ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(13年8月)④―ザルツブルク音楽祭―ハーゲン弦楽四重奏団「ベートーヴェンチクルスⅡ」
8月18日午後7時頃、モーツァルテウムの大ホールへ。

20130818-08

ハーゲン弦楽四重奏団によるベートーヴェン・チクルスの二日目。会場の雰囲気は、初日と変わらないが、小雨のぱらつく空模様で、特に後半は湿度が上がってしまった。

音楽祭サイトを通じて筆者が確保した座席は、平土間2列目中央。この至近距離で観るハーゲン弦楽四重奏団は圧巻であった。抜群の臨場感で、まるで彼らが自分のために演奏してくれているかのような錯覚に陥るポジション。体感する音量も初日とは段違いである。

20130818-10

プログラム前半一曲目は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番。かなりクセのある解釈とアーティキュレーションで、変態的な様相を呈していた。

第一楽章では、第一主題のモチーフに妙なメリハリが感じられる。音量の強弱に応じて、音の長さやボウイングに変化をつけることで、見ていて飽きない造りになっているが、シンプルな記譜に照らすと、自由すぎる嫌いもあり、統一性を失っているようにも思われた。他方、第二主題は、舞うようなボウイングの連携による音の連鎖が美しく花開き、和声感も含め、心地よかった。即興的な演奏ではあったが、部分を愉しむという観点からは、悪くない演奏であった。

第二楽章は、伴奏型の八分音符の刻みが秀逸であった。土地に根差したリズム感覚は、淡々と進む足取りに、柔らかさと軽やかさを添える。第二ヴァイオリン以下による楽章冒頭の八分音符の刻みは、厳かな雰囲気を醸し出しており、好感を持てたし、第二主題開始時にヴィオラや第二ヴァイオリンに登場する2:1の音型には、墨絵のような美しさもあった。他方、主旋律を展開する第一ヴァイオリンは、吟遊詩人のような節回しであり、あまりにロマンチックな表情付けであったため、筆者個人としては終始違和感を覚えた。展開部に入ってからも、強奏部において、熱気はあるが、粗さも感じられ、感銘の度合いは下がってしまった。

第三楽章も、色々と手を加えすぎたように思う。アゴーギクに恣意性を感じる場面もあった。他方、舞曲的な中間部は、田舎の踊りを想起させるという意味で、新鮮さもあった。

第四楽章は、第一ヴァイオリンのルーカスに、アレっと思わせる瞬間が何度か見られる。速いパッセージのスピード感を演出しようとして、指がもつれてしまったのかもしれない。これに対して、レガートを主体とする中間部は、響きの拡がりに不足はなく、テンポ的にも快調な流れであった。楽章全般を通じて、パート間の鎹のような役回りを果たす第二ヴァイオリンのライナー・シュミットが実に良い働きをしていた。

というわけで、この作品は、一日目の最後に演奏された弦楽四重奏曲第6番と比べると、まとまりに欠くように感じた。

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これに対して、プログラム前半二曲目は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番。一曲目に演奏された弦楽四重奏曲第1番と比べても、輪をかけて変態的な演奏で、実に鮮烈な演奏であった。

とりわけ、エッジを効かせた即物的なスタイルの第一楽章は、まさにネタの宝庫。ある意味で楽譜に忠実であり、記譜に含まれる表現を際立たせた演奏であったが、各動機の特徴を極端に色付けすると、現代音楽に匹敵する衝撃の連続となることに驚かされた。際どい表現を押し出した直後に、スッと変身し、何事もなかったかのような涼しい顔で美しいレガートを弾きだす技術には、脱帽である。

粗野な感じを残す第二楽章も、第一楽章の延長で、剝き出しの岩が次々と飛び出してくるかのような、原色系の音色の連続であるが、紙一重のところで均衡が取れており、ベートーヴェンの頭の中を見ているかのような、不思議な感覚に襲われる。スケルツォに戻る直前の透明感にあふれる弱音の美の演出も巧みであった。

第三楽章は、筆者が聴いた二回の演奏会の中では、最高の緩徐楽章であった。Lento assai, cantante etranquilloという楽想記号から足しも引きもしない格調の高い演奏。肝心なところで客席の物音が絶えなかったのが非常に惜しまれる。ノイズの方を睨みつけるライナー・シュミットの視線が印象的であった。

第四楽章は、哲学的な意味の籠められた序奏部分の後は、むしろメリハリの効いた軽快なAllegroで、表面上は聴きやすく仕上げられていた。もっとも、天候の変化は急激で、破滅的なff、コンパクトにズシンと響くf、流れるようなp、愛らしいppに至るまで、表情が多彩で、かつ的確である。一瞬の静寂を演出する間の図り方も絶妙。

あえて直球勝負に挑んだこの作品は、ベートーヴェンの到達した孤高の精神性を生々しく語る名演であった。

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休憩を挟んで、プログラム後半は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー」。文句なしの充実の演奏であった。

一日目にも感じたが、やはりハーゲン弦楽四重奏団の音色と趣向性は、中期の作品群において最も自然に反映される。快活な第一楽章では、ピリオド的なノンビブラートも含め、ビブラートの有無や程度を巧みに調節して聴かせていたが、どれも納得のゆく表現であり、恣意的な印象は全くなかった。ダイナミクスの完璧なコントロールも素晴らしい。断片的なレガートの処理や弱音における八分音符の粒立ちも魅力だ。夢を追い求め、絶えず前進を試みようとするベートーヴェンの姿が脳裏に浮かぶ演奏であった。

第二楽章は、鋭敏さを存分に示しつつ、8分の3拍子というリズム感の様式から逸脱しなかったのが彼らのクオリティの高さの証。完璧なコントロールにより、立体的な音楽を構築することに成功していた。

第三楽章は、ただ黙って彼らの奏でる哀歌に集中するのみ。同じ目線で音楽を共有できる雰囲気が嬉しかった。

第四楽章も、スピード感とメリハリのある見事なロンドであった。軽快さから重厚さまで、幅広い音色のグラデーションが効果抜群である。適度に熱を帯びた演奏は、聴衆の気持ちを掴み、大喝采にて曲を閉じた。

アンコールは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第3番第二楽章。メインの演奏の内容が濃すぎたため、あまり印象に残っていないが、多少興奮を醒まし、家路を迎えるための心の準備をするには、丁度良いデザートであった。

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今回は日程の都合により最初の二日間しか鑑賞できないが、彼らのホームグラウンドであるザルツブルクという最高の立地において、素晴らしい環境下で、実演に触れることができたことは、筆者にとっては、貴重な体験であった。ボウイングの感触や、フレーズの感じ方、テンポ感など、眼前で観察することで、初めて見えてきた要素もたくさんあった。日本を含むその他の国や地域のホールでは、気候の違いもあって、ハーゲン弦楽四重奏団の魅力をここまで直截的には実感できなかったであろう。演奏会としての充実度の高さに満足しつつ、雨の降りしきるザルツブルクの街中を歩き、ホテルに戻った。


(公演情報)

Beethoven-Zyklus 2
18. August, 19:30 Uhr, Mozarteum

Hagen Quartett
Lukas Hagen, Violine
Rainer Schmidt, Violine
Veronika Hagen, Viola
Clemens Hagen, Violoncello

PROGRAMM
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 1 F-Dur op. 18/1
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 16 F-Dur op. 135
LUDWIG V. BEETHOVEN • Streichquartett Nr. 7 F-Dur op. 59/1, "Rasumowsky"
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