ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(13年8月)①―ザルツブルク音楽祭―ハーゲン弦楽四重奏団「ベートーヴェンチクルスⅠ」
8月16日午前1時、NH203便にてフランクフルトへ、そして3時間の乗継でLH1102便にてザルツブルクへ。ビジネスクラスにアップグレードしたため、機内ではロッシーニの予習をするなど、快適に過ごせた。機内やラウンジの様子から、バカンスシーズンであることが如実に窺われる。

ザルツブルク到着は午前10時すぎ。気温は30度近いが、乾燥して清々しい青空である。この日差しを浴びると、欧州に来たなと思う。空港から市内へはバスを利用したが、中央駅に向かう道路渋滞の影響で、40分くらいを要した。今回の宿泊先は、中央駅から徒歩5分に位置するAtel Hotel Lasserhof。設備的には、冷蔵庫やWifiも含め、3つ星レベルとして必要なものが一通り揃っており、アメニティが貧弱な点を除くと、価格も含め、納得はできる。早めのチェックインが出来なかったので、ロビーで小一時間ほど残務を処理し、シュターツ橋からLinzergasseを新市街側に数分戻ったところにあるGablerbräuで、アンバービールとともに、グラーシュスープ、牛テールの赤ワイン煮をチョイス。香りの高いアンバービールとスパイシーな料理の組合せは上々で、価格的にもお手頃感がある。観光地価格のザルツブルクにおいて珍しく再訪してもよいと思えるレストランに巡り会った。

午後2時半頃、ホテルに戻り、チェックイン。3時間ほど休息を取り、午後6時半頃、モーツァルテウムの大ホールへ。

20130816-01

今回のザルツブルク音楽祭における隠れた目玉企画の一つ、ハーゲン弦楽四重奏団によるベートーヴェン・チクルスの初日である。祝祭大劇場とは異なり、セレブの社交界的な雰囲気は薄く、むしろ地元の音楽ファンや世界各地のコアな愛好家らが集まった模様だ。会場内のマナーは良く、安心して音楽に集中することができた。

音楽祭サイトを通じて筆者が確保した座席は、平土間7列目上手側。壁に近かったためか、音が若干遠く感じる。もっとも、適度な余韻と明晰な響き、楽器間のバランス、そしてオーストリアの気候をそのまま音にしたかのような柔らかく艶のある音色は、演奏者の力量と聴衆のマナー水準が高ければ高いほど、より発揮される。逆に、演奏者の不注意やホール内のノイズが恐いほどに露呈するため、誤魔化しは全く通用しない。ホールが楽器であるという言葉がそのまま当てはまる数少ない音楽ホールであり、モーツァルテウムの大ホールは、ウィーンにゆかりのある室内楽演奏を鑑賞するには世界一の空間ではないかと感じた。

20130816-02

プログラム前半一曲目は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」。結論から言うと、この作品に関しては、硬さが出たのか、彼らの本来の実力が十分に発揮されないままに終わってしまった。

第一ヴァイオリンのルーカスがやや安定感を欠いたことが原因の一つと思われる。音をわずかでも外すと、それを包み隠さず客席に伝えてしまうこのホールの特性が災いした。また、彼らの演奏に時折見かけられる急ハンドルを切ったかのような場面転換は、作品の特性上、意図は理解できるが、この日の演奏のこの作品の演奏に限っては、唐突さを拭えず、やや作為的に聴こえてしまった。最初の曲ゆえ、演奏者側も聴衆側もお互いに様子見のような空気が漂っていたのも確かであり、演奏会の導入の難しさを実感した。

第一楽章は、そうした危うさが散見されてしまった感があり、良い部分もたくさんあったが、全体としてはいま一つな印象であった。

他方で、第二楽章に関しては、息をのむような瞬間の連続であった。静寂の中から厳かに奏でられるカンタービレは、フレーズの展開を経ても絶えず根底に流れ続けており、楽章全体の構成美を如何なく表現できていた。緩徐楽章における静かなカンタービレは、この日の演奏全体において一貫していた最大の特徴であった。

第三楽章は、スケルツォではあるが、あくまでも歌に立脚した節回し。巷には力技に終始してしまう演奏が多いが、そうした世俗的な演奏とは一線を画した解釈で、非常に好印象。通常であれば力が入ってしまう16分音符をスマートに収めて推進力に変える力量には、驚かされた。

第四楽章冒頭は、第二楽章と同様、節度のある落ち着いた響きが印象的。ただ、主部に入った後、fやffで示される長い音符につき、音を厚くしたり薄くしたりと、色々と使い分けがなされており、楽譜に根拠が求められるものの、違和感は拭えなかった。

この作品に関しては、客席の反応もいま一つで、拍手の量もそこそこであった。

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これに対して、プログラム前半二曲目のベートーヴェンの弦楽四重唱曲第10番「ハープ」は、圧倒的な名演奏であった。

この作品は、ハーゲン弦楽四重奏団の持ち味が発揮されやすい作品といえるかもしれない。明るく伸びやかで艶のある音色、弱音になっても決して緩まないスピード感、歌を基調とした音楽設計、どの点においても、ベストマッチであった。また、この作品に関しては、伴奏型が複数パートに分散しているため、自然な流れを保つことが至難の業といえるが、同じ兄弟、同門下という他に例を見ない彼らから編み出される伴奏型の連携の良さは、他の追随を許さない。

第一楽章では、青春を駆け抜けるベートーヴェンの姿が浮かび上がった。中期の傑作の森を振り返るかのような充実の演奏。プログラム前半一曲目において散見された不安定さは全て解消され、演奏者側も聴衆側もテンションが一気に上がってきた。

第二楽章では、打って変わって、人生に苦悩するベートーヴェンの心の内側を静かに描き出す。カンタービレに依拠したフレージングの美しさは、さらに凄みを増した。第一中間部では、突如として空模様が変わったかのような、ハッとさせられる瞬間があった。

第三楽章は、Prestoの疾走感が半端ない。Pからfまで、攻めの姿勢を崩さず、随所に感情の爆発も見られた。

第四楽章は、変奏の冥利に尽きる。変奏を重ねても、絶えず主題に込められた歌が確実に感じ取れるあたりが素晴らしい。

プログラム前半を締めくくる充実の演奏に、会場内は、堰を切ったかのような拍手とともに、大歓声に包まれた。

20130816-03

休憩を挟み、プログラム後半は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第6番。

初期に書かれた作品18の6曲目にあたるこの作品だが、ハーゲン弦楽四重奏団は、若き頃のベートーヴェンの作風の中に、彼の中期の作品に特徴的な青春を振り返るような様相や、後期の作品群に見られるような深遠さが既に見え隠れしていることを明らかにした。

第一楽章は、規定の枠組みの中で、多少の遊びを取り入れた柔軟な演奏。様式を崩さない処理が秀逸である。弾力性に富み、活力があった。

第二楽章は、この日の演奏のテーマともいうべき、カンタービレの美がこの楽章でも如何なく発揮された。明と陰の描き分けが巧みで、心の内側に沁み入る美しさであった。

第三楽章は、簡素ながらもキレのあるスケルツォで、粗野な側面が後期の作品にも相通ずる衝撃をもたらした。トリオの軽やかな運びは、主部と対照的で晴れやかな気持ちになる。喜怒哀楽の極端な変わり様は、ベートーヴェンの複雑性を物語っていた。

第四楽章冒頭は、後期の作風を完全に先取りしている。30歳前後で既にここまで完成された世界を築いていたベートーヴェンの偉大さには、驚かされる。主部は、軽やかかつしなやかなアレグレットで、スムーズな展開であるが、ところどころ立ち止まったり、口を閉ざしたり、多面的な性格が織りなす。このあたりを明快に描き上げたハーゲン弦楽四重奏団によるこの日の演奏は、チクルス初日の最後を飾るにふさわしい充実の演奏であった。

満場の拍手に応えて演奏されたのは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第8番第二楽章。想いのこもった熱い演奏であった。

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終演後は、帰路にあるCrown Plaza Hotelに併設されたPitter Gartenにて、軽く夕食を摂る。中庭のテラスで飲むビールは旨いが、料理の質はあまり褒められたものではない。さっさと切り上げて、ホテルに戻り、就寝。


(公演情報)

Beethoven-Zyklus 1
16. August, 19:30 Uhr, Mozarteum

Hagen Quartett
Lukas Hagen, Violine
Rainer Schmidt, Violine
Veronika Hagen, Viola
Clemens Hagen, Violoncello

PROGRAMM
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 11 f-Moll op. 95, "Quartetto serioso"
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 10 Es-Dur op. 74, "Harfenquartett"
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 6 B-Dur op. 18/6
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[2013/08/30 00:23] | 海外視聴記(ザルツブルク) | トラックバック(0) | コメント(1) |
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[2013/08/30 10:32] | # [ 編集 ]
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