分における歌回しの滑らかさは、模範的かつ理想的であり、キビキビとしたリズムと推進力が全体をキュッと引き締めるのも、ムーティの独壇場である。加えて、幕切れにおける民衆の歓喜の場面で、オーケストラを軽い響きでまとめつつ、合唱に関してはフォルティッシモを振り絞らせるという采配も素晴らしかった。改めてスコアに戻ってみると、プロローグにおいて、オーケストラ全体によるフォルティッシモが求められている場所は、パオロが男声合唱に対して選挙でシモン投票するよう呼びかけるシーンと、シモンとフィエスコの二重唱のクライマックスくらいしかない。スコアを読みながらこの日の演奏を振り返ると、フォルテとフォルティッシモの音色の違いを全て思い返せるというのは、驚異的である。

第一幕第一場では、この作品のテーマの一つである恋愛と親子愛が、天国的な美しさと優しさで、色彩豊かに描かれていたのが印象的。アメーリアのロマンツァへの導入となる前奏部分では、音楽自体が場を完全に演出できていたのに感心させられる。これにより、劇場全体にスイッチが入った。アメーリアとガブリエーレの二重唱、フィエスコとガブリエーレの対話と、極上の世界が続く。やはり白眉は、シモンとアメーリアによる二重唱。前回は捉えきれなかった陰影に富んだニュアンスが肌に伝わり、ヴェルディによるオーケストレーションの天才的なセンスを初めて体感できた。そして、クライマックスで、ムーティがグッと右腕を持ち上げて溜めを作ると、音楽の高揚は頂点に達し、感動的な瞬間が訪れる。クレッシェンドの運び方と、頂点に達した後のディミニエンドの図り方が完全に計算されているから、安っぽい演歌に成り下がらない。この格調の高さをどう表現すればよいのだろうか。

第一幕第二場には、ムーティの芸術家としての強い意思があった。キャスト陣、合唱、オーケストラともども、凄みを増してゆく。前回の鑑賞時に、オーケストラピットの中の状況を予習できていたため、エッジの効かせ方が平土間席に伝わるサウンドにどのように反映されるのかを具体的に学ぶことができ、感動を覚える。圧巻のクライマックスであった。

第二幕以降は、劇場内の観客の集中力が続いておらず、騒音が多かった。子供の泣き声や、携帯電話の着信音が響いたのには、ガッカリさせられた。こういう流れになると、音楽が化けることはあまり期待できなくなってしまう。ムーティのタクトからは、何とか空気を戻そうという様々な意図が感じられたが、悪循環を断ち切ることができなかった。第二幕以降の仕上がりに関しては、一昨日の上演の方が良かったかもしれない。もっとも、これはあくまでも比較論であり、練り上げられた心情表現の数々は、圧倒的な説得力を持っていた。

20121201-06

キャスト陣に関しては、前回と同様、見事なバランスであったが、フィエスコ役のドミトリー・ベロセルスキーが絶好調で、圧倒的な存在感を示していた。ガブリエーレ役のフランチェスコ・メーリも、伸びがある明るい声で、役柄に合っている。響きの相性が良いのか、オーケストラの内声部と見事にハモっていたのには、驚かされた。アメーリア役のマリア・アグレスタについては、個人的には、第一幕でもう少ししなやかさが欲しいと感じたが、第二幕における筋の通った主張の強さに触れ、今回のキャスティングの意図に納得。シモン役のゲオルグ・ペテアンは、やや小粒ながら、役柄に求められる性格をコンパクトに示し、物語の中にうまく溶け込んでいた。シモン役に焦点を当てるのではなく、5人の主要キャストの間で繰り広げられるドラマに焦点を当てようというムーティの意向によるものであろう。パオロ役のクイン・ケルシーは、出すぎず、しかしアクはきちんと出して、この憎まれ役を見事に演じ、周りを支えていたが、損な役回りのためか、観客の反応は今一歩だった。

アドリアン・ノーブルの演出は、絵画のように美しい舞台。シンプルながら、出演する歌手らが引き立つ。ムーティが指揮する舞台では、演出もオーソドックスかつスマートで、安心して鑑賞できるのが特徴の一つだ。演技面や立ち位置の構成において、棒立ちになる部分も無くはなかったが、各役者の顔の表情はさすがのもので、平土間席で観ると、迫力があった。

20121201-07

カーテンコールにおけるブラボーの数は、一昨日よりも多かった気がする。週末の公演であったため、遠路はるばる駆けつけたファンが多かった模様だ。ただ、同時にマナーの悪い観客も相変わらず多く混じっている。客席からノイズが出るたびに、それを制する「シーッ」という大合唱になるのだが、そもそもこの劇場の観客は、ノイズを出さないということが出来ないものだろうか。この日に座った平土間席では、周囲から絶えず発生するノイズに邪魔をされ、弱音のニュアンスを十分に堪能し切れなかったのが悔やまれる。

終演後は、列車でフィウミチーノ空港に向かい、ホテルに直帰。翌朝4時に起床し、LH243便にてフランクフルトへ。そして、NH204便に乗り継ぎ、帰国。


(公演情報)

Simon Boccanegra
Musica di Giuseppe Verdi

Teatro dell'Opera
Sabato, 1 Dicembre, ore 18.00
Nuovo allestimento

Direttore - Riccardo Muti
Regia - Adrian Noble

Simon Boccanegra - George Petean
Maria Boccanegra (Amelia) - Maria Agresta
Jacopo Fiesco - Dmitry Beloselskiy
Gabriele Adorno - Francesco Meli
Paolo Albiani - Quinn Kelsey
Pietro - Riccardo Zanellato
Un Capitano dei balestrieri - Saverio Fiore
Un’ancella di Amelia - Simge Bűyűkedes

ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
[2012/12/02 18:58] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
次のページ
プロフィール

mashi1978

Author:mashi1978
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。