ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(12年11月)⑥―ムーティ指揮ローマ歌劇場「シモンボッカネグラ」
11月26日、ブリュッセルに移動。国際会議への出席等の所用を済ませる。昨年お世話になった上司や仲間、そして繰り返し足を運んだレストランのシェフやマスターから、温かい歓待を受ける。当時、毎週訪れていたマルシェのお肉屋さん、チーズ屋さん、ワイン屋さんのスタッフも、筆者を見つけるや否や、笑顔で声をかけてきてくれた。約1年ぶりのブリュッセルの街は相変わらずではあるが、このカオスな雰囲気が筆者にとっては心の落ち着く場所として胸に刻まれていることを今回の再訪で実感した。

11月29日早朝、SN3175便にてブリュッセルからローマへ。前の晩に深酒をしたため、若干辛い。ローマ・テルミニ駅に到着後、すぐに宿泊先であるHotel Demetraへ。このホテルは、4つ星にしては簡素だが、部屋は小奇麗にまとまっていて、受付の対応もよい。オペラ座から徒歩1分という立地を考えると合格点。

チェックイン後、しばし仮眠をとり、午後1時すぎに、昼食のため、5月にも来訪したダ・オイオ・ア・カーザ・ミア(Da Oio a Casa Mia)へ。トンナレッリとコーダ・アッラ・ヴァッチナーラを食す。ローマの街の雰囲気をそのまま伝えるような威勢のよさは、相変わらずだ。料理も安定感がある。食後はすぐにホテルに戻り、夕方まで仮眠。

午後7時半すぎ、オペラ座へ。リッカルド・ムーティ指揮ローマ歌劇場によるヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」。2日前にプレミエを迎えたばかりの2012/2013シーズン開幕演目である。噂に違わず、とてつもない名演であった。感動という言葉では到底表現しきれない奇跡の一夜であった。

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筆者が発売初日にインターネットで確保した座席は、前回の訪問時にも座ったBalconata di 1a Filaの1列目下手側。音響的に若干遠さを感じるが、舞台全体をほぼ正面から捉えるとともに、オーケストラピットを見渡すことができ、何よりもムーティのタクトにより劇場全体の空気がどのように動いているのかを客観的に把握するには丁度よい。

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「シモン・ボッカネグラ」は、作曲されたのは1857年、ヴェルディが43歳という円熟期の作品であるが、初演から24年後に大幅な改訂が施された。そのため、歌唱のベースはベルカントそのものであるが、管弦楽の手法には「アイーダ」や「レクイエム」に通ずる深遠さが色濃く反映されている。そのため、演奏にあたっては、そのバランスをどのように図るかが実に難しい課題となる。また、物語の内容も渋く、政治的な背景や人間関係が複雑に入り組んでいるため、各場面の立ち位置をシンプルに示すには、イタリアの歴史に対する相当の知見が求められる。

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「シモン・ボッカネグラ」は、筆者自身も非常に魅力を感じている作品の一つで、これまで多くの上演や収録に接してきたが、一度たりとも完全に満足できたことはなかった。というのも、筆者が知る「シモン・ボッカネグラ」の上演では、管弦楽の雄弁さが際立ってしまっていたり、ベルカントの様式を超えた豊潤さがリズム感や拍子感や旋律のしなやかさを犠牲にしてしまっていたり、内容面での意思や主張の弱さに萎えてしまったり、場面転換の多さゆえにプロローグから第三幕までに至る一貫性が感じられなかったり、場面や心情の微妙な移ろいを暗示する移行部分の継接ぎ感が露呈してしまったりというように、オビに短しタスキに長しの座りの悪さが露呈してしまい、筆者自身がこの作品に潜在すると信じて疑わない結集力がうまく発揮されず仕舞のものばかりであったからだ。

しかし、今回のムーティによる上演は、「シモン・ボッカネグラ」の上演史を完全に塗り替えた偉業といっても過言ではない。筆者がこれまで感じてきた違和感や不満を一掃するのみならず、それを遥かに超える深い洞察と信念をもって、この作品の素晴らしさを率直かつ直截に語ってくれた。

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今回の旅程では、2日後に再度平土間席で鑑賞予定のため、この日は、舞台上には意識を向けず、純粋に音楽を聴くことに専念した。そうすると、スコア上の記載の一つひとつが力強い輝きを放ちながら訴えかけてくることに気付かされる。

全体としては、物静かな語り口であり、響きはむしろライトで明るい。フレーズ末尾に現れた究極のピアニッシモの数々は、作品全体を支配する登場人物らの心痛な表情を反映しての結果といえよう。ムーティのタクトは、出演者、そして観客に対し、いつもにも増して弱音のニュアンスへの集中を求めるものであった。

爆音で弾き散らかされてしまうことの多い強奏部も、音量的にはかなり抑制が効いており、音楽的な彫りの深さが現出するのが秀逸。音の粒や輪郭は、楷書体でピリッと引き立っているから立派である。

かと思うと、政治闘争を背景とした暴動やシモンの演説、パオロの告発といった象徴的な場面では、金管楽器の強烈な音が恐ろしく鳴り響く。ヴェルディの作品において、これほど重い響きを聴いたのは、初めてである。

この作品のもう一つのテーマである父と娘の情愛における感動的な響きの拡がりも印象的であった。アメーリアの存在を必要以上に美化しないアプローチもよく考えられている。ポイントを厳選した上で、前へ前へと掘り下げてゆく息の深いカンタービレは、飾り物ではない歌心の反映であり、心にグッと迫ってきた。

ムーティは、言葉を発することなく、音楽の力により演説を行い、何らかの問題提起を試みていたと思われる。「平和を!」という声が何と説得的に響くことだろうか。「対立」が「和解」へと転ずるというこの作品のテーマがこれほどまでに有意に語られたことはおそらくなかったはずだ。シモンが静かに息絶える場面の厳かさは、全ての完結を示唆するもので、心に静かに染み渡る感動的な響きであった。

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今回の上演では、妥協の一切ない徹底したリハーサルの痕跡が窺われる。70歳を超えて初めてこの作品を採り上げたムーティの意気込みの強さの表れといえよう。キャスト陣の配役のバランスも理想的だ。ムーティの目指す世界を表現するには、スター選手を集めて一期一会による舞台を創るよりも、実直に妥協なく準備を重ね、出演者全員が完全に作品を消化した上で上演できる環境が必要なのであろう。今のムーティにとって、ローマ歌劇場がその場として最適な環境であることは間違いない。

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ローマ歌劇場の唯一の問題点は、客席からノイズやフラッシュが発生する場面が少なくないこと。ムーティのあの姿を目の当たりにしたら、襟を正して鑑賞する以外にないと思うのだが。ともあれ、カーテンコールは「ブラボー!マエストロ!」の一色であった。

終演後はホテルに直帰。興奮してしばらく寝付けなかった。再度スコアを見直し、2日後に備えたい。


(公演情報)

Simon Boccanegra
Musica di Giuseppe Verdi

Teatro dell'Opera
Giovedì, 29 Novembre, ore 20.00
Nuovo allestimento

Direttore - Riccardo Muti
Regia - Adrian Noble

Simon Boccanegra - George Petean
Maria Boccanegra (Amelia) - Maria Agresta
Jacopo Fiesco - Dmitry Beloselskiy
Gabriele Adorno - Francesco Meli
Paolo Albiani - Quinn Kelsey
Pietro - Riccardo Zanellato
Un Capitano dei balestrieri - Saverio Fiore
Un’ancella di Amelia - Simge Bűyűkedes

ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
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[2012/12/02 17:44] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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