ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[--/--/-- --:--] | スポンサー広告 |
欧州行き(12年3月)③―バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場「トリスタンとイゾルデ」
3月10日午前8時すぎ、ホテルをチェックアウトし、リヨン・サン=テグジュペリ空港へ。LX531便にてチューリッヒ空港へ、そしてLX966便に乗り継ぎベルリン・テーゲル空港へ。若干の遅れがあったため、冷や冷やしたが、午後3時すぎに無事に宿泊先であるマイニガーホテルベルリンハウプツバーンホフにチェックイン。荷物を部屋に入れ、その足でシラー劇場へ向かう。ベルリン中央駅前のホテルを確保して正解であった。

午後4時前にシラー劇場に到着。この日の演目は、ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場によるワーグナー「トリスタンとイゾルデ」。現代最高の「トリスタンとイゾルデ」として名高いこのコンビによる上演は、今シーズンはこの日が初日である。ウンター・デン・リンデンの歌劇場が2010年6月から3年間にわたり改修中のため、仮小屋であるシラー劇場にて上演を行っている。シラー劇場は、もともと演劇用の劇場で、900席ほどのこじんまりとした空間だが、ベルリン国立歌劇場は、そのハンディをものともせず、ワーグナーやその他の現代作品など、大がかりな演目の新演出ないし再演の数々を舞台に乗せ、快進撃を続けている。

20120310-01

筆者の確保した座席は、Parkett rechts 7列目中央付近。年初の帰国直後から激務が続く中、現実逃避気味に各劇場のウェブを眺めていた際に、最後の一席が残っているのを発見し、思わず衝動買いしてしまったのが、今回の旅程の引き金となった。

20120310-02

シラー劇場の音響は、響きがないといっても過言ではないくらいにデッドである。残響のない古い公会堂で聴いているような感じだ。オーケストラピットは、かなり深めにセットされ、客席との間の壁は、オーケストラに被さるような形状。いろいろと工夫が施されてはいるが、聴こえてくるサウンドは、スタジオで聴いているような生音。しかし、その結果として、オーケストラが実際に発しているサウンドに直に触れることができたため、筆者個人としては、大変勉強になった。

20120310-03

ベルリン国立歌劇場管は、重心が低く、中身がぎっしりと詰まったドイツの伝統的な響きを継承する数少ないオーケストラの一つだが、そもそも個々の楽器の鳴り方自体が肉厚であり、巨大なうねりを伴っていることがよくわかった。楽器ごとの発音のタイミングの微妙な違いも納得である。残響の多いホールでは埋もれてしまう細かい動機の数々も明確に聴き取ることができた。さすがである。

さて、演奏の方だが、肉食系ワーグナーの王道を行くものであった。オーケストラは、ワーグナーの大管弦楽の醍醐味を躊躇なく豪快に表現するので、圧倒的。足し算を基調としており、オーケストラピット内からは容赦ない轟音が襲いかかる。声がかき消されるのは歌手のせいだ、とでも言わんがばかりの鳴らしっぷり。この日のキャスト陣でさえ、オーケストラが歌唱を超える瞬間が何度もあったのだから、明らかに鳴らしすぎである。それでも上演が成り立ってしまうのは、バレンボイム体制のベルリン国立歌劇場だからであろうか。

無論、単に音が大きいのではない。ダイナミクスレンジが極限まで広げられ、逆に、最弱音は耳を澄まさないと聴こえないほど。また、動機の色分けも明快であった。「憧れの動機」や「愛の動機」等は粘着的かつ官能的に、「愛の死の動機」や「嘆きの動機」等は深い呼吸で、そして「航海の動機」やその他のリズミカルな断片的動機はクリアなタッチでというように、ピアニストでもあるバレンボイムの感性が随所に光っていた。「心の動揺の動機」が畳み掛けてくる箇所や、「死の動機」を金管楽器が吠える箇所は、尋常ではなかった。

20120310-04

キャスト陣は、トリスタン役のイアン・ストレイ、イゾルデ役のイレーネ・テオリン、マルケ王役のルネ・パーペのみならず、ブランゲーネ役のエカテリーナ・グバノヴァ、クルヴェナル役のマルティン・ガントナーも含め、実に充実していた。通常公演、しかも再演で、これだけの水準を打ち出せるのは、驚異的である。トリスタン役のストレイは、第一幕と第二幕では、見せ場以外で守りに徹しすぎる傾向にあったが、第三幕はエンジン全開で、何かに憑かれたような異常さに心を打たれた。クルヴェナル役のガントナーの美声との相乗効果により、白熱の第三幕は、とりわけ感動的であった。イゾルデ役のテオリン(もともとはワルトラウト・マイヤーが予定されていた。テオリンは、どこかで見たと思ったら、昨年の新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」に出演していた。)は、冒頭から圧倒的な声量で存在感を示すが、全体を通じてパワーで押し切った感もあり、日本人の感覚からすると、もう少しデリカシーないし陰影に富んだ表現が欲しかった(当初の予定通り、マイヤーが出演していれば、印象もだいぶ変わったであろう。)。もっとも、カーテンコールはすごい盛り上がりぶりで、ドイツ人的には、これでよいのかもしれない。なお、第二幕は、煮え切らないトリスタンと一本槍なイゾルデが並行線で、緊張感がやや薄かったが、幕切れでマルケ王役のパーペが観客全員の期待をさらい、終わりよければ全て良しといった感じであった。考えてみれば、マルケ王役は、登場シーンが少ないにもかかわらず、第二幕と第三幕のクライマックスを飾るため、ある意味でおいしい役どころである。

クプファーの演出は、よく知られているように、中央に舞台セットを一つ置く以外には何もないが、実演で見ると、この置物の中に多彩な表情が織り込まれていることが体感でき、いわゆる現代の省エネ舞台とは一線を画す素晴らしいプランであることが手に取るようにわかった。それにしても、シラー劇場という非常に限られた空間の中で、ここまでの舞台に仕上げるベルリン国立歌劇場の舞台スタッフの実力は、相当なものである。

20120310-05

20120310-06

なお、全体的に、観客のマナーも良かった。第三幕の幕が下りても、数秒間にわたり沈黙が保たれたのには、大変感銘を受けた。そして、カーテンコールでは、客席全体から怒涛のごとくブラボーが湧き上がった。そこには、ワーグナーに熱狂するドイツ人の姿があった。日本だと、自己顕示欲の強い一部のワグネリアンらが騒ぎ出し、こういう雰囲気にはならないだろう。

終演後は、ブランデンブルク門前のレストラン、テオドール・トゥーハーにて夕食を摂る。落ち着いた雰囲気ゆえ、個人的にはお気に入りの場所である。

20120310-07


(公演情報)

Tristan and Isolde
Richard Wagner

Sa 10 Mar 2012 | 16.00 h
Staatsoper im Schiller Theater

Conductor : Daniel Barenboim
Director : Harry Kupfer

Tristan : Ian Storey
King Marke : René Pape
Isolde : Iréne Theorin
Kurwenal : Martin Gantner
Melot : Reiner Goldberg
Brangäne : Ekaterina Gubanova
A shepherd | Voice of a young sailor : Florian Hoffmann
A steersman : Arttu Kataja
スポンサーサイト
[2012/03/13 21:47] | 海外視聴記(ベルリン) | トラックバック(0) | コメント(2) |
<<欧州行き(12年3月)④―ブラームス「弦楽六重奏曲」 | ホーム | 欧州行き(12年3月)②―大野指揮リヨン国立歌劇場「パルジファル」>>
コメント
はじめまして。
こちらのチケットを取られたのは幸運でしたね。私は来週渡欧するのですが、ソールドアウトだったため諦め、代わりにドレスデンへルルを聴きに行くことにしました。マイヤーは1月にメトで聴いた時にかなり声の衰えを感じ、正直シラー劇場でもワーグナーは無理ではないかと思っていましたので、代役に納得です。
大野さんのパルジファルにも興味があったのですが、今回はウィーンとミラノで影のない女を観るのが主目的ですので諦めました。ジラールのプロダクションはメトで観る予定ですので、好印象だったとのリポートを拝見して安心しました。
[2012/03/15 10:17] URL | TM #- [ 編集 ]
こんにちは。コメントをいただき、ありがとうございました。
来週渡欧されるのですね。今月は各地で演目が充実しているので迷ってしまいます。ウィーンの「影のない女」は、個人的に気になっていましたが、ベルリンのトリスタンを確保した時点で諦めました。メスト指揮シュトラウスということで、再演ではあるものの、集中力の高い舞台が期待できると思います。スカラ座との比較も面白そうですね。
ジラールの演出は、メトの舞台では、そのスケールの大きさがより一層引き立ちそうです。また是非感想をお聞かせ下さい。
ちなみに、バレンボイムの鳴らしっぷりを考えると、仰るとおり、マイヤーはシラー劇場でも厳しいかもしれません。先ほどウェブを確認したら、18日に予定されている2回目の公演も、代役になっていました。
[2012/03/15 11:18] URL | 筆者 #- [ 編集 ]
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
http://mashi1978.blog97.fc2.com/tb.php/112-69af7cc6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
プロフィール

mashi1978

Author:mashi1978
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。