ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ウィーン途中降機(年末年始11-12年)④―メスト指揮ウィーン国立歌劇場「こうもり」
1月1日午前、ホテルの前に広がる市立公園を散策の後、昼過ぎにNHウィーンエアポートホテルへチェックイン。しばし休憩。

午後5時前に、市内へ向かい、ケルントナー通りを歩く。前夜は空き瓶や何やらでゴミが散乱していた目抜き通りも、この時間には綺麗に片付けられていた。この街の治安は、こうした努力の積み重ねにより保たれているのだろう。

アウグスティーナーケラーでターフェルシュピッツを食べた後、国立オペラ座へ。この日は、フランツ・ウェルザー・メスト指揮ウィーン国立歌劇場による「こうもり」。年末年始恒例の演目だが、今回はメストが指揮台に立つということで、個人的に興味をそそられた。劇場内には、昨日のジルベスターコンサートにも増して、日本人観光客が多く見受けられる。旅行会社が主催するツアーの多くに組み込まれていたようだ。

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筆者の座席は、2.Rang Loge Links 13の1列目。気合いを入れて鑑賞する際には、いつもこの場所を選ぶことにしている。ちなみに今回は、左右に日本人だらけ。筆者は、いつものようにオンラインで事前予約を入れただけだが、それ以外の座席は、代理店経由で販売されていた模様。それを考えると、この座席を定価で確保できたのは、実は幸運だったのかもしれない。

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オットー・シェンク演出の舞台は、溜め息が出るほどに美しい。文字通り、絵になる舞台。これを生で見れただけでも、幸せな気分に浸れる。細部の装飾に至るまで、実によく手が込んでいて、その一つひとつが舞台を格調高く演出していた。こういう細やかな舞台は、忙しない現代社会では、もはや生み出されることはないだろう。

メストの「こうもり」は、いわゆるオペレッタの対極路線。ほろ苦さも含むロマンチックな物語として描こうとしていたように感じられた。生真面目だと批判する声が聞こえそうだが、筆者はこの方向性に共感する。

というのも、今でこそ、オペレッタの代名詞のように扱われているが、この作品のスコアに見られるシュトラウス2世の書法は、いわゆるウィンナワルツとは一線を画す革新的かつ挑戦的なものであり、とりわけ心理描写の巧みさの点で鋭い輝きを放っている。メストは、そこに正面から向き合おうとしていたと思われる。

クライバーのようにアグレッシブに攻めるわけでもなく、またドイツオペラの延長として重厚に鳴らすわけでもない。淡くソフトな響きの移ろいの中に、各主人公の感情をあぶり出し、ウィーンの一夜の物語を小気味よく浮かび上がらせたといったところであろうか。

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器楽的にみても、スコアの処理がとても秀逸。木管楽器やホルンの響きを効果的に活用し、オーケストラの響きに色彩感を与えるとともに、場面の変わり目に置かれたブリッジ的なフレーズを引き立たせることで、見事なまでに音楽がつながっていく。テンポのギアチェンジのスムーズさ、喜怒哀楽に呼応した響きの創り込みは、見事と言うほかはない。響きの中にわずかに陰を仕込み、音楽に奥行きを持たせようとしていたバランス感覚も素晴らしい。曲の途中で「音楽」の止まる瞬間が一度もなかったのには、驚かされた。

個人的に感銘を受けたのは、第一幕前半に現れる弦楽器の分散和音による伴奏。和声の遷移が透明感のある淡色系で導かれ、日没後の青白い空をイメージさせるようなスケールが広がった。また、第二幕のチャールダッシュをあっさり目に仕立て、息の長いフレーズ感と全体の構成を示そうという方向性も良かった。Dui-duも、完璧とはいえないまでも、弱音部分において、名残惜しさを窺うことができた。

もちろん、オペラ的(なお、オペレッタ的ではない。)な盛り上がりにも欠けるところはない。徐々にパワーを充電し、後半で小さな噴火の数々を伴いつつ、最後に一気に発散させる。第二幕で「雷鳴と電光」が挿入されたあたりから幕切れに向けての高揚は、演出の巧みさと相まって、圧巻であった。

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オーケストラに関しては、ウィーンフィルの響きは健在。流暢な旋律美と湧き上がる躍動感は、魅力的である。独特の味付けだが、響きの美しさは抜群だ。オーケストラが備える「引き出し」の数も豊富で、完全に徹底されてはいなかったものの、メストの解釈によく応えていた。ただ、序曲や第一幕の響きが落ち着かないのは、相変わらず。「こうもり」ですら粗くなってしまうのは、何か根本的な問題を孕んでいるように思われる。

ちなみに、この日のメンバーは、大晦日の「こうもり」から入れ替わりがあったようだ。コンサートマスターのシュトイデをはじめ、ジルベスターに出演していた面々が混じっている。この歌劇場のローテーションは、いつ見ても不思議だ。また、第三幕で、弦セクションのプルトが一つずつ減ったのは、省エネ志向の表れのようにも感じられた。

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キャスト陣の中で、筆者が注目したのは、アデーレ役のイレアーナ・トンカ。ロザリンデ、オルロフスキー、アデーレの三役につき、ダブルキャストが組まれていたが、トンカは、メストの指揮に乗って、全ての部分で、キリっと歌い上げ、そして演じ切った。

逆に、ロザリンデ役のイルディカ・ライモンディは、一人で足を引っ張ってしまった印象。I.ライモンディは、この日のみのスポット出演のため、やむを得ないところもあろうが、第一幕では、メストのテンポ感に乗れず、また第二幕では、守りに入った箇所では声が硬くなり、他方、チャールダッシュの高音は金切り声に近づくなど、残念な状況であった。いわゆる「こうもり」の伝統的な演奏スタイルなら、彼女の貫禄が活かされるのだろうが、この日は、ちょっと馬が合っていなかった。

アルフレード役のライナー・トロストも、出すぎず適度なアピールで、なかなかの好演。フランク役のアルフレド・シュラメクも、第三幕で地味に笑いを誘う。アイゼンシュタイン役のカート・ストレイトは、気合いで乗り切った感があったが、周りのキャストが脇を固めたため、全体としての印象は、そこそこ良かった。

なお、合唱団のキレの良さは、フォルクスオーパーとは比べ物にならないほどに光っていた。

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以上のとおり、全体としてみると、十分に満足できる公演だったといえる。ウィーン国立歌劇場の伝統に立脚した「こうもり」を愉しむことができた。

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ただ、公演の完成度という点では、まだまだ改善の余地がある気がした。というのも、メストの世界観が演奏者側において徹底できていないという点に加え、笑いを取ろうとする演技の数々(なお、個々の演技自体は、品位を保った高水準のものであった。)が、メストの音楽と不釣合いで、そこに違和感を感じざるを得なかったからだ。

オペレッタだから笑いを取らなければならないという観念は捨て、シェンクの美しい舞台と、メストのロマンチックな音楽をベースに、逆にオペラ的に仕上げてしまった方が面白かったのではなかろうか。

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終演後は、まっすぐホテルへ。翌朝は、ホテル内で過ごし、帰国に備える。昼前に空港に向かい、OS51便にて帰国。

この半年間は、吸収できるだけのものを吸収すべく、奔走してきた。これだけ集中して音楽を鑑賞できる機会は、二度と訪れないであろう。ブリュッセルを拠点としたヨーロッパ滞在を通じて、ボーダーレスなヨーロッパ社会に広がる文化的なグラデーションを感じ取ることができたのは、一つの成果といえようか。明日からは、筆者自身がこれらの経験を生かすステージが始まる。


(公演情報)

DIE FLEDERMAUS | Johann Strauß

01. Jänner 2012
19:00-22:30

Franz Welser-Möst | Dirigent
Otto Schenk | Regie

Kurt Streit | Gabriel von Eisenstein, Rentier
Ildikó Raimondi | Rosalinde, seine Frau
Stephanie Houtzeel | Prinz Orlofsky
Rainer Trost | Alfred, ein Tenor
Markus Eiche | Dr. Falke, Notar
Ileana Tonca | Adele, Kammermädchen Rosalindens
Peter Simonischek | Frosch, Gerichtsdiener
Alfred Šramek | Frank
Peter Jelosits | Dr. Blind
Lydia Rathkolb | Ida
Oleg Zalytskiy | Iwan
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