ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年8月)①―アバド指揮ルツェルン祝祭管「オープニングコンサート」
8月7日午前、NH209便にて成田からフランクフルトへ。座席調整の都合によるビジネスクラスへのアップグレードがあり、実に快適なフライトであった。この日はフランクフルトで1泊。8月8日早朝、搭乗予定であったLX1069便がキャンセルになったとの連絡が入る。若干の不安を抱きながら、フランクフルト空港の空港カウンターに行くと、出発時間の迫っていたLH1186便のスタンドバイを提供してもらい、予定よりも若干早くチューリッヒに到着。スターアライアンスゴールドの威力を実感した。

チューリッヒからルツェルンへは、国鉄での移動となる。正午前にルツェルンに到着し、宿泊先であるIBIS STYLES LUZERN HOTELにチェックイン。ルツェルンはホテル相場が観光地価格で割高だが、このホテルは、氷河公園の近くで立地もよく、値段もリーズナブル。エアコンと冷蔵庫はないが、浴槽はあり、3つ星ホテルとして満足できるレベルといえる。

8月8日夕方6時すぎ、カルチャー&コングレスセンター(KKL)へ。クラウディオ・アッバード指揮ルツェルン祝祭管弦楽団によるオープニング・コンサート。夏の音楽祭の開幕である。

この日の座席は、Parkett rechtsの6列目右端。昨年座ったBalkon正面席やGalerieの座席と比べると、音響は格段に良い。響きの印象としては、ドイツのモダンなホールに通ずるものがあるが、残響が多めなので、金属的な硬さは抑制されて感じられる。あと数列後方の中央付近に座れば、管楽器が視覚的にも聴覚的にも浮き立つとともに、両サイドのバランスが向上し、完璧な音像が愉しめたであろう。やはりこのホールのベストポジションは、平土間前方席であった。

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この日は、オープニング・コンサートということもあって、冒頭にドイツ語によるスピーチが催された。合計3名のスピーカーが登壇したが、3人目のハンス・キュングのスピーチが1時間近くに及ぶ大演説で、ドイツ語を解さない外国人らにとっては、まさに辛抱の時間。言語体系上、話が長くなることは、織り込み済みだが、もう少し短くてもよかったのではなかろうか。

さて、プログラム前半は、ベートーヴェンの劇音楽「エグモント」全曲。ジュリアン・バンゼの独唱、ブルーノ・ガンツのナレーションにより演奏された。

20120808-02

この作品は、劇音楽という制約があるため、小さな動機をコツコツと積み上げながら音楽を組み立てる中期のベートーヴェンの特性があまり活かされておらず、音楽の構成面に弱さがある。それゆえ、現在では、序曲以外は滅多に演奏されることがない。

しかし、この日の演奏は、そういった音楽的な弱さを微塵も感じさせない素晴らしい演奏であった。序曲から終曲「勝利のシンフォニア」に至るまで、集中力が途切れるような瞬間は一度もなく、劇音楽としての完成度は非常に高かった。なお、アッバードらしいすっきりと明るいサウンドは、イタリアの太陽をイメージさせる音色で、アレグロでは、ロッシーニのような軽快さも垣間見られる。執拗に溜めることなく、前へ前へと運ぶ音楽設計は、いわゆるベートーヴェン像とは異なるため、賛否両論あると思われるが、流線型のフレージングは、作品の弱点を見事にカバーしており、この作品ではプラスに働いていた。他方、ffやsfでは、鳴りっぷりの良い金管セクションとともに、腰の据わった力感が演出され、全体を鳥瞰すると、ベートーヴェンのスコアに描かれた演奏効果がメリハリよく示されていたといえる。

最大の見物であったのは、ブルーノ・ガンツのナレーションとの白熱のコラボレーション。台詞と音楽が絶妙なタイミングで相互に掛け合いながら、圧倒的なパワーでもって高みへと昇っていく様子は、ベートーヴェンが描きたかった世界そのものであろう。オペラ指揮者アッバードの面目躍如たる熟練のタクトに目が釘付けであった。

一つ残念であったのは、ジュリアン・バンゼの独唱。この作品における独唱パートは、もともと華のあるものではないが、歌唱に力みが感じられ、パッとしない仕上がりになってしまったように感じられた。二日目、三日目と回を重ねるうちに、改善されてゆくであろう。

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ところで、近時のルツェルン祝祭管弦楽団は、アッバードの楽器といっても過言ではないほどに、音色に統一感がある。今回の場合であれば、薄めのビブラートにより演出されるしなやかな弦楽器サウンドは、雑味を一切含んでおらず、その純度の高さは他の追随を許さない。16分音符の刻みの粒立ちの良さ、ffでも音が荒れない美観は、高い技術力の現れであり、現代版ベートーヴェンの最先端を行くものであったといえよう。

なお、この作品におけるオーケストラの編成は、通常の16型の編成であったはずだ(筆者の座席からは、正確な数は確認できなかった。)が、昨年のブルックナーにおける21型という超巨大編成と比べると、コンパクトなサイズであったため、引き締まったサウンドで、全体の結束力はより高まっていたように感じられた。なお、弦楽器セクションに関しては、長年にわたりコンサートマスターを務めてきたコリヤ・ブラッハーが今回は参加していないなど、特にヴァイオリンのメンバーが若返った印象だ。この日は、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の第一コンサートマスタであるセバスチャン・ブロイニンガーがコンサートマスターを務めたが、全身を大きく揺らしながら演奏する彼の奏法は、他の奏者への合図という観点からはマイナスに働き、今回のような臨時編成オーケストラでは、裏目に出やすい。そのような状況下で、例年にも増して存在感を示していたのは、ヴィオラ首席のヴォルフラム・クリストであり、落ち着いた趣で、オーケストラ全体に目を配りつつ、中低弦を束ね、管楽器ともアイコンタクトを取り、アンサンブルを収斂させてゆくクリストの背中には、いぶし銀の威光が差し込んでいた。

プログラム後半は、モーツァルトのレクイエム。バイエルン放送合唱団とスウェーデン放送合唱団の混成チームによる合唱がとにかく素晴らしかった。幾度となく耳にしてきた作品ではあるが、今回初めて気づかされた部分も多く、モーツァルトが遺したハーモニーの深遠さに改めて感銘を受けた。

アッバードの指揮は、レクイエムの宗教音楽としてのキャラクターに強く引き寄せたアプローチ。バッハのカンタータに通ずるような合唱を主役に据えた音楽創りを志向する。言葉とブレスの結びつきが実に自然かつスムーズで、休符やちょっとした間も含め、時間軸上のあらゆる瞬間が「祈り」で満たされていた。

発せられる音の数々は、どこまでも清らかであり、ドラマ的な要素は全て捨象されている。ノンビブラートの古楽奏法による簡素で控え目なオーケストラの音色が、その印象をさらに強くする。この綺麗ごとに徹したかのような演奏スタイルは、批判も多いであろうが、キリスト教の立ち位置を踏まえると、納得の行く解釈である。使用する楽譜の違いなど、もはやどうでもよい。

指揮台の上のアッバードは、音楽の方向性を手元で小さく示す以外は、ほとんど動きを見せず、舞台上の各演奏者を静かに見つめ続ける。フレーズに籠められた静かな躍動感により演奏者全員のポテンシャルが引き出され、それらが舞台上で同一のベクトルの下に昇華してゆく光景は、宗教的儀式のようであった。冒頭のIntronitusから尋常ではない緊張感に包まれていたが、Sequentiaの5曲目Confutatisの終盤で、sotto voceが究極のppで演出されると、ホール内は真の静寂に包まれた。これに続くLacrimosaでは、客席で静かに目頭を熱くするジェントルマンらの姿が殊に印象的であった。Lux aeternaの最後の和音が鳴り響いた後に会場を支配した1分超の静寂がこの日の演奏の全てを語っていた。拍手をしようという気持ちすら起きなかったのは、初めての体験である。

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オーケストラに関しては、クリストの率いる中低弦による通奏低音が神業である。過不足のない厳かな歩みは、レクイエムに相応しい理想の響きであった。合唱を支えるトロンボーンセクションも、合唱と完全に同化しており、驚異的なクオリティといってよい。

この日の演奏における唯一のマイナスは、独唱陣の人選。マーラーの一千人交響曲を演奏するために呼ばれたスター歌手らであり、声の特性上、モーツァルトのレクイエムは、完全にミスマッチである。四重唱の場面などは、ヴェルディのレクイエムではないかと錯覚するほどであった。

今回のオープニング・コンサートでは、もともとマーラーの一千人交響曲が予定されていたが、芸術上の理由によりプログラムが変更された。振り返ると、この判断は適切であったと思う。超巨大編成のマーラーの作品を完璧に仕上げるだけのキャパシティが今回のルツェルン音楽祭にあったかといえば、その答えはNoであろう。

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終演後は、昨年と同様、Hotel Rebstock併設のレストランでディナーを。ルツェルン市内ではトップランクのレストランであり、静かな中庭で落ち着いて食事が愉しめる。筆者以外にも演奏会後のグループが数組訪れていた。


(公演情報)

Opening Concert
Wed, 8 August 2012 | 18.30 | KKL Luzern, Concert Hall

LUCERNE FESTIVAL ORCHESTRA
Bavarian Radio Choir
Swedish Radio Choir
Claudio Abbado conductor
Juliane Banse soprano (Beethoven)
Bruno Ganz narrator
Anna Prohaska soprano (Mozart)
Sara Mingardo alto
Maximilian Schmitt tenor
René Pape bass

Ludwig van Beethoven (1770-1827)
Incidental music to Goethe’s tragedy “Egmont” for soprano, narrator and orchestra, Op. 84

Wolfgang Amadé Mozart (1756-1791)
Requiem in D minor, K. 626 (edition by Franz Beyer/Robert Levin)
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[2012/08/20 18:04] | 海外視聴記(ルツェルン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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