ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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東京クヮルテット―2013年日本ツアー②「ラストコンサート」
5月21日午後7時前、王子ホールへ。東京クヮルテットのラストコンサート。結成以来43シーズンを経た東京クヮルテットは、2012/2013シーズンを最後に解散することを発表しており、この日は彼らによる日本での最後の演奏会となる。ホール内には、彼らの演奏に永年にわたり親しんできたファンが集い、異様な空気に包まれていた。この日のプログラムは、ハイドン、バルトーク、シューベルトのそれぞれの最後の作品を並べた記念碑的な選曲。本当にこれで「お別れ」なのだと思うと、それだけで感慨深くなってしまう。

発売初日のチケット争奪戦の中で筆者がギリギリ確保できた座席は、I列5番。発売開始から10分後にようやく繋がった電話では、既に完売したという無下な返答であったが、念のためにと思ってネット予約を試みると、この1枚だけが偶々残っていたので、すかさずゲット。こうして最後の1枚を入手したのであった。客席数315席の空間は、どの場所に座ってもステージとの一体感が強い。飛んでくる音は生音に近いので、やや硬さも感じたが、大ホールや中ホールにおける演奏のように響きが拡散しないので、「室内楽」を鑑賞する場としては、上々の環境といえるだろう。

プログラム前半一曲目は、ハイドンの弦楽四重奏曲第83番「未完」。ハイドンが書き残した最後の弦楽四重奏曲であり、中間の2楽章しかない未完成の作品である。

この日の演奏は、前の週にオペラシティで行われた演奏とは、趣を異にしていた。いずれもハイドンから始まるプログラムなのだが、オペラシティにおける演奏会では、自然体の中に味わい深さが滲み出るような演奏であったのに対し、この日の演奏は、石像に対して彫刻刀を大胆に刻み込むような凛々しい演奏。プログラム構成を踏まえたアプローチの違いなのか、ホールの違いが印象を変えたのか、それともラストコンサートというシチュエーションがそうさせたのか、不明だが、バルトークとシューベルトへと続くこの日のプログラムの中で、その導入として輝きを放つ演奏であったことは間違いない。

プログラム前半二曲目は、バルトークの弦楽四重奏曲第6番。これは、まさに「神」演奏であった。

4人の一体感が半端ない。全てが精緻に組み合わさり、喜怒哀楽がダイレクトに伝わってくる。まるで一体の人間の動きのようだ。この点は、4人の対話を基軸とした温かさに包まれていた前の週のオペラシティにおける演奏とは、対照的である。メスト(悲しげに)の主題を起点として、精密時計の歯車が滑らかに廻り始めると、魂が宿りはじめ、数々のドラマを現出させながら、成長を続ける。そして、第四楽章の回想シーンでは、後光が差し込み、神が降臨して終わりが告げられる。この日の演奏は、彼ら自身による44年間の回想でもあったのであろう。

プログラム後半は、シューベルトの弦楽四重奏曲第15番。「東京クヮルテットよ、永遠なれ」という標語が相応しい演奏であった。響きの面でも内容的にも、弦楽四重奏の域を完全に超越していた。これだけ想いの詰まった演奏は、筆者の今後の人生の中で、二度と耳にすることはないであろう。天空の世界から地上に降り立ち、現世の肌感覚にも触れつつ、最後はスッと消えて天空に帰ってゆく。そんな演奏であった。

第一楽章の提示部は、ため息をつきたくなるほどに美しく、切なく、そして透明感に満ちていた。静かに揺れ動く旋律は、その余韻が心に沁み渡り、トレモロが醸し出す艶のあるベールは、実に神々しい。筆者の心は、この時点で既にノックアウトであった。

ところで、今振り返ると、この日の演奏は、楽章全体の設計という観点からも、秀逸であった。第一楽章は、盛り上がるポイントが多数含まれるため、騒々しい演奏に陥りがちであるが、楽譜上、ffが記された箇所は、数ヶ所しかない。数少ないffを堂々とした質感で表現するとともに、長大な楽章全体をバランスよく配分し、客観性を保ちつつ、随所に別れの歌を織り込む。最高の芸術表現である。

第二楽章は、より現実に近づいた表現で、劇的なドラマが心を打つ。4本の楽器が交錯して生み出される響きの移ろいが絶品でもある。感情が乗り移っても、威厳と格調を保ち続ける彼らの演奏には、大いなる感銘を受けた。

第三楽章では、躍動感が加わり、音の粒の煌めきが増した。第四楽章への橋渡しとして、最高の演出であった。

第四楽章は、至福のひと時としか表現のしようがない。和声変化に伴う表情の多彩さは見事であり、最後の演奏にしては、心憎いほどに愛らしく、軽やかで、そして前向きである。ロンドの流れの中に永遠に身を委ねていたい気持ちにさせられた。終盤に向けて、彼らの演奏にもラストコンサートに相応しい熱と気合いが籠り、心にズシンと響く忘れがたい演奏となった。

カーテンコールは、ブラボーを叫ぶような雰囲気にはなく、ただただ温かい拍手に包まれた。アンコールは、ドビュッシーの弦楽四重奏曲から第三楽章。彼らの辞世の句に、その場に居合わせた聴衆としては、涙する以外の選択肢はなかった。記憶に残る素敵な演奏会であった。


20130521-01

(公演情報)

東京クヮルテット ラスト・コンサート
2013年5月21日(火)19:00開演
会場:王子ホール

ハイドン:弦楽四重奏曲 第83番 変ロ長調/ニ短調 Op.103
バルトーク:弦楽四重奏曲 第6番
シューベルト:弦楽四重奏曲 第15番 ト長調 Op.161, D.887
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[2013/05/26 09:28] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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