ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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マゼール指揮N響―NHK音楽祭「チャイコフスキー4番ほか」
10月29日午後7時前、NHKホールへ。ロリン・マゼール指揮NHK交響楽団による演奏会。NHK音楽祭の演目の一つであり、今年一番の目玉公演である。

筆者の確保した座席は、1階席R5列中央付近。指揮台もよく見えるし、音響もなかなかよい。

プログラム前半一曲目は、ベートーヴェンの序曲「レオノーレ」第3番。

冒頭から木管楽器の音程がブレる。ユニゾンによる伸ばしは途中で音程が乱れるし、序奏の和音も聞くに堪えない。そんな悪いコンディションではあったが、マゼールのタクトは、冒頭から冴えていた。場面の移行する箇所で、和声進行に若干の余裕を持たせることで、響きを落ち着かせ、音楽の深さを演出する。この芸当は、大巨匠にしかできないマジックである。

主部に入ると、よく磨かれた弦楽器の音色のしなやかさが印象的。あえてやや謙抑的な奏法を採用することで、響きの美観を保つことに成功していた。N響の場合、このアプローチは割と常套である。ただ、管楽器の不調もあり、響きが思うように広がっていかなかったのには、もどかしさを覚えざるを得なかった。いざというところで腰砕けになるし、コーダもマゼールの意図に反して前のめり気味になってしまい、スカスカになってしまった。オーケストラとしてのキャパシティ不足が露呈した印象だ。

もっとも、筆者自身において、得るものはたくさんあった。全体がすっきりと聴こえ、ディテールの見通しがよいのは、マゼールの志向する響きゆえ、それほど驚く話ではないが、今回は、スコアの構造と個々の動機のつながりが手に取るように分かり、そして一目瞭然に見えてきたという意味で、目を丸くさせられた。ベートーヴェンとマゼールの凄さを実感するには、この程度の演奏でもとりあえずは十分であった。

プログラム前半二曲目は、アリス・紗良・オットを独奏に迎え、グリーグのピアノ協奏曲。

第一楽章の2小節目の和音から、オーケストラの気迫が違っていた。全楽章を通じて、オーケストラの伴奏が神業に近いレベルにあった。個々のフレーズの処理をみても、よく練られており、含蓄に富んでいる。枯れた味わいと落ち着きを兼ね備えた和声進行も、音色に奥行きをもたらす。この作品のオーケストラパートがこれほどまでに深い内容を持ち、巨大な世界を秘めているとは、思いもよらなかった。これまで聴いてきた演奏は、どれも泥まみれの表面的なやっつけ仕事であったのかもしれない。とりわけ、第一楽章のカデンツァ直後の神妙な表情や、第二楽章の厳粛さには、心を奪われた。

これに対して、アリス・紗良・オットの独奏は、完全に役不足。強音は打撃音ばかりで響きが薄いし、かといって弱音は粒が団子状に潰れてしまい引き立たない。フレーズの処理も近視眼的で、行き当たりばったり。ミスタッチが散見されたのも問題。結局のところ、マゼールの描いた巨大な宇宙を前に、音楽の浅さと小ささが露呈してしまい、全く釣り合いが取れていなかったというのが筆者の正直な印象である。第一楽章のカデンツァ演奏中に、マゼールが独奏パートを呟きながら「何か違うんだよなー」みたいな表情をしていたのが目に焼き付いている。

なお、アンコールとしてリストのパガニーニ大練習曲第5番「狩り」が演奏されたが、こちらは、身の丈に合った感じの演奏で、安心して聴くことができた。

プログラム後半は、チャイコフスキーの交響曲第4番。今月初旬から積み重ねられてきたマゼールとN響の共同作業は、この演奏のためにあったと言っても過言ではない。1か月間の集大成と呼ぶにふさわしいマゼール節全開の歴史的名演となった。

第一楽章の序奏を手堅くまとめると、主部の第一主題は、かなり速めのテンポ設定。これにより、8分の9拍子に潜在するワルツのリズム感が見事に浮き立つ。他方、木管楽器の第二主題では、ややゆったりとしたテンポを採り、弦楽器による推移主題を豊潤かつ上品に歌い上げられる。そして、展開部からは、これらのコントラストを軸に、各動機が、各セクションが、縦横無尽に動き回り、響きの波が次から次へと湧いてくる。リズムの噛み合わせは完璧で、身体中の細胞が目を見開いたかのようだ。どんなに強奏になっても、響きの美観が全く損なわれないし、弦楽器の音色の磨き上げは、ウィーン風でもある。常套手段的な溜めによる安っぽさを徹底的に排した解釈も素晴らしい。クライマックスでは、ティンパニの強打で見栄を切ることも忘れない。この曲がこれほどの可能性を秘めた作品であることに初めて気付かされた。正直、圧倒された。

第二楽章のカンタービレは、理知的であり感傷的でもある。弦楽器による第二主題の陰影に富んだ表現は超一級。中間部では音楽が夢のように広がるし、再現部におけるヴァイオリンの第一主題の深遠さには言葉を失う。午後8時50分に意味不明な時計アラームを鳴らした者には猛省を求めたい。

第三楽章のピッチカートがこれまた見事。潰れた団子のようになるのが常と思っていたが、全員で弦を正しく弾き、音楽の流れをピリッと引き締めると、全く別物に聴こえてくる。まるで一つの楽器であるかのように、響きに一体感があった。弦楽器の奮闘に比べると、木管楽器の響きにキレがなかったのが残念。

第四楽章は、マゼールのやりたい放題。勢いで押し切ることなく、内容の詰まった、響きの充填された堂々たるフィナーレ。最後は猛烈なアッチェレランドだが、音が軽くなるどころか、むしろ密度がぐーっと高まり、爆発的なエネルギーへと変換されるのが凄い。クライマックスに向かう直前の静かな箇所で、午後9時の時計アラームを鳴らした者は、出入り禁止にすべきである。

全体としてみると、金管楽器の押し出しが弱かったり、弦楽器の馬力不足ゆえに小綺麗にまとめたりというように、物足りなさを感じることもなくはなかった。しかし、マゼールは、そういった点もカバーすべく、N響向けにカスタマイズされた音作りを実践し、それが今回のチャイコフスキーの交響曲第4番で見事に結実させた。

そして、最後のサプライズとしてアンコールに演奏されたのがグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲。マゼールはついにその変態ぶりを炸裂。チャイコフスキーの交響曲第4番の仕上がりに満足したのか、遊び心いっぱいの指揮姿で聴衆を虜にする。演奏自体はネタの宝庫で、スコア上の記譜が思い出せなくなるくらいにやりたい放題。この作品は速くやる以外にも調理方法があったのだ。

カーテンコールでは、この日のために結集したと思われる全国のマゼールファンらの熱いブラボーと拍手が鳴りやまない。2012年10月、東京を舞台に繰り広げられた「マゼール劇場」は、日本の演奏史にその名を刻み、幕を閉じた。


(公演情報)

NHK音楽祭

2012年10月29日 19:00
NHKホール

NHK交響楽団
ロリン・マゼール(指揮)
アリス・紗良・オット(ピアノ)

ベートーベン/序曲「レオナーレ」第3番ハ長調
グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調作品16
チャイコフスキー/交響曲第4番へ短調作品36
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[2012/10/30 01:35] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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