ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年11月)④―サンティ指揮チューリッヒ歌劇場「仮面舞踏会」
11月24日早朝、ヴェネチア・サンタルチア駅を発ち、Frecciargento 9407でボローニャ中央駅へ、Frecciargento 9508に乗り換えてミラノ中央駅へ、さらにEuroCity 16に乗り換えてチューリッヒ中央駅へ。EuroCityが30分以上遅れたため、合計8時間に及ぶ列車の旅となった。

チューリッヒ中央駅から橋を渡ってすぐの場所に位置するHotel du Theatreにチェックイン。新しくて綺麗なビジネスホテルで、設備は最低限は揃っていたが、いかんせん部屋が狭かった。寝るだけなので、問題はなかったが。

チューリッヒ市街地の中心部では、早くもクリスマスマーケットが開催されていた。BratwurstとGlühweinで軽食を済ませ、ホテルに戻り、身支度をする。

20121124-04

午後7時前、チューリッヒ歌劇場へ。ネッロ・サンティ指揮によるヴェルディ「仮面舞踏会」。2011年4月新演出で、2012年5月に続く再演だが、今回はオスカル役のセン・グオ以外の主要キャスト陣が入れ替わり、また新演出時に出演したウルリカ役のイヴォンヌ・ナエフが戻ってきた。筆者にとっては、悪夢のようだった2012年5月の寝過ごし事件のリベンジとなる。

20121124-01

今回の鑑賞の目的は、マエストロ・サンティのアウフタクトを改めて凝視して観察することにより、そのエッセンスを脳裏に焼き付けること。筆者の確保した座席はParkett linksの1列目下手側で、もう少しセンター寄りの方が望ましかったが、右を向けばマエストロの横顔を直視できるポジションであり、目的は達することができた。加えて、今回は、目の前にヴァイオリンとコントラバスが陣取る関係で、弦楽器の響きの重なり方をも体感することができたというオマケもあった。

20121124-02

この日のマエストロ・サンティは、絶好調。今回は、事前に十分な打合せがなされていた模様である。タクトはいつになく冴えわたっているし、途中で笑みもこぼれるなど、歌手やオーケストラとのコミュニケーションも良好であった。歯車がうまく噛み合わないときに散見される喝を入れるような細かな打点は、この日はほぼ皆無であった。それゆえ、全体を通じて力みがなく、カンタービレにも適度な明るさと華が備わる。歌手もオーケストラも、自発性に富んでいたのが良かった。無論、演奏水準も申し分なく、最初のピッチカートから、幕切れのAllegroに至るまで、全ての音が活き活きと輝いているし、しかも舞台芸術として非常に高い次元で完成されていた。筆者が最近観た中では、最も状態が良好であったと断言できる。

マエストロが指揮台に立つ舞台は、何回観ても、新たな発見が満載である。今回は、筆者自身が事前にスコアをある程度まで読み込めていたため、マエストロの思考プロセスをライブで追いかけることができたが、学ぶべきことが多すぎて、筆者自身の中での頭の整理にはしばし時間を要するであろう。

20121124-05

備忘のため、キーワード的に記しておくと、いずれもあまりに基本的なことであるが、第一は、フォルテの意味と解釈、そしてその実践。これは、客席にいる聴衆にとって、フォルテとして感じられることが大切だということである。音量の問題ではない。場面に応じて適切なアウフタクトがあり、力強く振ればよいというものではなく、またオーケストラ側も力任せに鳴らせばよいというものではない。第二は、響きの重心の据え方。leggeroやsotto voceからsostenutoまで、輪郭は明確に、しかし重くなったり音色を潰れたりすることはなく、スッと心に入るバランスを、タクトの位置と高さで一目瞭然に示唆するマエストロのアウフタクトは、実によく考え抜かれている。今回は、leggeroのニュアンスと場面転換直後の和声感の変化が特に印象的であった。第三は、歌手の呼吸を一歩先取りしたアウフタクトの図り方。歌詞の全てが音楽の流れの中に完璧に収まっている(はみ出たと思わせる箇所が一つも生じない)というのは、当たり前のように思えて、実際には滅多にお目にかかれるものではない。もちろん多少のズレは生ずるが、そのズレも含めて音楽であり、舞台である。歌手に合わせすぎると、グダグダになるし、頑固にテンポを守ろうとすると、チグハグになる。本当に難しい。言葉のイントネーションと歌手の息づかいに対する慧眼があって、アウフタクトに熟練したマエストロのみが成し遂げられる匠の技といえる。意図的に、引き締めたり緩めたり、また導いたり助け舟を出したり、そんな駆け引きの連続は、誰にも真似できるものではないだろう。他にもいっぱいあるが、これくらいにとどめておく。

マエストロ・サンティは、伝統芸能としてのイタリアオペラをより進化させて現代に伝える人間国宝というにふさわしい。聴衆の方も、それを知ってかは知らないが、マエストロがオーケストラピットに登場するや否や、まだ始まってもいないのに、劇場全体からブラボーの嵐。マエストロは、満面の笑みで、嬉しそうにその声に応える。その並々ならぬ期待感を受け、劇場全体に適度な緊張感が走り、オーケストラピットの中にも気合いが迸る。休憩後、そしてカーテンコールでも、マエストロへの賛辞で劇場内は大騒ぎだ。他方で、ひとたび音楽が始まれば、聴衆は静寂を保ち、舞台に集中する。もちろんフライング拍手などという愚行は全く起こらない。というよりも、それを可能にするマエストロの自然体なオーラが凄い。この空気、どこか日本の歌舞伎に似ている気がした。

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新体制に移行し、チューリッヒ歌劇場の行く末に一抹の不安を感じていたが、マエストロ・サンティとの関係性に限っては、全くの杞憂であった。ここまで指揮者をガン見するオーケストラは、他に見たことがないし、このオーケストラ自体も、生まれ変わったかのようであった。マエストロのアウフタクトに集中し、それに応え、さらに新たなチャレンジを続けようとするピット内の各奏者の横顔には、プロとしての自信と誇りが感じられるとともに、マエストロとの貴重な体験の一つひとつを心の底から楽しんでいる様子が窺われた。

キャスト陣も全力投球。グスターヴォ役のラモン・ヴァルガス、アメーリア役のタチアナ・セルジャン、レナート役のアレクセイ・マルコフとも、すでに十分なキャリアを持つ名歌手らだ。しかし、そんな彼らが、マエストロのタクトに喰らいつき、学生のように、体当たり的な歌唱と渾身の演技により役柄を演じているのを観るのは、本当に気持ちがよい。たまに気負いが出て、若干のしくじりが生ずる場面も無くはなかったが、むしろ好感が持てた。ウルリカ役のイヴォンヌ・ナエフとオスカル役のセン・グオは、役柄が板についた感じで、表現に伸びやかさと貫録が加わり、素晴らしかった。なお、演出に関しては、相変わらずではあるが、回を重ねるにつれて、刺々しさが薄れ、落ち着きが感じられるようになった。プロダクションが良い方向で変化してゆく好例といえるだろう。

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今回は、襟を正して観劇した2時間45分。本当にあっという間であった。終演後に楽屋口でマエストロを出迎える。いつも以上に笑顔が素敵だ。包み込むような手で握手をしてもらい、筆者にもこの名作の指揮を成し遂げられる気がしてきた。

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開演前に、来年4月のファルスタッフの初日のチケットを入手。オンラインではSold outであったが、Box officeに掛け合ったところ、Parkettの1列目のど真ん中を用意してくれた。オペラ指揮者としての筆者の勉強は、さらに続く。


(公演情報)

Un ballo in maschera
Oper von Giuseppe Verdi

24 Nov 2012, 19:00
Wiederaufnahme

Musikalische Leitung - Nello Santi
Inszenierung - David Pountney

Philharmonia Zürich
Chor der Oper Zürich
Zusatzchor der Oper Zürich

Gustavo III, König von Schweden - Ramon Vargas
Renato Anckarstroem - Alexey Markov
Amelia - Tatjana Serjan
Ulrica Arvidson - Yvonne Naef
Oscar - Sen Guo
Cristiano - Elliot Madore
Giudice - Dmitry Ivanchey
Ribbing - Erik Anstine
Horn - Dimitri Pkhaladze
Servo d'Amelia - Jan Rusko
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[2012/11/26 16:27] | 海外視聴記(チューリッヒ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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