ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年6月)④―メスト指揮ウィーン国立歌劇場「ドン・カルロ」
6月16日午後6時頃、ウィーン楽友協会を後にし、ウィーン国立歌劇場へ。オペラ座前の広場では、パレードのような催しが行われていて、ものすごい騒音。建物の中に入り、しばし休憩。

フランツ・ウェルザー=メスト指揮ウィーン国立歌劇場によるヴェルディ「ドン・カルロ」。今シーズンの新演出で、この日が初日である。週末ということもあり、観光客の姿も多く見受けられたが、いわゆる観光客というよりも、音楽愛好家が結集したと感じ。プレミエの初日だけあって、劇場内は物々しい緊張感に包まれていた。

筆者が代理店経由で確保した座席は、2.Rang Loge Links 8の1列目。中央付近よりも舞台やオーケストラピットからの距離が近いので、実はこちらの方が臨場感が味わえて筆者好みかもしれない。舞台が見切れることもなく、鑑賞上の支障はなかった。

20120616-11

ウィーン国立歌劇場のプレミエ初日は、圧倒的であった。この日の上演は、筆者の中に新たな扉を開く衝撃的なものとなった。その最大のポイントとなったのは、音楽、演出、観客の三位一体の凝縮力の高さである。初日ゆえ、細かい傷はあるが、この高揚感は初日ならではといえる。

第一に、音楽が素晴らしい。ライナー・キュッヒル率いるウィーン国立歌劇場管弦楽団の気合いが神がかり的。

メストの意向を汲み取り、十分なリハーサルを経た上でのベストメンバーによる演奏ゆえ、音楽的な完成度も段違いだ。細部にわたるきめ細かなアンサンブルと、個々のフレーズにおける艶のある音色は、ミラノ・スカラ座からは窺い知れない美観である。これほどまでに立体的に音楽が組み上がるのか、とまさに驚愕の連続であった。記憶が薄れないうちに、スコアを読み返さなければならない。

20120612-12

なお、メストの解釈に関しては、設計上はヴェルディの様式に依拠しているものの、響きの創り方はウィーンそのもので、イタリアらしさやイデオロギー的な主張は表に出ない。彼らしい颯爽とした運びであり、グランドオペラ的なスケール感というよりも、中身のギュッと詰まった純音楽的な印象を与える。これに対しては、賛否両論あるだろう。

ただ、「ドン・カルロ」は、フランス語五幕版が初演されたのは1867年で、ヴェルディ中期の最後の作品に数えられるが、「オテロ」初演の3年前に大改訂が行われ、現在のイタリア語四幕版が完成されたという経緯がある。そのため、旋律の素材は中期の若々しさを兼ね備えるが、オーケストレーションに関しては「アイーダ」の延長としてある種の落ち着きを纏っているという複雑な性格を有し、演奏にあたっては、ポジションの取り方が非常に難しい。

メストのアプローチは、そうした屈折を解消する一つの手法として、説得力があったし、内側から響きを醸造してエネルギーを充填しつつ、ヴェルディらしいアクセントをトリガーとして、音楽的な高みへと昇華させる職人的なセンスの良さは、真のオペラ振りだと感じた。メストのテンションがいつになく高かったのも良かった。

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キャスト陣のバランスの良さも、出色の水準であった。

「ドン・カルロ」の場合、スター歌手を並べると、歌合戦になってしまい、重唱の面白さが薄れてしまうことがあるが、この日は、アンサンブルに力点を置いた配役と思われ、筆者にとっては理想的であった。無論、歌唱面では、文句のつけようがない。演技も含めた総合的な表現という点で、筆者の鑑賞した上演のベストの一つに数えられるほどの水準にあった。

中でもエリザベッタ役のクラッシミラ・ストヤノワは、婚約者の父であるフィリッポ二世と政略結婚を強いられたという難しい役柄ながら、その多面的な側面を大人の女性として描き出し、とりわけ印象的。フィリッポ二世役のルネ・パーペと対峙する場面の迫力は、今でも目に焼きついている。
対するドン・カルロ役のラモン・ヴァルガスは、声量やパワーで圧倒するタイプではないが、スピード感があり、フレーズの歌回しが上手い。リリック・テノールとして活躍してきた彼らしく、その若々しい感じが作品の役柄に合っていた。
ロドリーゴ役のサイモン・キーンリサイドも、出すぎずによい仕事をしており、ドン・カルロの親友という役柄を見事に演じていた。
エーボリ公女役のルチアーナ・ディンティーノも、最初はやや控えめに、しかし、台本の進行とともに、徐々に内側から熱くなってゆくあたりが秀逸。前半に登場する「ヴェールの歌」を派手に歌ってしまっては、この作品が外面的なものに成り下がってしまうのだ。
宗教裁判長役のエリック・ハーヴァーソンも貫禄十分。
フィリッポ二世役のルネ・パーペが、この役に慣れすぎたためか、安定感はあるものの、いまひとつ刺激に欠く感じであったのが残念。

ともあれ、全体として、人間の心理に深く踏み込んだ愛と葛藤のドラマがダイレクトに浮かび上がる素晴らしい配役であった。

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第二に、ダニエレ・アバドの演出に関しても、抽象的な舞台の割には、珍しく成功していた。

舞台セットは、基本的には、黒い壁で囲まれた箱のみ。戸や壁が開いたり、中央の床が上がったりする仕掛けはあったが、具体的なものはほとんど見当たらない。こういうセットだと、ウィーン国立歌劇場のような大きな劇場の場合、大抵は見飽きてしまうものだが、むしろ無駄を排したからこそ各役者の心理にスポットを当てることができたのであろう。

特に印象的であったのは、光と影の活用。下手側からスポットを当てて、上手側の壁に影を映し出すという手法が多く用いられていたが、二人の役者の立ち位置により、影の大きさが伸縮し、それが台本や音楽の流れをマッチしていたのが印象的であった。

個々の役者に対する演技指導も徹底されており、重唱における二人の役者の静かな対峙が、どの場面においても、手に汗を握るほどの迫力で客席に伝わってきたのは、さすがであった。メストの描く音楽観を全く邪魔することなく、むしろ密接に結びつき、人間の内面へと深く迫り行く演出という意味で、素晴らしいプロダクションだったと思う。

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そして、第三に、聴衆のレベルの高さ。とにかく、この日は開演前から雰囲気が物々しかった。休憩後に音楽が始まろうとしている際に、続いている私語を制止しようとするシーッという声の威圧感は尋常ではなく、開幕中も聴衆が舞台に釘付けになっていたためか物音もあまりしなかった。この緊張感は久しぶりだ。こういう空気になると、上演する方も超本気になるし、とてつもない上演が生まれる。

カーテンコールが大騒ぎになったのは言うまでもない。音楽、舞台、聴衆が一つになった素晴らしい一夜であった。

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終演後は、ワインを片手に余韻に浸りたかったが、あいにく仕事が溜まっていたため、そのままホテルに戻り、2時間ほどパソコンに向かう。長い一日であった。


(公演情報)

Don Carlo (ital.) | Giuseppe Verdi

16. June 2012
19:00-22:30

Franz Welser-Möst | Dirigent
Daniele Abbado | Regie

René Pape | Filippo II.
Ramón Vargas | Don Carlo
Simon Keenlyside | Rodrigo
Eric Halfvarson | Il Grande Inquisitore
Dan Paul Dumitrescu | Un frate (Carlo V.)
Krassimira Stoyanova | Elisabetta
Luciana D'Intino | Eboli
Ileana Tonca | Tebaldo
Carlos Osuna | Conte di Lerma
Carlos Osuna | Un aroldo reale
Valentina Nafornita | Voce dal cielo
Fabiola Varga-Postatny | Contessa d'Aremberg
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[2012/06/21 23:01] | 海外視聴記(ウィーン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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