ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年5月)③―ムーティ指揮ローマ歌劇場「アッティラ」
5月25日午前4時に起床。昨夜の大失態が尾を引いたためか、一晩中悪夢にうなされ、何度も目を覚ましてしまった。午前4時半、ホテルをチェックアウトし、チューリッヒ空港へ。そして、HG8499便とHG8466便でウィーン経由でローマ・フィウミチーノ空港へ。レオナルド・エキスプレスでテルミニ駅に向かう。昨年7月に交通ストに巻き込まれて以来のローマ滞在。市内は観光客で溢れかえっている。

正午前に宿泊先のホテルに到着。この日の宿泊は、テルミニ駅の隣のレプブリカ駅から徒歩数分に位置するホテル・マイアミ。ローマ中心部のホテルは、どこも観光地価格だが、このホテルは、3つ星ながら、必要な設備は整っており、値段相応。ローマ歌劇場から徒歩数分という立地もよい。なお、朝食のクオリティが低かったのが残念である。

せっかくローマに来たので、少しは観光をすべく、とりあえずフェロ・ロマーノへ。主要なスポットを一通り散策するも、最高気温28度の夏日ゆえ、小一時間でやる気を失い、退散。メトロで2駅先のピラミデ駅から徒歩10分程度のトラットリア、ダ・オイオ・ア・カーザ・ミアへ。ガイドブックにも掲載されている有名店だが、地元の客が多く、観光地ズレした雰囲気はない。男勝りなサービスもローマならではといえようか。イタリアのローカルビールで喉の渇きを癒した後、モツァレッラ、カルボナーラ、トリッパを注文し、ハウスワインの赤と合わせる。キリッと軽いビールを飲むと、イタリアに来たという実感が湧いてくる。注文した皿の中では、トリッパが抜群だった。旨みの詰まったトマトソースに、柔らかくてボリュームのあるハチノスが絶妙に絡み合う。ハウスワインも美味。お値段も超手頃で、ローマ料理の王道を満喫できた。

ホテルに戻り、アラームを万全の状態でセットし、しばし仮眠。今回は、アラームの鳴る少し前に自力で目覚めることができた。

午後8時前、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮によるヴェルディ「アッティラ」。今シーズンの話題のプレミエで、この日が初日。劇場内は、着飾った上流階級風の人々と地元のファンと観光客と報道陣とが混じり合う不思議なムード。観客のマナーはあまり良いとはいえず、開演後もしばらくは物音が絶えなかった。

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筆者の座席は、バルコニー中央下手側の1列目。想定よりも屋根が多く被るポジションであったため、身を乗り出さないと、良好な音響が確保できないのが難点といえる。

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この日の上演は、王者ムーティ、ここにあり、という一言に尽きる。ムーティの背中が発するオーラが観客にフライング拍手をする暇すら与えない。劇場全体が巨匠の指揮にコントロールされていた。

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「アッティラ」は、ヴェルディが32歳の年に初演された第9作目のオペラで、「ナブッコ」に代表される「愛国的オペラ」から、「マクベス」以降に見られる「人間ドラマ」への移行期にあたる。書法の点で熟していない箇所も散見されるが、ムーティは、「アッティラ」という作品を、高い次元で再構成し、力強い音楽の爆発と中期以降の作品に通ずる深遠さとの両面を、巨大なスケールで打ち出した。いわゆるブンチャッチャの範疇を超えるものではないという世間的な評価を根底から覆す強烈な上演であったといえる。

ムーティの一貫したスタイルではあるが、イタリア風の明るい音色で全体の響きを柔らかく束ね、和声を脈々とつなげるアプローチは、この日も如何なく発揮され、この作品におけるオーケストレーションの弱さを全く感じさせなかった。内声部を太く鳴らすことにより、響きの薄さを補完していたのも特徴的。もちろんアレグロにおける若々しい推進力も素晴らしく、歌手やオーケストラに弛緩する暇を一切与えず、ぐいぐいと前へ引っ張る。厳選された数か所のポイントで、弦楽器に叩きつけるようなアクセントを要求し、これが絶大な効果を上げていた。

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前奏曲からプロローグの前半までは、今思うと、だいぶ抑制が効いていた。しかし、音楽的な安定感は抜群で、ドラマの始まりを期待させる適度な高揚感が演出されていた。

プロローグ第二場は、「愛国的オペラ」としての「アッティラ」の一つの見せ場である。フルートの三連符の上昇音型とヴァイオリンの刻みが澄み切ったピアニシモで提示されると、息の長いクレッシェンドによりエネルギーが充電されてゆく。「レクイエム」における「怒りの日」の情景を連想させる場面だが、音楽的な充実はまさにそれに匹敵するものであった。熱狂的な愛国心が高らかに歌われる後半では、ムーティは、合唱が入る数小節前で、毅然とした姿勢でスッと立ち上がり、十分にポテンシャルを高めた後、2拍前のアウフタクトで手綱を解放し、雄大なスペクタルを導き出す。テンポを弛緩させることなくこのスケール感を演出できるのは、さすがである。

第一幕第一場のオダベッラのロマンツァでは、プロローグのカヴァティーナで見られた表情の硬さが姿を消し、オダベッラ役のタチアナ・セルジャンにより、戦死した父と行方の分からぬ恋人フォレストを偲ぶ悲痛な想いが切々と歌われた。最高音で音程が詰まり気味になってしまった点を除くと、ほぼ完璧の仕上がりで、感動が心に沁み渡るようであった。他方、フォレスト役のジャン・フランソワ・ボラスは、役不足。ローマ歌劇場の広い空間を響かせるには、パワーが足りていない。テンポ感もやや伸び気味であったため、ムーティが立ち上がって合図を出す場面が散見された。

第一幕第二場冒頭の老人の言葉の動機は、アッティラの運命を暗示するという意味で、この作品において鍵を握るが、弦楽器の不気味な低音のトレモロに続いて示されたこの動機では、sotto voceが極限まで試され、水墨画のような淡い響きの移ろいが、かえって異様な緊迫感をもって劇場内を包み込む。強奏で繰り返される際の威厳のある響きとの対照も見事。ちなみに、いわゆるブンチャッチャが最初に爆発したのは、第一幕第二場のアッティラのアリア。ここに至るまでにも、ブンチャッチャは何度も登場したが、やや控え目で柔らかな印象であった。しかし、アッティラがローマ征服の決意を歌う場面の前奏では、突如としてエネルギーを爆発させ、これが驚くほどの劇的効果を生み出した。そして、音楽的緊張が一気に高まり、フィナーレへ。充実のクライマックスが構築される。幕切れのアンサンブルは、書法の点で弱さが指摘される部分だが、この日の上演はそういった懸念を感じさせることの全くない圧倒的なフィナーレであった。

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休憩を挟み、第二幕へ。気合い全開のムーティの独壇場である。この作品は、第二幕以降の筋書きが分かりにくいという欠点を持つが、そんなことは物ともせず、強い説得力を持って観客に迫る。第三幕冒頭でフォレストの苦悩が深遠かつ格調高く描かれると、舞台は作品全体のフィナーレへ。圧倒的であった。久々に胸が熱くなる体験をした。

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キャスト陣の中では、アッティラ役のイルダル・アブドラザコフが威厳のある勇将に相応しい歌唱で存在感を示した。オダベッラ役のセルジャンも好演。エツィオ役のニコラ・アライモは、見せ場は決めたが、全体としてはやや押し出し不足。フォレスト役のボラスは、前述のとおり、線が細すぎた。キャスト陣全体としては、ローマ歌劇場の空間を満たすには、もうひと頑張り必要だったように感じた。

オーケストラと合唱は、イタリアの王道を行く演奏。この日の空のようにスカッと晴れたローマの太陽に通ずるものがある。ドイツ系のように重くなることもなく、フランス系のように妙な洒落っ気が追加されるわけでもない。荘厳な金管セクションもアメリカ系のようにやかましくない。やはりイタリアはイタリアである。ミラノ・スカラ座ほどのパワーはないが、周到かつ十分なリハーサルを経て、ムーティの世界観を素直に表現するという観点からは、むしろ理想的といえよう。

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ピエール・ルイジ・ピッツィによる演出は、オーソドックスだが、舞台セットや色使いにモダンなセンスが光る。音楽を全く邪魔しないあたりに見識の高さを感じさせるし、簡にして要を得たアプローチは、ムーティの描く世界とベストマッチであった。

カーテンコールは、熱狂的な拍手と歓声に包まれた。ムーティも大満足の様子。自信が窺われた。

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ムーティが定期的に客演するようになってから、ローマ歌劇場は快進撃を続けている。現在、ヴェルディのグランドオペラの上演に関しては、このコンビを置いて、右に出る者はいないと言っても過言ではないだろう。なお、つい先日入手した情報によると、マエストロ・ムーティは、2013年のヴェルディ生誕200年に、ローマ歌劇場で「シモン・ボッカネグラ」、「二人のフォスカリ」、「ナブッコ」を上演するらしい。2013年春には、ネッロ・サンティ指揮によるチューリッヒ歌劇場の「ファルスタッフ」もある。筆者の来年の手帳にローマ3往復とチューリッヒ1往復の予定が書きこまれてしまった。


(公演情報)

ATTILA
Musica di Giuseppe Verdi

Teatro dell'Opera
Venerdì, 25 Maggio, ore 20.30

Direttore : Riccardo Muti
Regia, scene e costumi: Pier Luigi Pizzi

Interpreti
Attila: Ildar Abdrazakov
Ezio: Nicola Alaimo
Odabella: Tatiana Serjan
Foresto: Jean-François Borras
Uldino: Antonello Ceron
Leone: Luca Dall’Amico

ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
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[2012/05/28 15:49] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(1) |
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コメント
ムーティはメトでもアッティラを振りましたが、ヴェルディはあまり積極的に聴きに行く作曲家ではないため、なんとなく逃してしまいました。が、ローマ歌劇場で彼のヴェルディをぜひ聴いてみたくなりました。サンティはまったく未体験ですが、彼のヴェルディもマストのようですね。ちょうどマクベス夫人とファルスタッフの2本立ての日もあるようなので、私も手帳に書き込んでみようと思います。
貴重な情報をありがとうございました。
[2012/06/19 03:05] URL | TM #- [ 編集 ]
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