ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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チョン指揮フェニーチェ歌劇場―日本公演2013「オテロ」
4月19日午後6時半前、Bunkamuraオーチャードホールへ。チョン・ミョンフン指揮フェニーチェ歌劇場日本公演2013「オテッロ」。客層は、オペラ公演にしては、どちらかというと地味めで、本当に好きな人ばかりが集結した模様であった。現地公演に比べると、会場内の集中力は格段に高いので、出演者の方も自ずとテンションが上がったであろう。

筆者の座席は、2階の下手側バルコニー席。オーチャードホールの音響の醜さは、今に始まった話ではないが、この場所ですら音がまともに飛んでこないとなると、万事休すといえよう。オーケストラピットの音は、籠ってしまい、細部が判別できないし、バランスも悪い。歌手の声は、前に飛ばずに吸い込まれてしまうので、結局はPA頼み。まるで体育館かアレーナで聴いているかのような印象である。高水準の演奏が台無しだ。

このような劣悪な環境下ではあったが、この日の公演に関しては、演出の陳腐さを除くと、「良い舞台を観た」という一言に凝縮できると個人的には思う。これほどまでに切なく心に沁みる「オテッロ」は、初めてといえる。

「オテッロ」というと、憎しみの衝突を先鋭化させ、暴力的な迫力で圧倒しつつ、第四幕の「柳の歌」で涙を誘うという流れが典型的といえるが、この日は、むしろオテッロとイヤーゴの内面に潜む苦悩に照準が合わせられていたようだ。チョン・ミョンフンの指揮は、弱音部のニュアンスを非常に大切にしたもの。多彩に織り込まれたテクスチュアを重層的に浮かび上がらせ、味わい深い音色を引き出す。2012年11月のプレミエ時よりも深遠さが増したように感じられた。他方で、展開の速い場面におけるスッキリとした疾走感も見事で、クライマックスにおいても意義のあるフォルテでもってビシッと引き締める。加えて、オーケストラピット内では、軽やかで明るい「イタリア」な響きが伸びやかに繰り広げられていたと窺われ、劣悪な音響の下でも、その響きの美しさの片鱗は察することができた。

この日の上演では、特に後半に進むにつれて、神がかり的なオーラに包まれていった。第一幕は、オテッロの二度にわたる登場のシーンで、オテッロ役のグレゴリー・クンデが圧倒的な存在感を示したのはよかったが、イヤーゴ役のルーチョ・ガッロが物足りず、演出の陳腐さと相まって、体温が上がらないまま終わってしまったものの、第二幕の合唱曲がしめやかに演奏されたあたりから、ドラマが動き始め、四重唱に入ると、一気に緊張感が高まった。幕切れに至るまで、手に汗を握る展開だ。二重唱の後奏に見られた大蛇が這うような粘着質の動きは、オテッロの苦悩を力強い代弁するかのようであった。第三幕は、二重唱からモノローグにかけての前半部分が素晴らしかった。感情の起伏と移り変わりが克明に描かれ、印象深かった。そして第四幕は、まさに静寂の美。感傷的になることなく、淡々と理性的に心情を表現することにより、音楽自体の素晴らしさが浮かび上がったように感じられた。

キャスト陣に関しては、オテッロ役のグレゴリー・クンデが声の輝きと表現力の両面において申し分がなかった。デズデーモナ役のリア・クロチェットは、芯が強い女性をイメージさせ、取り巻く男性陣を従える迫力を備えるため、ややチグハグな印象を受けることもあったが、歌唱面では十分に満足できた。イヤーゴ役のルーチョ・ガッロは、悪魔的な要素に欠けるが、紳士的な立ち振る舞いと深みのある語りはヴェルディが与えた高貴な旋律の数々に相応しく、好感が持てた。

このように音楽面では実に充実した公演であったといえる。

他方で、フランチェスコ・ミケーリの演出に関しては、少なくとも筆者には受け入れがたい。カーテンコールで当人が登場した際に、ブーイングが喉元まで出かかった。

2012年11月にヴェネチアで開幕演目を鑑賞した際にも苦言を呈したが、今回改めて鑑賞して、舞台美術の美しさは認められるものの、演出プランとして何がしたいのか、全くわからなかった。小細工的に挿入される象徴的描写の数々が各場面を陳腐なものに貶めるし、東洋と西洋のごった煮のような舞台セットも演出上の効果をもたらしているとは思えなかった。幕切れの設定、すなわち、息を引き取ったデズデーモナが亡霊のように登場し、オテッロに短刀を差し出し、自害を唆すという点も全く納得できない。

星座を散りばめた夢の下という着眼は悪くなく、舞台美術の観点からは成功しているにもかかわらず、演出プランとして失敗してしまっているのはなぜか。目障りな付属物をたくさん盛り込んだことにその敗因があるように思われる。ヴェルディの場合、台本に忠実に、シンプルに紐解いていけば、作品のポテンシャルは自ずと引き出される。異質な要素は、必要に応じて、差し色のように若干潜り込ませ、さりげなく暗示すれば足りる。このバランス感覚が大切であり、全体の構成を狂わせてはならない。幼稚園生に分からせるかのようにわざとらしく強調する必要は全くないし、むしろ有害だ。この点が自分の中で改めて整理できたという意味で、今回の演出は反面教師的に役に立ったように思われる。

ともあれ、公演自体は大成功。カーテンコールでは、オーケストラやスタッフも含む全ての関係者が舞台上に登場して大騒ぎ。商業目的の来日公演とは違ったアットホームな雰囲気に包まれ、微笑ましかった。


(公演情報)

フェニーチェ歌劇場日本公演2013「オテッロ」

2013年4月19日(金)18:30開演
会場:オーチャードホール

オテッロ:グレゴリー・クンデ
イヤーゴ:ルーチョ・ガッロ
デズデーモナ:リア・クロチェット
カッシオ:フランチェスコ・マルシーリア
ロデリーゴ:アントネッロ・チェロン
ロドヴィーコ:マッティア・デンティ
モンターノ:マッテオ・フェッラーラ
エミーリア:エリザベッタ・マルトラーナ
使者:エンツォ・ボルゲッティ

指揮:チョン・ミョンフン
演出:フランチェスコ・ミケーリ

フェニーチェ歌劇場歌劇団・合唱団
TOKYO FM少年合唱団
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[2013/04/20 18:31] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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