ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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カンブルラン指揮読響―第529回定期演奏会「涙、怒り、祈り」
9月3日午後7時前、サントリーホールへ。シルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団による第529回定期演奏会。ブリテン、ウストヴォーリスカヤ、ストラヴィンスキーという3人の作曲家による20世紀の作品が採り上げられた。かなりマニアックな選曲のためか、定期会員以外では、コアの音楽ファンの率が高く、会場全体としては7割弱程度の集客状況であった。

筆者の座席は、RBブロック9列目。今年度に入ってからは、会員券の大半を名曲コンサート等に振り替えていたため、定位置に座るのは久しぶりである。室内楽的な作品を聴く場合には、やや遠さを感じるが、ステージ上から立ち上がってくる立体感のある音響は、この場所の最大の特長といえる。

この日は、カンブルランの傑出したプログラム構成力に唸らされた。中身が濃く、一つの演奏会として出色の仕上がりである。演奏面でも、込められた熱い想いに、自然と心が惹き込まれていった。まるで何かの儀式のような厳粛さが会場内には張りつめていた。

プログラム前半は、ブリテンの作品が並ぶ。一曲目は、「ラクリメ」(管弦楽とヴィオラのための)。第一、第二ヴァイオリン、第一、第二ヴィオラ、チェロがそれぞれ4名ずつ。それにコントラバス3名という小編成により演奏された。独奏は、読響ソロ・ヴィオラ奏者の鈴木康浩。

プログラムノーツにあった「時空を超えた対話が自在に繰り広げられる」という例えのとおり、空中散歩的なニュアンスを兼ね備えつつも、ハードボイルドなブリテンの世界が見え隠れする作品である。カンブルランは、この日の演奏では、むしろ作品に対して豊かに彩りを与えたように思われる。弦楽合奏からふわりと立ち上がる温かい色彩感が美しく、柔らかに空中を漂う弦の音色は、しっとりと心に伝わってきた。鈴木の独奏も、読響のアンサンブルと相性が良く、十分に務めを果たせていた。

プログラム前半二曲目は、「シンフォニア・ダ・レクイエム」。読響の有する潜在的な合奏能力が最大限に引き出されたかのようなハイ・クオリティの演奏であった。

第一楽章「ラクリモーサ(涙の日)」からは、いわゆるラクリモーサとはひと味違うクールさも窺われるが、オーケストラ全体の響きの移ろいが美しく、動きが激しくなっても音色の美観が保たれていたのは、秀逸であった。第二楽章「ディエス・イレ(怒りの日)」における一糸乱れぬアンサンブルは、不気味なほどに機能的であり、細部の明快さと隙のない音楽設計が圧巻であった。ゲスト・コンサートマスターとして出演したデヴィッド・ノーランが現役時代を彷彿とさせる存在感で、合奏全体を引き締めていた。第三楽章「レクイエム・エテルナム(永遠の安息)」は、文字通り「安息」を胸に抱くことのできる真摯な祈りの時間であった。全楽章を通じて響きのバランスは完璧であり、音楽的な充実度はこの上ない。あえてクールな装いを徹底したことも、演奏の完成度を高めたといえる。カンブルランの凄さを実感させられた演奏であった。

プログラム後半一曲目は、この日最大の話題を呼んだウストヴォーリスカヤの「コンポジション第2番『怒りの日』」。

木製の箱、ピアノ、コントラバス8本という変則的な編成に加え、音楽性を喪失しない範囲で反復される打撃音とトーン・クラスターが不思議な音像を構築し、聴衆を覚醒状態に導く。外面的なインパクトが内省化し、カンブルランの言葉を代弁するかのような語りの境地に至っていたのには、心底驚かされた。約20分間の演奏時間を通じて筆者の心が受けた「衝撃」の大きさは、何物にも代えがたい。

このように、ウストヴォーリスカヤの「怒りの日」に完全に打ちのめされたところで、プログラムの最後は、ストラヴィンスキーの「詩篇交響曲」。人間の声に秘められた神秘的な力の存在を信じずにはいられない心境に至った。

カンブルランは、新古典主義時代のストラヴィンスキーの代表作を、バロックに通ずる素朴さと、近現代の色彩感の両面から、極上のバランスで描き出すことに成功していた。先に演奏した三曲において、鮮烈に表現された「涙の日」や「怒りの日」、そして控え目ながらも強い意志をもって示された「安息」や「祈り」の全てを総括し、ややシックな「アレルヤ」で演奏会全体を締め括るという流れは、理想的である。演奏面では、カンブルランによる合唱のコントロールの的確さが光り、変則的なオーケストラと合唱のバランスの図り方も見事であった。合唱、オーケストラともに、ややムラが残る場面もあったが、演奏会としての完成度の高さゆえ、最後は細かい点は気にならなくなった。

なお、カンブルランによれば、9月3日は1941年にアウシュビッツで初めての大量処刑が行われた日で、「怒りの日」などのカンブルランの想いの込められたプログラムを組んだとのこと。彼の言葉通り、最後のストラヴィンスキーの「詩篇」では、人間の声の持つパワーにより、全てが浄化されるような感覚に浸ることができた。ちなみに、今回採り上げられた作品は、いずれも技術的にも合奏的にも非常に難易度が高く、しかも楽器編成の都合上、全く誤魔化しが効かない恐ろしい曲ばかりである。パーフェクトとまでは言えなかったが、これらの作品像を明快に浮かび上がらせるレベルにまで仕上げた読響の潜在能力の高さ、そしてそれを引き出したカンブルランの手腕に拍手を送りたい。


(公演情報)

第529回定期演奏会

2013年9月 3日(火) 19:00開演
会場:サントリーホール

指揮=シルヴァン・カンブルラン
ヴィオラ=鈴木康浩(読響ソロ・ヴィオラ奏者)
合唱=新国立劇場合唱団

ブリテン:「ラクリメ」~管弦楽とヴィオラのための 作品48a 《ブリテン生誕100年》
ブリテン:シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20 《ブリテン生誕100年》
ウストヴォーリスカヤ:コンポジション第2番「怒りの日」
ストラヴィンスキー:詩篇交響曲
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[2013/09/04 00:19] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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