ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[--/--/-- --:--] | スポンサー広告 |
欧州行き(13年8月)②―ザルツブルク音楽祭―ムーティ指揮ウィーンフィル「ヴェルディ/レクイエム」
8月17日午前10時半頃、ザルツブルク祝祭大劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団及びウィーン国立歌劇場合唱団による演奏会。ヴェルディのレクイエムが採り上げられた。独唱陣には、クラッシミラ・ストヤノヴァ、エリーナ・ガランチャ、ピョートル・ ベチャワ、ドミトリ・べロセルスキを配し、万全の体制が整えられていた。

20130817-01

祝祭大劇場内には、着飾ったセレブ達があふれる。必然的に客席のマナーはかなり悪い。演奏中もノイズが絶えず、本当に音楽を聴いているのかという苛立ちすら覚える。前日にモーツァルテウムに集まった聴衆とは大違いだ。なお、日本人ツアーも複数来訪していたようだが、いくらなんでも祝祭大劇場のロビー内では、旅行会社の旗を振っての誘導はいかがなものか。

音楽祭サイトを通じて筆者が確保した座席は、平土間G列真ん中。オーケストラピットの最後部で、オペラ上演であれば指揮者が立つ場所である。祝祭大劇場の音響を考えると、最適な場所の一つであったと思われる。平土間席のセレブ達から発生するノイズの影響を受けにくいという意味でも、音楽に集中しやすい環境といえる。オーディオで聴くような、弦楽器を主体としたバランスの良い響きが堪能でき、鑑賞上のストレスは全くなかった。個人的には、マエストロ・ムーティの背中に視線が釘付けになる1時間半であった。

20130817-02

この日は、三日間にわたり予定されている公演のうちの二日目にあたる。ムーティのタクトからは、可能な限り演奏者側の自主的なアンサンブルに委ねようという意図も窺われ、順調に音楽が流れる場面もあった。他方で、前日のドンカルロの上演や諸々の事情により疲労が蓄積したことに起因すると思われる集中力の緩みもあり、推進力やキレが失われる瞬間も散見され、ムーティがアンサンブルの立て直しに躍起になる場面も見受けられた。特にヴァイオリン陣は、ベストメンバーではなく、前方プルトと後方プルトの間に温度差もあり、セクションとしての自発性の乏しさが感じられた。管楽器や歌手、合唱は、メンバーが揃っていただけに、もったいない限りである。

独唱陣の中では、ガランチャの表現力と存在感がずば抜けていた。この作品の場合、メゾソプラノの語りが成功の鍵を握る。ガランチャののびやかな美声と豊かな声量、そして張りがあり、芯のある歌唱は、この役柄に申し分ない。全体を通じた安定感も抜群。内面的な強さを描き出したガランチャの歌唱は、極めて説得的であり、印象的でもあった。

ストヤノヴァの華やかな声は、この作品のソプラノに与えられた役柄を見事に演出した。メゾソプラノとのバランス上、ソプラノは出すぎない方がしっくりとくる。第七曲「Libera Me」において、一気にテンションを高め、聴衆の心に強く訴えかける音楽の運びは、流石である。

べロセルスキは、明るく伸びやかな美声で、総じて悪くはなかったが、場面によっては、もう少し押し出しの強さが欲しくなる箇所もあった。ただ、今回の4人の独唱陣のバランスを考えると、ムーティの意図は明快であり、考え抜かれた上でのキャスティングであったのであろう。ベロセルスキは、特にアンサンブルにおいて、良い仕事をしていた。

残念だったのは、ベチャワ。筆者は彼の実演に何度も触れてきたが、この日は本調子ではなく、声に輝かしさや伸びやかさが感じられない。最大の見せ場の一つ、第三曲「Offœrtorium」の「Hostias et preces tibi, Domine, laudis offerimus」において、声が引っ掛かってしまったのは、彼にとっても悔しい限りであろう。

4人の独唱陣は、現時点でこの作品を上演するにあたっては、最高のキャスティングと断言できる。声の特徴、バランス、役柄といったあらゆる面において、全てが腑に落ちるメンバー構成だ。翌日に予定される最終公演において、ベチャワが調子を戻してくれることを祈るばかりである。

20130817-03

第一曲「Requiem et Kyrie」は、従前の解釈や手法と大差なく、導入に相応しい安定した演奏であった。シカゴ響との収録にも見られるが、たっぷりと歌う部分と、すっきりと前に流す部分のメリハリないし切り替えを狙うタイミングが素晴らしく、音楽の全体の進行をスムーズに引き立てていた。

第二曲「Dies Iræ」は、最も印象的であった。ffでも音が荒れず、細部までキチンと聴こえるのは、ウィーンフィルならではといえようか。オーケストラとコーラスが一体化し、全ての音が最上のバランスで豪快に鳴り響くと、聴き手の側の感涙のスイッチが入る。初体験の衝撃であった。

最初に音楽的な高まりを魅せたのは、バンダ・トランペットが加わり、一つのクライマックスを築く「Tuba mirum」。この日は、バンダ・トランペットがステージの両袖に配置されたため、筆者の座席では、正面と左右をラッパに取り囲まれる。圧巻であった。

この日のムーティは、どちらかというと、空間を広くとったドラマ性に重きを置き、グランディオーソなニュアンスに富んだタクトを選択していた。祝祭大劇場という場を意識した判断であろう。そのため、ウィーンフィルの底力が如何なく発揮されていたように思える。

その後は、前述のとおり、ベチャワが本調子ではなかったこと、客席の集中力が持続しなかったことなどが起因し、ガランチャの奮闘にもかかわらず、会場全体として覚醒する瞬間はしばらく訪れなかったが、「Rex tremendæ」におけるanimandoの追い込みは、ヴェルディの根底に宿るオペラ的なスペクタルの醍醐味が満載であった。また、「Recordare」は、ソプラノとメゾソプラノの二重唱における濃密なアンサンブルが見物であった。「Lacrymosa」は、どちらかというと、ベルカントの路線に従ったあっさりした演出。簡素な中に、切々とした涙が表現されていた。

第三曲「Offœrtorium」は、前述のとおり、ベチャワの不調により、最大の聞かせどころであるアダージョが潰れてしまった。ヴァイオリン独奏もホーネックが登板していれば、ホール内に豊潤な響きが立ち上がったに違いない。もっとも、後半部分におけるオーケストラの音色の創り込みは、さすがウィーンフィルという仕上がり。弦楽器の刻みで響きを高らかに膨らませ、一応のクライマックスを構築しつつ、歌に完全に寄り添ったユニゾンで厳粛な祈りを支え、トレモロによりmorendoを演出するあたりは、オペラを知り尽くした彼らならではの芸当といえる。

第四曲「Sanctus」は、落ち着きのある安定した演奏で、特に活き活きとした合唱が好演であったが、音楽的にはやや守りに入った感もあり、もう少し歓びが爆発しても良かったのではないかとも思われた。

第五曲「Agnus Dei」は、ガランチャの存在感が圧倒的。冒頭13小節間におけるガランチャの歌唱がこの曲の全てを決定づけた。ガランチャの強固な意志により、全体に一貫性が帯び、良いムードが末尾まで継続した。

第六曲「Lux Æterna」は、最初のトレモロで、ヴァイオリン陣が鮮烈な響きを演出し、音楽的な高揚が一気に高まった。この手法は、オペラ上演において流れが芳しくないときにウィーンフィルが使う常套手段であるが、最終幕に向け、ここぞというときに、突如として照明が転換したかのような演出効果を音で表現し、聴衆の心のスイッチを切り替え、そして、上演の満足度を高める技術は、筆者の知る限り、ウィーンフィル以外にはなし得ない芸当といえる。オーケストラが本気モードになれば、あとは流れに任せるだけである。第五曲で勢いに乗ったガランチャは、この曲でもさらに表現に深みを増し、独り舞台といっても過言ではない素晴らしい歌唱で聴衆を魅了した。

第七曲「Libera Me」は、それまで割と控え目であったストヤノヴァが、突如として感情を露わにし、語り始めた。ムーティのタクトにも熱い想いが迸り、ステージ上がクライマックスに向けて力強く前進を始めた。「Dies iræ」の再現部分では、ムーティは、冒頭でテンポを示した後は、あえてタクトを振らない。「Requiem æternam」の美しさは、言葉を失うレベル。最後の「Libera me」のフーガは、合唱の語尾が少し重く、流れが阻害される箇所もあったが、何とか持ちこたえ、tutta forzaを手堅くまとめて、幕切れとなった。

20130817-04

ウィーンフィルの巧さ、ウィーン国立歌劇場合唱団のクオリティは、言わずもがなではあるが、この日の演奏でも随所にその実力の高さが光っていた。個々の部分を取り出すと、世界一の完成度を誇っていたと断言できる。オケと歌のバランスや相性も含め、ヴェルディのスコアを理想的な状態で表現できるのは、彼らだけであろう。しかし、前述の通り、この日の演奏は、残念ながら、凝縮力が薄かった。ドイツ語圏の彼らにとって、異国の文化であるヴェルディのテンポ感やリズム感は、意識的に演じていないと、感覚にズレが生じてしまう。集中力が緩むと、音楽の流れの中に、妙な奥ゆかしさが生まれてしまい、ヴェルディらしい推進力やキレが失われてしまう。ムーティの描こうとしたヴェルディのレクイエムの作品像が半分も実現できていないもどかしさに、気持ちの整理がつかないまま、祝祭大劇場を後にした。

終演後は、いったんホテルに戻り、ぶらぶらした後、スティーグル・ブロイヴェルト(Stiegl Brauwelt)に足を延ばし、2.5リットルのビールで憂さ晴らし。日の入り頃にホテルに戻り、Wein & Coで入手したZweigeltとBlaufränkischと、駅前のスーパーで購入したハムやチーズで部屋飲みに徹する。


(公演情報)

Wiener Philharmoniker • Riccardo Muti
17. August, 11:00 Uhr, Großes Festspielhaus

Riccardo Muti, Dirigent

Krassimira Stoyanova, Sopran
Elīna Garanča, Mezzosopran
Piotr Beczala, Tenor
Dmitry Belosselskiy, Bass

Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Wiener Philharmoniker

PROGRAMM
GIUSEPPE VERDI • Messa da Requiem
スポンサーサイト
[2013/08/30 23:25] | 海外視聴記(ザルツブルク) | トラックバック(0) | コメント(0) |
<<欧州行き(13年8月)③―ザルツブルク音楽祭―ムーティ指揮ウィーンフィル「ヴェルディ/レクイエム」 | ホーム | 欧州行き(13年8月)①―ザルツブルク音楽祭―ハーゲン弦楽四重奏団「ベートーヴェンチクルスⅠ」>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
http://mashi1978.blog97.fc2.com/tb.php/201-adebba34
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
プロフィール

mashi1978

Author:mashi1978
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。