ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年3月)②―大野指揮リヨン国立歌劇場「パルジファル」
3月9日午前7時すぎ、ホテルをチェックアウトし、チューリッヒ空港へ。LX530便にてリヨンへ。リヨンは日差しが暖かく、春の兆しが感じられる。午前11時ころ、宿泊先であるイビス・リヨン・パール・デューレ・アールにチェックイン。ちなみに、スイスから移動してくると、フランス人の自由さが際立って面白い。

正午すぎ、有名店であるRestaurant La Tessaへ。ロブスタースープのパイ包みと鳩のローストのフォガグラソース添えをいただく。悪くはないが、値段相応な感じであった。

いったんホテルに戻り、しばし仮眠。午後5時すぎに、リヨン国立歌劇場へ。この日は、大野和士指揮によるワーグナー「パルジファル」。今シーズンのプレミエである。3月6日が初日の予定であったが、技術的な問題により初日の公演がキャンセルされたため、この日が実質的な初日となった。なお、今回のプロダクションは、メトロポリタン歌劇場とカナディアン・オペラ・カンパニーとの共同制作である。

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筆者の座席は、Parterre4列目の下手側。オーケストラの音色にはまとまりがあり、また、舞台も間近なため、歌手の表情の一つひとつまで鑑賞することができた。本当はオーケストラピットの中も観察したかったのだが、リヨン国立歌劇場のシステム上、座席を選ぶことができないので、やむを得ない。オーケストラピットが深かったため、マエストロの指揮姿もかすかに確認できるにとどまった。

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音楽的には、ドイツ的な重厚さよりも、横のラインを重視した草食系のアプローチ。リヨン国立歌劇場管らしい色彩感と艶のあるサウンドとともに、流暢な旋律美が展開した。複数の動機が重なり合う箇所で、両者の香りが淡く混じり合い、そしてスムーズに遷移したのも秀逸。マエストロらしい様式感と構成美が隅々まで徹底されていた。

第一幕では、断片的な動機において、オーケストラが探り合ってしまい、響きの座りの悪い箇所も見られたが、この点は、回数を重ねれば改善されてゆくだろう。第一幕の聴きどころである場面転換の音楽や聖杯の儀式では、管弦楽の遠近法が如何なく発揮され、特に見事であった。繊細かつ軽やかに結晶化した響きは、このコンビの真骨頂といえるだろう。

第二幕に入ると、ワーグナーらしい激情的な表現が随所に噴出するようになった。響きに重厚さが伴い、手に汗を握る展開。しかし、音楽自体は理知的であり、断片的な動機の数々がよく噛み合い、並々ならぬ緊迫感を表現されていた。

第三幕では、すべてが高みにおいて結実した感があった。とりわけ、洗礼と聖金曜日の情景からフィナーレにかけては、豊麗な旋律の数々が次から次へと溢れ出し、音楽による救済が達成された大団円であった。

全体を通じ、緊張感が削がれる瞬間が全く無かったのは、驚異的である。各動機の処理が終始一貫していたため、素直に聴いていれば、その作品構造が自然と頭に入ってくる。マエストロのタクトも、普段以上に余裕があり、周到かつ綿密な準備に裏付けられた自信に満ち溢れていた。合唱団の充実ぶりと安定感も特筆に値する。

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キャスト陣の中では、グルネマンツ役のゲオルク・ツェッペンフェルトが、歌唱と演技の両面で、実によい働きをしていた。クンドリ役のエレナ・ジドコヴァも、とても魅力的。複雑な役柄をチャーミングに描き分けていた。これら二名の好演により舞台全体が非常に引き締まったのがこの日の成功の要因の一つともいえる。パルジファル役のニコライ・シェコアは、表現が若かったことに加え、見せ場における迫力もいま一つな感じで、やや物足りなさも感じたが、演出のコンセプトにはむしろ適合していたようにも思われた。

フランソワ・ジラールによる演出は、非常に見応えがあった。舞台装置に賭ける意気込みがすごい。第一幕と第三幕は、舞台奥に向けて盛り土をし、中央を小川が流れるという意欲的なもの。上手側と下手側で男女を分離するという象徴的な設定から開始し、最後に両者が融合するという組立ては、非常に説得力があった。これに対し、第二幕は、高い崖に左右を挟まれた舞台一面に赤い水が張られていた。体当たり的な演技の数々は、観客の心をつかむ。花の乙女の誘惑からクンドリによる求愛の拒絶へと場面が進行するのに合わせて、女性たちの純白な衣装が赤く染まってゆく情景は、圧巻であった。舞台背後には、巨大なスクリーンが置かれ、宇宙的な広がりが映し出されていたのも印象的。いわゆる宗教色は薄かったが、未来に語り継がれるべきパルジファル演出であったと思われる。

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カーテンコールの盛り上がりも、この日の上演の充実度を示唆していた。とはいっても、終演は午後11時40分。体力的には限界に近い。終盤では、周囲のお客さんの多くも、船を漕いでしまう状況にあり、平日の夜に観劇するには、いささか無理な演目であることを再認識させられた一夜でもあった。


(公演情報)

Parsifal
Richard Wagner
Vendredi 09 Mars 2012 à 18h

Direction musicale : Kazushi Ono
Mise en scène : François Girard

Nikolai Schukoff : Parsifal
Elena Zhidkova : Kundry
Gerd Grochowski : Amfortas
Georg Zeppenfeld : Gurnemanz
Alejandro Marco-Buhrmester : Klingsor
Kurt Gysen : Titurel
Tehmine Yeghiazaryan : Fille-fleur 1
Ivi Karnezi : Fille fleur-2
Katharina von Bülow : Le Second Ecuyer / Fille-fleur 3
Heather Newhouse : Le Premier Ecuyer / Fille-Fleur 4
Sonja Volten : Fille-fleur 5
Ulrike Helzel : Une voix / Fille-fleur 6
Daniel Kluge : Le Premier chevalier
Lukas Schmid : Le Second chevalier
Olesiy Palchykov : Le Quatrième Ecuyer
Pascal Pittie : Le Troisième Ecuyer
Orchestre, Chœurs et Maîtrise de l'Opéra de Lyon
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[2012/03/13 21:40] | 海外視聴記(リヨン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
リヨン行き(11年10月)②―大野指揮リヨン国立歌劇場「鼻」
10月16日、前日に引き続き、リヨン市内は穏やかな晴天に恵まれていた。昼すぎにホテルを出て、Place Bellecourに面したL'ESPACE BRASSERIEへ。ここは、今回の旅程中に入ったレストランの中で、唯一当たりといえるブラッセリーであった。店内は、地元の人々で溢れていて、活気がある。鴨胸肉の燻製、砂肝のコンフィ、フォアグラを添えたサラダと、リヨン風ソーセージをいただいたが、どちらも素材の旨みが活かされた仕上がりで、ブラッセリーらしい食事を楽しむことができた。

ランチの後、徒歩でオペラ座へ向かう。この日の演目は、ショスタコーヴィチ「鼻」。今シーズンのプレミエで、今年7月のエクサン・プロヴァンス音楽祭でも上演された話題の演目である。早い時期から完売状態であり、開場前のチケット売り場は当日券を求める人で溢れていた。

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筆者に割り当てられた座席は、4EME BALCONの上手側サイド。オーケストラピットの真横の座席だったが、幸いにも舞台が見切れることはなかった。マエストロと舞台上との間のやり取りを眼前に把握することができ、筆者にとっては絶好のポジションである。

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さて、上演の方だが、この作品については、筆者自身の勉強不足ゆえ、台本や楽譜に照らしてコメントできる立場にはない。しかし、筆者の中に激震が走ったことは確かだ。

実のところ、終演直後は、凄い上演だったな、という程度の感覚であった。しかし、一夜明けてみると、この日の上演において、筆者自身がとてつもないエネルギーの塊を受け止めていたことに気付かされた。夜は、普通によく眠ることができ、睡眠不足の感はないが、一晩中、不思議な夢の数々に襲われ、何度か目が覚めた。原因は不明だが、他に思い当たるところはなく、この日の上演が筆者の中に何かを呼び起こしたのではないかと推察される。

演奏面は、98%の完成度。驚異的なほどの水準の高さだ。この作品は、楽器編成は巨大だが、多種多様な楽器の組合せによる室内楽が全曲の大半を占める。一見すると軽やかにも感じられるが、その響きは、斬新で前衛的。オーケストラの個々のパート、そして歌手のアンサンブルは、アクロバティックなフレーズの連続で、それらがスコア上で極めて複雑に入り組んでいる。この極めて複雑怪奇な作品を、ライブで、ここまで高いクオリティで演奏するのは、並大抵のことではない。磨き抜かれた個々の響きは、完全に結晶化していたし、精緻に構築されたアンサンブルは、実に見事。とりわけ第三幕後半の盛り上がりは、神がかり的と言っても過言ではないほどであった。

そして、歌手も合唱もオーケストラも、気合いが入っていることは、手に取るようにわかった。しかし、なぜか舞台上に熱が帯びてこない。どこまでもクール。これは、「鼻」という作品のシニカルさによるものだろうか。

演出も、センスのよい構成で、随所に目を惹く仕掛けがあった。第二幕の新聞社の場面で、動きが少なく、若干退屈に感じられた以外は、演技面でもテンポ感があり、流れがよい。ショスタコーヴィチの雰囲気と世界観を明快に示していたのではなかろうか。もっとも、最後の場面、すなわち鼻が元に戻る場面で、鼻がピストルで撃たれて粉々になるという影絵が映し出されていたが、この作品では、鼻という人格は死んだわけではないようにも思われ、違和感があった。

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終演後、楽屋口でマエストロとお会いした。ぐったりとお疲れのご様子。取り扱っている作品の重さ、全身全霊で上演に立ち向かう指揮姿、連日の過密スケジュールに鑑みれば、むしろ当然だろう。長時間引き止めるのも申し訳ないので、筆者の感動を簡潔にお伝えして、会場を後にした。

夕食は、前回も訪れた有名店、ブラッセリー・ル・ノールで。セットメニューで、テリーヌと子牛の肩肉のグリルを選択したが、印象の良かった前回と異なり、全般的に素材のクオリティが落ちた感じで、いまいちであった。値段相応といえばそれまでかもしれない。この日の印象だけからは判断しかねるが、仮に、ポール・ボキューズ系列もコスト削減と低価格路線を歩み始めているとすれば、非常に残念だ。午後10時頃、ホテルに戻り、就寝。

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翌日は、午前4時半に起床し、午前5時にホテルを出て、空港へ。そして、午前7時5分発のSN3594便にて、どんより曇り空のブリュッセルへ戻り、職場へ直行。いつもながら、ブリュッセル航空のサービスレベルの低さには閉口させられるが、他に選択肢がないので、やむを得ない。この国においては、競争原理がもう少し機能した方がいいように思う。

今回の旅程は、週末のみであったが、非常に多くのことを学ぶとともに、たくさんの刺激を受けることもできた。世界の第一線に立つということの意義を実感できた気がした。身が引き締まる想いで、ブリュッセルに戻った。


(公演情報)

Le Nez
Dimitri Chostakovitch
Dimanche 16 Octobre 2011 à 16h

Direction musicale : Kazushi Ono
Mise en scène et vidéo : William Kentridge

Vladimir Samsonov : Kovaliov
Alexandre Kravets : Le Nez - Yarychkine
Andrey Popov : Le Sergent de quartier
Vladimir Ognovenko : Ivan Yakovlevitch - Khozrev-Mirza
Claudia Waite : Praskovia Ossipovna - Une marchande - Une dame respectable
Vasily Efimov : Ivan, Le premier fils - Un premier nouveau venu
Yuri Kissin : L'Employé du bureau de la presse - Le second fils - Un opportuniste - Quelqu'un
Gennady Bezzubenkov : Un docteur - Domestique 8 - Un père - Un second nouveau venu
Margarita Nekrasova : Pélaguéia Grigorievna Podtotchina
Tehmine Yeghiazaryan : La fille de Madame Podtotchina - Une mère

Orchestre et Chœurs de l'Opéra de Lyon
[2011/10/18 07:23] | 海外視聴記(リヨン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
リヨン行き(11年10月)①―大野指揮リヨン国立歌劇場管弦楽団
10月15日朝、SN3587便にてリヨンへ。飛行機の出発は午前9時50分なので、ゆっくりできるかと思いきや、この日は、工事の影響で空港行きの列車に大幅な遅延が生ずるとの情報を前日にネットで入手したことから、移動手段をバスに切り替えざるを得なくなり、午前7時には家を出なければならなかった。

正午ころ、リヨン市内に到着。この日の宿泊は、イビス・リヨン・パール・デューレ・アール。世界中でチェーン展開をしているIbis系列のホテルである。設備は簡素だが、部屋も明るく綺麗で、フロントの対応も良い。最上階の部屋からは、フルヴィエールの丘に沈む夕日も拝むことができ、居心地は上々であった。

さて、チェックインの後、事前にチェックしてあったレストラン、le bec & Takaに向かう。しかし、到着してみると、店名が変わっていて、中の様子も違う。なんと1週間前にリニューアルオープンしたばかりだとのこと。かつての2つ星レストランの面影はなく、東京にもよくありがちなカフェレストランに成り下がっていた。味は言わずもがな。大ハズレ。

早々に引き上げ、旧市街やフルヴィエールの丘などを観光し、ホテルに戻り、しばし休憩。

そして、午後7時半頃、気を取り直して、オペラ座へ。大野和士指揮リヨン国立歌劇場管弦楽団による演奏会だ。会場内には、リヨン在住の日本人が多数詰め掛けており、リヨン日本人会の組織力にも驚かされた。

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この日の座席は、Parterre H列の下手側。舞台上は、現在上演中のショスタコーヴィチ「鼻」のセットのままで、逆にそれが独特の雰囲気を醸し出していた。会場がオペラハウスであり、適切な反響板が存在しないため、音響的にはデッド。しかも、筆者の座席は、平土間前方よりであったため、管楽器の音が遠く聞こえる。それゆえ、上層階であれば、また違った印象となるであろう。ともあれ、音の分離は比較的良好で、スタジオで聴いているかのように細部まで克明に聞こえ、また弦楽器の音圧も十分に感じられたので、全体としてみれば悪くないポジションだったといえる。

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プログラムの前半は、プロコフィエフの交響的絵画「夢」と、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。どちらも、ショスタコーヴィチが交響曲第1番を作曲する少し前の時期に作曲・初演されており、青年ショスタコーヴィチの眼には、最先端の音楽として映っていたであろう作品といえる。

さて、一曲目のプロコフィエフの交響的絵画「夢」だが、プログラムの冒頭ということもあり、響きのまとまりという観点からは、いま一歩な仕上がりであった。
マエストロは、丁寧な足取りで、手堅くアンサンブルをまとめつつ、後半に控える山場に向け、淡々と音楽を進めていく。そして、周到な準備の下で訪れたクライマックスでは、それまでは堅い表情であったオーケストラから豊麗な音楽が湧き上がった。このあたりの運び方は、さすがである。
曲全体を通じて、歩調が終始一貫していたため、緊張感のある音楽創りになっていたと思われる。

二曲目は、リヨン国立歌劇場管弦楽団の首席ソロ・コンサートマスター、カジミェシュ・オレホフスキをソリストに迎えて、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。
この曲は、技術的にも、アンサンブル的にも、極めて難易度が高い作品である。3管編成で、チェレスタ、ピアノ、そして2台のハープまで要するが、作曲技法としては、極めて室内楽的と思われ、様々なパートが複雑に絡み合いながら、音楽が進行する。それゆえ、バランスや統一感を失わずに演奏しきることは、容易なことではないが、身内で固めた布陣ゆえに、指揮者、独奏、オーケストラの三者の呼吸はぴったり。マエストロの的確なバトン捌きにより、楽器の噛み合わせが見事に浮かび上がっていた。また、オレホフスキの持ち味である艶のある歌回しにより、独奏ヴァイオリンに与えられた官能的な旋律が伸びやかに奏でられていたのも印象的であった。

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プログラムの後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第1番。ショスタコーヴィチというと、イメージ的には、荒々しさや重苦しさが先行するが、この作品は、ショスタコーヴィチの19歳のときの作品。中後期の作品に通ずる雰囲気も垣間見られるが、全体としては、若々しく、そして溌剌とした音楽だ。

この日の演奏は、彼らが現在上演中の「鼻」を通じて会得したと思われる精緻な感覚が存分に発揮された演奏で、いわゆるショスタコーヴィチ的な演奏とは一線を画す名演であった。

第一楽章は、キレのあるリズムが印象的。場面によって、リズムの切れ味が絶妙にコントロールされていて、軽快な響きから、やや荒々しい日々イまで、グラデーションのように変化する。音楽が盛り上がるのに合わせて、微妙にテンポを引き締め、高い緊張感を演出するマエストロのバトンテクニックには、驚かされる。また、途中に現れる伸びやかなカンタービレも見事。厳格なテンポからしばし開放されたオーケストラからは、巨大なうねりが生じた。

第二楽章も、スピード感のある展開。ピリッとした雰囲気の中、コーダに向けて一気に駆け抜けた。粗が生じないところが素晴らしい。

そして白眉は、第三楽章。オーボエの哀愁に満ちた旋律に始まる緩序楽章は、若々しくもあり、また中後期のショスタコーヴィチの深遠な世界をも予感させる。各々の楽器がよく鳴っていて、歌心も深く、実に内容の詰まったカンタービレであった。静まり返った場内は、深い感動に包まれた。

そして、アタッカで開始される最終楽章では、重い静寂に包まれながら進行する前半部分の響きの透明感や、クライマックスに向けての劇的な盛り上がりに、心が惹き込まれる。思えば、あっという間に、最後の壮大なトゥッティに到達していた。

交響曲第1番の出来には、マエストロ自身も非常に満足したようで、オーケストラのメンバーに向け、充実感に満ちた笑顔で、小さなガッツポーズを送っていたのが、とても印象的であった。

万雷の拍手に応えて演奏されたアンコールは、ショスタコーヴィチのジャズ組曲第2番から「第2ワルツ」。哀愁に満ちた豊潤な音色が舞台上から溢れ出した。会場内は音楽の悦びに包まれ、図らずも涙が出そうになる。

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リヨン国立歌劇場管弦楽団は、名手も多いが、個々の技術水準の平均を採ると、他の名門オーケストラと肩を並べるレベルとはいえない。しかし、フランスのオーケストラらしい華やかな色彩感に加え、機動的で、緻密なアンサンブルを構成する力を兼ね備えており、ラテン系の歌心も兼ね備えている。しかも、活気とやる気に満ち溢れている。この日は、弦楽器の人数が12-10-8-6-5という小さめの編成であったが、その特徴が存分に発揮されており、小回りの効いたアンサンブルから、豊潤な響きまで、幅の広い表現を楽しむことができた。

そして、何といっても、この日の立役者は、マエストロ大野である。

今年4月の「ルイザ・ミラー」でも感じたが、不思議なことに、彼が指揮台に立った時点で、これから演奏される音楽のビジョンが明快に浮かび上がる。そのビジョンとは、想像を絶するほどの研究に支えられた客観的な設計図であり、あらゆるパーツの位置付けが完璧に計算されている。

しかし、実際の演奏は、分析結果の披露とは全く異なる。むしろ、そういった背景の存在は、表面的には全く感じさせない。彼が、アウフタクト(しかも、客席からは気付かれないようにしつつも、オーケストラのメンバーに対しては、通常よりもさらに前から周到に予感させているところが凄い。多くの場合、アウフタクトは、直前になってようやく示されるものだ。)とともに、設計図上で事前に準備済みの引き出しを開けると、待ってましたとばかりにオーケストラのメンバーがそこに飛び込み、十分落ち着きを保ちながらも、ベストのタイミングで、伸びやかに音楽を奏ではじめる。カンタービレが湧き上がる場面、そして音楽が高揚感を増していく場面では、大きく視界が開けるとともに、舞台上に華やかな香りが立ち昇り、また、大きなうねりが発生する。まるで魔術師だ。

個々のパーツを取り出してみると、特段珍しいことはしておらず、とてもオーソドックス。しかし、全体を通して聴いてみると、論旨が明快で、非常に筋が通っている。終演後の充実感の高さは、格別である。

改めてマエストロの凄さを肌で感じた演奏会であった。

終演後は、メルシエール通り沿いの有名店、Le Merciereで、エスカルゴのパイ添えと、フォアグラを。活気のあるブションの雰囲気で、味も悪くはなかった。午後11時という時間帯と使い勝手を考えると、知っておいて損のない店といえる。

演奏会の感動が醒めぬうちにホテルに戻り、就寝。

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(公演情報)

Samedi 15 Octobre 2011 à 20h30
Soirée Slave

Direction musicale : Kazushi Ono
Kazimierz Olechowski : Violon
Orchestre de l'Opéra de Lyon

Serge Prokofiev : Rêves, poème symphonique op. 6
Karol Szymanowski : Concerto pour violon et orchestre n° 1, op. 35
Dimitri Chostakovitch : Symphonie n° 1 en fa mineur, op. 10

[2011/10/18 07:16] | 海外視聴記(リヨン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
欧州行き(11年4月)②―大野指揮 リヨン国立歌劇場 「ルイザ・ミラー」
4月25日朝、LH1074便にてフランクフルトからリヨンへ。
移動中の機内では、朝食として、今が旬のホワイトアスパラガスのサラダを食す。
リヨン空港から市内にあるPart-Dieu駅まではトラムで30分。トラムは午前5時から深夜まで動いていて使い勝手がよい。

この日の宿泊は4つ星のRADISSON BLU LYONの36階。
部屋からはイタリア・ルネッサンス様式の美しい街並みが一望できる。
正午すぎにチェックインし、早速旧市街へ。

ポール・ボキューズのセカンド店の一つであるブラッセリー・ル・ノールを訪問。
さすがは食のリヨン。各料理の正式名称まで確認する余裕はなかったが、フォアグラのアミューズ、テリーヌに続き、焼きブレス鳥のホワイトソース、カマンベールチーズ、そしてデザートとして、レモンソルベにウオッカをかけたコロネルボール。どれも筆者の過去のベストを更新する深い味わいの逸品であった。フォアグラの塩分と甘い白ワインの組み合わせは絶妙で、ホワイトソースに秘められた引き出しの多さも印象的であった。白1杯と赤ハーフ1本。

午後2時半、いったんホテルに戻り、オペラ座へと急ぐ。

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本日の演目は、大野和士/リヨン国立オペラによるヴェルディ「ルイザ・ミラー」。今回の欧州行きのメインイベントの一つである。
リヨンオペラの場合、ネット予約時には座席が選べない。筆者に割り当てられたのは、最前列下手側の端で、マエストロとオケピットをまさに目の前で観察することができた。弦は12-10-8-6-4。

blog20110425-02

この日は、マエストロの登場時から、すでに音楽は始まっていた。マエストロは、リズムを引き締め、音楽を前に進めつつ、ヴァイオリンや木管楽器から豊かな旋律美を上品に引き出していた。そして、感情の高まる場面では、低弦は地響きを立て、また畳み掛けるようなアチェルランドも伴う。

ルイザ・ミラーは初期から中期への過渡期の作品であり、なかなか名演に恵まれないが、今回は、中期以降のヴェルディ作品に見られる感情表現の響きの片鱗が随所に浮かび上がり、マエストロのスコアの読みの深さに改めて感銘を受けた。

演奏が素晴らしかったのは言うまでもない。幕が下りると、満員の観客は総立ちに。あっという間の2時間半であった。

歌手は、若手のメンバーで構成されていたが、中でも主役のルイザとロドルフォが抜きに出ていた。これでミラーやヴァルターについてもより深みの出せる配役であればと思ってしまうが、それを言うのは贅沢かもしれない。間近で見たというのもあるが、特に各役者が放つ眼力の説得力には関心させられた。

演出面では、メタリックなダークグレーの壁で全体を覆うセットを基本とし、場によって、吊り物で仕切ったり、赤い幕を引いてその前で演技をさせたりするという手法が採られていた。場面転換による待機時間がないため、集中力が途切れずに済む。非常に勉強になった。

終演後、楽屋口でマエストロと面会。マエストロ曰く、リヨンオペラはまだ若いとのこと。確かに、他の歌劇場と比べると、演奏者にも観客にも若い層が多く、そのためか、特に後半では、集中力が切れそうになる兆候がかすかに見え隠れした(すかさず檄を飛ばして流れを引き戻すマエストロの手腕はさすがである。)。しかし、変に慣れすぎてはいないため、演奏者は常に全力投球であり、少なくともヴェルディにおいては、そのテンションの高さが大きくプラスに働いたように思われる。マエストロにリヨン再訪を約束し、オペラ座を後にした。

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興奮冷めやらぬ中、オペラ座から徒歩5分に位置するレオン・ド・リヨンへ。
老舗星付きレストランだったが、2008年にリニューアル。期待しての訪問だったが、給仕の人手が少なく、サーブのタイミングが間延び気味。料理も、アスパラガスはパサついていて、添えられたホワイトソースも凡庸。鴨の網焼きからもジューシーさを感じられず、全体として、ブラッセリー・ル・ノールとの差は歴然。早々に切り上げて、ホテルに戻った。


(公演情報)

Luisa Miller
Giuseppe Verdi

Direction musicale : Kazushi Ono
Mise en scène : David Alden
Ermonela Jaho : Luisa
Adam Diegel : Rodolfo
Riccardo Zanellato : Le Comte Walter
Sebastian Catana : Miller
Mariana Carnovali : Federica
Alexey Tikhomirov : Wurm
Orchestre et Choeurs de l'Opéra de Lyon
[2011/04/27 14:42] | 海外視聴記(リヨン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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