ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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東京クヮルテット―2013年日本ツアー①
5月16日午後7時前、オペラシティへ。東京クヮルテットの2013年日本ツアー。結成以来43シーズンを経た東京クヮルテットは、2012/2013シーズンを最後に解散することを発表しており、今回のツアーは日本で彼らの演奏を聴ける最後のチャンスとなる。ホール内は熱心なファンでほぼ満席であり、演奏中はほぼ無音に近い静寂が保たれていた。

筆者の確保した座席は、1階席3列目上手側。至近距離ゆえ、各メンバーが交わす呼吸やアイコンタクトを間近に捉えることができる。現在の東京クヮルテットの最大の特徴は、各メンバーの対等性といえるが、あたかも部屋の中で老紳士4人が語り合っているかのような独特の雰囲気は、ライヴでなければ感じ取れない魅力だ。落ち着いた趣でステージに登場し、各自が物静かに準備をし、4人の顔が上がったところで、「では始めましょうか」といったアイコンタクトで、楽器を構え、音楽が流れ始める。颯爽として前向きかつ軽やかだが、いぶし銀のような深い含蓄が行間から滲み出る。気負いのない自然体の立ち振る舞いの中に、芸術としての室内楽の本質を見て取れたように感じた。リーダーが引っ張るスタイルや、音楽仲間が趣味で集って繰り広げる演奏とは、異次元の領域にある。

プログラム前半一曲目は、ハイドンの弦楽四重奏曲第81番。全部で83曲あるハイドンの弦楽四重奏曲のうち、最後の曲集にあたる作品77「ロプコヴィッツ四重奏曲」の一曲目で、ハイドンの最後期の作品の一つ。シンプルな構成の中に、複雑な色合いが大胆かつさりげなく仕込まれており、味わい深い傑作である。実はこの作品については、筆者は2011年11月にブリュッセルにおいて彼らの演奏を聴いているが、ホールの音響、座席の位置、会場の雰囲気のどれをとっても、この日の演奏の方が優れていた。ブリュッセルで聴いたときに感じた違和感は全て解消され、ホールの音響の重要性を再認識させられた。

4人の対話を通じて浮かび上がるハイドンの世界は、実に奥が深い。古典的な様式性からロマン的な色彩まで、自然な流れの中で明確に描き分けがなされており、この作品の素晴らしさを代弁する。また、時折姿を見せる精神的な深遠さは聴衆の襟を正させる。古典の分野において東京クヮルテットが追求してきたものの集大成といえるかもしれない。

プログラム前半二曲目は、コダーイの弦楽四重奏曲第2番。この作品の普遍的な魅力を純音楽的に浮かび上がらせた名演であったといえる。

彼らの演奏では、民族的色彩は前面には現れず、耳を打つような刺激的な音は皆無である。しかし、一つひとつの響きの描き出す鮮烈さは、聴き手の心に深い印象を残す。テクスチュアに織り込まれた多彩なニュアンスが絶妙なバランスで再現されるが、そこには作為が全く感じられず、全てが自然体の中で浮かび上がるのは、東京クヮルテットの歴史と蓄積から導き出された一つの解なのであろう。時代を超えて輝きを放ち続ける演奏スタイルがそこにはあった。

プログラム後半は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番。最終ツアーのコンサートを締めくくるに相応しい充実の名演奏であった。

ベートーヴェンになると、4人の対話にも自ずと熱が帯びる。対話が議論に変わり、そして共同作業へと変異してゆく過程を追いかけるのは、聴衆として実に幸せな時間であった。特に、第四楽章の変奏曲における陰影に富んだカンタービレと第五楽章の絶妙な語り口は、言葉では表現できないほどの感銘を筆者に与えた。また、最終楽章に見られた決然とした姿勢は、弦楽四重奏に託した東京クヮルテットの想いの強さを窺わせるものであった。若干の粗は生じていたが、そういった些細なことはどうでもよいという気持ちにさせるだけの気概が伝わってくる演奏であった。

アンコールは、モーツァルトの弦楽四重奏曲第20番「ホフマイスター」より第二楽章と、ハイドンの弦楽四重奏曲第74番「騎士」より第四楽章。少しだけ緩めて、最後はピリっと締めるというプログラミングには、東京クヮルテットの哲学が反映されており、この秀逸な路線は、最終ツアーでもブレることはなかった。

カーテンコールでは盛大なスタンディングオベーションとなり、池田と磯村の両氏が感慨深そうな表情で聴衆に感謝の意を示している姿が印象的であった。


(公演情報)

2013年5月16日(木)19:00開演
会場:東京オペラシティコンサートホール

東京クヮルテット

曲目
ハイドン:弦楽四重奏曲 第81番 ト長調「ロブコヴィッツ」op.77-1
コダーイ:弦楽四重奏曲 第2番 op.10
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 op.131
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[2013/05/18 23:05] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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コメント
こんにちは。同じ思いで同じ空間に居合わせた方の感想を見つけ、演奏会の感動が蘇りました。TBさせていただきました!
[2013/05/21 09:48] URL | pockn #wX91eK8E [ 編集 ]
コメントを頂戴し、誠にありがとうございました。私自身も、同じ想いを寄せていた方に巡り会え、光栄に存じます。王子ホールで行われたラストコンサートも、心に残る最高の演奏会でした。
[2013/05/26 09:45] URL | 筆者 #- [ 編集 ]
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