ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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マゼール指揮N響―第1737回定期演奏会「言葉のない『指輪』」
10月19日午後7時前、NHKホールへ。ロリン・マゼール指揮NHK交響楽団による第1737回定期演奏会。マゼール編曲による「言葉のない『指輪』」の一本勝負である。会場内は、やはり8割強の集客状況で、2階席後方にある程度まとまった空席が見受けられた。

筆者の確保した座席は、1階席R2列目。低弦の気迫が肌で感じられる。先週に引き続き、このブロックに座ったが、音響バランス的に筆者好みのポジションである。

この日のN響は、いつものN響とは全く違った。マゼールにより催眠術にでもかけられたのではないかと思わずにはいられなかった。後述のとおり、「ワルキューレ」のあたりからは、音楽が怒涛のごとく噴出し始め、弦楽器セクションは縦横無尽に波を生み出し、木管セクションは明晰かつ鮮烈に響きを重ね、金管セクションは巨大な建造物のように迫ってきた。骨格のしっかりした荘厳なワーグナーであり、その強靭な意思は、終始一貫していた。しかし、これだけ体当たり的な表現であるにも関わらず、全体は理知的に構成されており、完璧に計算されていた。ゆったりめのテンポを採ることで、響きの安定と充実を図ったことも功を奏したようだ。ディテールの創り込みも半端なく、全ての音の粒がキラキラと引き立っていた。これは、日本人の美観が反映された芸術表現だ。個々の金管楽器の線の細さに目をつぶれば、世界レベルの響きといえ、N響の歴史に残る圧倒的な名演であったといえる。

振り返ると、「ラインの黄金」の冒頭から、コントラバスをベースに、ライン川の広大な情景がじわじわと広がってゆく。この時点で、舞台上のオーラが違った。そんな雰囲気を察してか、客席内も演奏開始直後から静まり返った。第二場から第三場への場面転換音楽では、鉄を鍛える光景が演奏されるが、鉄床の打撃音がこれでもかとばかりに痛烈に鳴り響き、聴いている方も催眠術にかけられそうな錯覚に陥った。筋肉質の弦楽器セクションも、響きに全くムラがなく、上質の音色で引き締まった演奏を展開していたのが印象的。ゲスト・コンサートマスターとして、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターであるヴェスコ・エシュケナージが登場したが、コンサートマスターが変わるだけで、ここまで音色が変わるのかと思わずにはいられなかった。第四場幕切れ近くの場面では、弦楽器の分散和音が細かい水滴とともに虹色に光り輝く。轟く巨大な雷鳴の衝撃も恐ろしすぎる。曲の冒頭からとてつもない緊張感が漂っていたが、「ワルキューレ」に入るあたりから、舞台上は、神がかり的な雰囲気へと変わっていった。

「ワルキューレ」では、前奏曲より続く「ジークムントの愛の眼差しを『見る』我ら」における上質なカンタービレに心を奪われる。「ジークムントとジークリンデの逃避行」「ウォータンの怒り」「ワルキューレの騎行」は、よくよく考えれば、話が飛びすぎだが、一貫したストーリーのように聴こえてしまうのが不思議。催眠術にかけられたオーケストラはエンジン全開。悪魔的な押し出しの強さに、聴き手の心は打ちのめされる。眼の前のコントラバスセクションが地を這う大蛇のようなうめき声を全身で表現していたのが今でも目に焼き付いている。「ウォータンの告別」は、音楽が壮大すぎて、もはや言葉も出ない。

「ジークフリート」では、「ジークフリート、森をさまよう、森のささやき」の場面の深遠さが一つの山場。

いつの間にか音楽は、「神々のたそがれ」へとつながり、この日の演奏のクライマックスである「ジークフリートの葬送行進曲」と「ブリュンヒルデの自己犠牲」に至る。ここまで来ると、細かな説明は不要。全ての集大成として音楽が昇華していた。格調の高さ、雄弁さ、表現の彫りの深さ、演奏効果のいずれに関しても、最上の芸術表現であり、涙なしには聴けないフィナーレであった。

この日のマゼールの眼からは、いつもにも増して真剣な眼差しが放たれていた。変化球による魔術師というレッテルを拭い去る大巨匠による真っ向勝負。ワーグナーの音楽の継接ぎだけで、これだけの音楽に仕立てる手腕も凄いが、これは単なる編曲という次元を超えており、一つの芸術作品として継承されるに値するものであると感じた。ワーグナーとマゼールが四つに組み、日本人の職人気質も相まって創り上げたこの日の演奏は、まさに一期一会といえる。マゼールは神か悪魔か。

カーテンコールは、熱狂することすらも忘れてしまったかのような状況。フライング拍手をする輩もおらず、心を満たされた状態のまま、帰路につくことができた。


(公演情報)

第1737回 定期公演 Cプログラム

2012年10月19日(金)7:00pm
NHKホール

指揮:ロリン・マゼール

ワーグナー(マゼール編)/言葉のない「指環」~ニーベルングの指環 管弦楽曲集
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[2012/10/20 10:22] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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