ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[--/--/-- --:--] | スポンサー広告 |
ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢―第29回東京定期公演「ヴァイル、プーランク&ラヴェル」
7月26日午後7時前、サントリーホールへ。マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢による第29回東京定期公演。

ミンコフスキによる日本のオーケストラとの待望の初共演という触れ込みで、OEKらしい意欲的なプログラムが組まれたが、通好みの選曲が裏目に出たのか、集客は4割程度の非常に寂しい状況。1階席は、7割程度埋まっていたが、2階席は、ステージを囲むブロックを除くとガラガラで、CブロックやLD、RDブロックは、最初は20名くらいしかいなかった。このような良質なプログラムで集客できない状況に鑑みると、十分に定着したようにも思える日本のクラシック文化もまだまだ未成熟ということなのであろう。

もっとも、会場に足を運んだ音楽ファンの眼は真剣そのもので、ホール内は場の空気や静寂を共有する環境が整っていた。目立った雑音は、ハンドバッグのファスナーの開閉音が2回、年配男性が飴玉の袋をがさがささせたのが1回、プログラム冊子の落下が1、2回あったくらいである(招待客も少なからずいたはずであり、これくらいは諦めざるを得ない。)。繊細な表情の一つひとつに至るまで、ホール内のほぼ全員が聴き入る緊張感は、世界広しといえども、なかなか味わえるものではない。

筆者が確保した座席は、LAブロック3列目のステージに向かって右端。OEKは編成が小さいので、できるだけステージに近いところで鑑賞したい。OEKの機能性やミンコフスキとのコラボレーションを眼前で確認すべく、この座席を選んだ。ステージ横の座席は、ステージ上で発せられた音が立ち上がるのを真横から眺める格好となる。地図上にプロットされていくかのような臨場感が面白い。しかし、弦楽器セクションに関しては、走り去るのを背後から見守るような立ち位置のため、特にヴィンヤード形式の場合、弦楽器セクションの音が届いてこないという意味で、音像的に不満が残る。今回、久しぶりに座ってみたが、結論として、サントリーホールのLA、RAブロックは、事情がない限り、個人的にはパスしたいと感じた。

さて、プログラム前半一曲目は、ヴァイルの交響曲第2番。ヴァイルがパリで過ごしたわずかな間に書かれた作品とのことだが、ベースにはドイツの血が流れている。闘争的な様相が支配する中、それと対照的なノスタルジックなシーンが差し込まれ、複雑な様相を示すあたりが面白い。

ミンコフスキ&OEKは、切れのあるリズムと推進力により、作品に息吹をもたらしていた。管楽器のフレージング処理がスムーズであり、聴いていてストレスが溜まらないのもよい。特に秀逸だったのは、弱音部におけるバランスと見通しの良さで、第一楽章終盤や第二楽章に現れたきめの細かいアンサンブルでは、OEKの特色が十分に活かされていた。このように、思わず惹き込まれる場面もたくさんあった。

しかし、最大4プルトの室内オーケストラ編成でこの作品に立ち向かうのには、若干の無理があったことは否めない。個々の楽器から発せられる音色の密度も濃厚であり、弦楽器セクションからは、思いのほか肉厚な響きが生み出されていたが、厚みやパワーをもたせようとするがあまり、響きが潰れたり硬くなったりする箇所も散見された。なお、この点に関しては、そもそも筆者の座席に弦楽器セクションの音が飛んでこないという問題があるので、多少は割り引いて考えなければならないかもしれない。

また、特にこの日は、空席が非常に多く、普段以上に残響が長かったため、速いテンポで細かいパッセージが複雑に絡み合う箇所では、音が飽和してしまい、響きに濁りが生じていたのも、マイナスに働いていた。プログラムの一曲目ゆえ、ホールの音響にオーケストラが十分に馴染んでいなかったという事情もありそうだ。筆者の座席で確認した限りでは、生音の立ち具合は悪くなかっただけに、残念である。

ともあれ、演奏される機会の少ないこの作品を、これだけの水準で聴かせてもらえれば、不満はない。聴衆の反応もよかった。

プログラム前半二曲目は、プーランクの「2台のピアノのための協奏曲」。OEKを代表するレパートリーの一つともいえ、演奏の方もかなり手馴れた印象であった。

ミンコフスキ&OEKは、前半一曲目と同様、切れのあるリズムで、プーランクらしい勢いを演出しつつ、叙情性を巧みに織り込み、完成度の極めて高い音楽を展開した。スコア上で縦横無尽に組み合わされた楽器の組合せから生み出される千変万化な音色の数々は、驚きの連続であり、そのビビッドな響きの粒立ちは、圧巻であった。

弦楽器セクションに関しても、前半一曲目で散見された硬さがなくなり、音色に艶としなやかさが戻ってきたようだ。なお、2台のピアノがステージ上に並んだことにより、弦楽器セクションが舞台中央奥側に押し込まれたことが、筆者の座席にとってはプラスに働いたと思われる。

改めて感じたが、個々の奏者のポテンシャルが高いと、安心感がまるで違う。スタイリッシュなサーカスのようなプーランクの作品を、ここまで緻密に、そして見通しよく描き出すのは、決して容易ではない。独奏を努めたギョーム・ヴァンサンと田島睦子の2名も、適度な存在感を示しつつ、アンサンブルの一員として、良い動きを示していた。ミンコフスキのタクトの下、ステージ上の全ての奏者の個性が見事に噛み合った演奏であったといえる。

前半のアンコールは、同じ作品の第三楽章。アンコールになると、より弾けた印象になるのが面白い。この作品でも、ホール内からは熱烈な拍手が送られた。

さて、この日は、休憩の間に、前半に誰も座っていなかったLBブロック3列目に移動させていただいた。すぐ隣のブロックだが、音響はこちらの方が断然良い。全体のバランスは若干崩れるが、臨場感と残響の按配がちょうど良い。多くの人がこの場所をベストポジションに推奨するのも頷ける。ちなみに、この日は、2階席の他の聴衆もさりげなく移動し、それぞれのお好みのポジションを確保していた模様。この日の状況であれば、許されるであろう。

プログラム後半は、ラヴェルの「マ・メール・ロア(バレエ版)」。文句なしの名演。素晴らしかった。

曲の進行とともに、演奏者も、聴衆も、テンションを高めていくのが手に取るように分かった。冒頭の「前奏曲」から、息を呑む瞬間の連続である。ホール内の静寂と緊張感は極限にまで達し、各楽器の発音により空気が震え始める瞬間までもが感じ取れた。

この日の演奏には、いわゆる派手さはない。しかし、精緻かつデリケートでありながら、程よい快活さが共存する。澄明な世界が滞りなく進行する光景は、一期一会のもたらしたものといえるだろう。終曲の大団円における若干控え目な語り口が心に染み渡るのを感じつつ、幕切れとなった。

なお、この作品でも、ミンコフスキの示す音楽の方向性は、大変明快であった。各奏者の自主性を引き出しつつ、各楽器のニュアンス付けにもチャレンジし、OEKとの刺激的なコラボレーションを繰り広げるミンコフスキの指揮者としての才覚に、改めて感銘を受けた。

この日は、いわゆるフライング拍手は、一切なし。最終和音の余韻がホール内に溶けて消えるのを聴衆全員が確認した後、深い感動とともに、拍手が沸きあがった。個々の聴衆の拍手に力がこもっていたのが印象的。4割程度の入りだったが、拍手の音量は、満席になった在京オケの演奏会のときよりも大きかったのではなかろうか。

アンコールとして、同じ作品の中から「パゴダの女王レドロネット」が再演され、午後9時頃、終演となった。

ところで、筆者は、この日のOEKによる演奏を鑑賞していて、日本のオーケストラの方向性の一つを見出したように感じた。以下は筆者の勝手な印象だが、OEKの響きは、この日の印象からすると、欧州系の楽団と比べ、それほど華があるわけではなく、音色のラインも細めである。しかし個々のラインは、実に緻密で美しく、ステージ上で繊細に紡がれていく。その背後に見られる演奏者の表情や、アンサンブルにおけるアインザッツなどには、日本的な職人気質が垣間見られる。そして仕上がりは、水彩画というよりも、水墨画に近い。微妙な濃淡の違いが、響きに透明感と奥行きを生み出すことに成功している。その感性の原点は、和食を代表する色鮮やかな会席料理に通ずるものがあるのではないかと、ふと思った。

金沢という地に本拠を構えて20年以上。OEKの中で日本文化に根ざしたオーケストラサウンドが芽生えつつあること、そしてそのサウンドが世界に向けて着実に発信され続けていることは、素晴らしいことだと思う。


(公演情報)

オーケストラ・アンサンブル金沢
第29回東京定期公演

2012年7月26日(木)19:00開演
会場:サントリーホール

指揮:マルク・ミンコフスキ
ピアノ:ギョーム・ヴァンサン、田島睦子

曲目:
ヴァイル/交響曲 第2番
プーランク/2台のピアノのための協奏曲
ラヴェル/マ・メール・ロワ(全曲)
スポンサーサイト
[2012/07/27 17:10] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
次のページ
プロフィール

mashi1978

Author:mashi1978
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。