ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年8月)⑦―ロッシーニ音楽祭―マリオッティ指揮「マティルデ・ディ・シャブラン」
8月14日午後7時前、シャトルバスにてホテル前のリベルタ広場からアドレアティック・アレーナへ。ミケーレ・マリオッティ指揮による「マティルデ・ディ・シャブラン」。今年最大の呼び物の一つである。

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会場となったアドレアティック・アレーナの平土間には、学校の体育館を思わせるような仮設の囲いが設けられている。天井に巨大な反響板が吊られているため、音が抜けてしまうことはない。もっとも、会場の特性上、またPAによる音場調整の結果として、響きが硬く、機械的になってしまうのはまだ我慢できるとしても、使用機材から発せられていたと思われるハウリングのような音が常時聴こえていたのは、どうにかして解決して欲しかった。ただ、舞台が熱気を帯びるにつれ、そうした問題点も気にならなくなっていった。

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筆者の座席は、下手側ブロック2列目。眼の前にコントラバスを臨むこの場所では、マリオッティのタクトを視界に入れ、オーケストラが音楽を組み立ててゆくプロセスを体感しつつ、舞台で繰り広げられる白熱の歌唱と演技を全身で受け止めることができる。筆者にとっては、最高のポジションであった。この演出では、役者が平土間に下りてきて演じる場面もあるため、通常以上に臨場感を味わうことができた。

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この日は、第一幕冒頭から緊張感に漲っていたが、第二曲のイジドーロのカヴァティーナにおけるパオロ・ボルトーニャの名演技により、集中力が一気に高まった。第三曲の四重唱は、真剣勝負そのもので、コッラディーノ役のフアン・ディエゴ・フローレスを軸に、イジドーロ役のボルトーニャ、ジナルド役のシモン・オルフィラ、アリプランド役のニコラ・アライモの個性がぶつかりあう。これに対して、父の苦悩を思い、嘆き悲しむエドアルドによる第四曲のレチタティーヴォとカヴァティーナは、アンナ・ゴリャコヴァにより切々と歌われ、対比が上手く引き立っていた。

音楽的な白眉は、第六曲の五重唱。観客からようやく笑いが漏れるようになると、舞台上もオーケストラにも表情に柔らかさが伴うようになり、表現に伸びやかさが加わる。しっとりとした中間部を経て、炸裂するアジリタのテクニックの数々、早口言葉による掛け合い、ロッシーニクレッシェンドを伴う力強いアンサンブルは、まさに圧巻であった。この曲に対しては、客席も沸きに沸き、爆発的な拍手と足踏みの音が長く続いた。

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第七曲のフィナーレも、20分を超える長大さを全く感じさせない充実度で、第二幕への期待を高めつつ、幕が下りる。

第二幕は、やや疲れが出たのか、冒頭は、第一幕に比べると、イジドーロ以外の出演者らのテンションがやや弛緩気味であったが、第九曲のシェーナとエドアルドのカヴァティーナに入ると、オーケストラメンバーの顔に真剣な眼差しが戻り、音楽に深みが増す。

第二幕の山場は、第十曲の六重唱。コッラディーノ役のフローレスは、やや守りに入っているようにも見受けられたが、それを気付かせないほどの巧みなコントロールは、現代最高のロッシーニ歌いの名に恥じない素晴らしいものであった。歌唱、演技、舞台、オーケストラ、客席の相互間で、気合いのこもったプロ意識に裏打ちされた真剣な火花が飛び交い、総合芸術としてのオペラの醍醐味が集約された瞬間であったといえる。

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最高潮に達した高揚感のまま、舞台は、第十一曲の合唱、第十二曲のエドアルドとコッラディーノの二重唱、第十三曲のフィナーレと順調に進行し、ロッシーニの素晴らしさを代弁する輝かしい幕切れとなった。

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今回のキャスト陣は、この作品の上演にあたり、現時点で考え得るベストの組合せ。レベルが揃うと、相乗効果で凄まじいパワーが生まれる。コッラディーノ役のフローレスは、期待通りの全力投球で、2004年の録音と比べ、表現の幅に深みが加わったように感じられた(なお、帰り際に聞こえてきた日本人常連客らの会話によると、この日のフローレスは疲れが抜け切っていなかったらしく、初日の方が出来が良かったとのこと。)。舞台全体を引き締めていたのは、マティルデ・ディ・シャブラン役のオルガ・ペレチャツコ。歌唱も凄いが、演技力が半端ない。あの表情で迫られたら、鉄の心の持ち主であるコッラディーノであっても、骨抜きにされ、頭は混乱に陥ってしまうだろう。筆者自身も見ていてぞくぞくしてしまった。準主役の各キャストも、役柄に最適な素晴らしい仕事ぶり。アンサンブルオペラの真骨頂ともいうべきこの日の上演に、筆者は興奮しっ放しであった。

マリオッティの指揮も、ロッシーニの書いた音楽の素晴らしさを引き立てる素晴らしいもの。伸びやかなフレージングと爽快な推進力は、現代のロッシーニ演奏のお手本ともいえるものだったが、加えて、場面ごとの響きの描き分けが素直かつ明快であった点にも感心させられた。歌手のコントロールには、ベテランの貫録すらも窺われ、ポイントを突いた鮮やかなアウフタクトにより、スター歌手らが伸び伸びと歌唱と演技に集中できる場を創出していた。ボローニャ歌劇場管との相性の良さも、抜群である。

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なお、印象的であったのは、常連客らの超怖い顔つきに勝るとも劣らないオーケストラメンバーらの超真剣な眼差し。レチタティーヴォの終盤で、イジドーロ役のボルトーニャのコミカルな演技に惹かれて、マリオッティが思わず笑ってしまう場面があったが、オーケストラも、前列を占める常連客も、全く表情を変えない。マリオッティもまだ若いなと感じてしまう瞬間であった。

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終演は午前0時を回る。シャトルバスでリベルタ広場に戻り、午前1時前、再びPizzeria Restaurant Donn'Amaliaへ。前日と同じ、あるいは似たような顔ぶれがフロアの一角を埋める。しばらくすると、フロア奥の関係者と思しきテーブルのもとに、指揮者とキャスト陣が集結。フロアの片隅で、怖い顔をしながらパンフレットを読み込んだり議論を繰り広げたりしていた常連客らも、盛大な拍手で彼らを迎える。前日よりも和やかな雰囲気。業界の重鎮らを前に、スター歌手らがリラックスした表情で明るく談笑する中、ペーザロ生まれロッシーニ音楽院卒業のマリオッティが、一人の学生のように小さくなって大御所らの話に耳を傾けていた姿が今でも目に焼き付いている。


(公演情報)

Adriatic Arena

14 agosto, ore 20.00

MATILDE DI SHABRAN

Direttore: MICHELE MARIOTTI
Regia: MARIO MARTONE


Interpreti 

Matilde di Shabran: OLGA PERETYATKO
Edoardo: ANNA GORYACHOVA
Raimondo: Lopez MARCO FILIPPO ROMANO
Corradino: JUAN DIEGO FLÓREZ
Ginardo: SIMON ORFILA
Aliprando: NICOLA ALAIMO
Isidoro: PAOLO BORDOGNA
Contessa d’Arco: CHIARA CHIALLI
Egoldo: GIORGIO MISSERI

ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO COMUNALE DI BOLOGNA
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[2012/08/20 20:27] | 海外視聴記(ペーザロ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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