ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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藤原歌劇団「ラ・トラヴィアータ」(二日目)
9月7日午後2時すぎ、新国立劇場オペラパレスへ。藤原歌劇団によるヴェルディ「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」。この日は、二日目組の上演である。

筆者の座席は、1階席15列目中央下手より。新国立劇場は、海外のオペラハウスと違い、1階席が階段状になっているのがありがたい。視界・音響ともに申し分のない環境であった。

さて、二日目組は、藤原歌劇団の将来を嘱望される若手から中堅の歌手たちを配したキャスティングである。

ヴィオレッタ役の佐藤亜希子は、大舞台でこの役を演ずるのは今回が初めて。第一幕のアリア「不思議だわ!~ああ、そはかの人か~花から花へ」は、個々のフレーズを繋ぐスピード感や推進力を欠き、何とか歌いきったという印象であった。しかし、観客席に集まった大応援団の声援を受けて緊張が解けたのか、第二幕以降は、作品に入り込み、ヴィオレッタの抱える苦悩を全身で表現し、観客を惹きつけていた。彼女の声質ゆえ、ヴィオレッタの「陰」の要素は引き立っていたが、それと対照的な「陽」の部分についても、より華やかに花開くと素晴らしかった。対するアルフレード役の西村悟は、今回が藤原歌劇団デビューとのこと。フレッシュで伸びやかな声は、青年アルフレードの純粋な心を浮かび上がらせる。第一幕では硬さが見られたが、第二幕以降は、徐々に馴染んできて、ヴィオレッタ役の佐藤亜希子とともに、身体を張った演技と歌唱を披露した。両名とも、歌唱にこなれていない部分が残るため、安定感では他のベテラン歌手らに劣るが、それをカバーし上回るだけの「想い」の伝わる舞台であり、個人的には好印象であった。

若手二人の演ずるヴィオレッタとアルフレードを脇から固めたのがジェルモン役の須藤慎吾である。第二幕のジェルモン登場のシーンから存在感を示していたが、表に出すぎず、ヴィオレッタとアルフレードの引き立て役としての立ち位置を堅持していたあたりが憎い。とりわけ、第二幕のヴィオレッタとジェルモンのシェーナと二重唱では、見事なアンサンブルにより、各々の心情変化が静かに映し出し、音楽的に高い緊張感が維持していた。この日のベストシーンの一つといえる。他方で、第二幕のアリア「プロヴァンスの海と陸」では、やや遅めのテンポで入ってきたオーケストラを自らリードし、ヴェルディの真骨頂である「ベルカント」と「語り」の融合を美しく成し遂げ、内容の濃い歌唱を披露していた。単純な性格設定に終始しやすいこの役柄であるが、台本から読み取れる多様な側面にも注目し、一人の人間としての父ジェルモン像を打ち立てていた点が特筆される。

その他のキャスト陣に関しては、アンニーナ役の吉田郁恵が脇役ながらも機転の利いた立ち振る舞いで、ヴィオレッタとアルフレードをサポートしていた。グランヴィル役の久保田真澄は、抜群の安定感。フローラ役の関真理子、ガストン役の上本訓久、ドゥフォール役の東原貞彦、ドビニー役の和下田大典は、演劇全体の中で、バランスよく、しかし活き活きと、各役柄を表現していた。

そして、藤原歌劇団合唱部の安定感も見事であった。歌唱面のみならず、演技面でも、活力と調和のあるアンサンブルを繰り広げており、チームが一丸となって舞台を創り上げようという雰囲気が素晴らしかった。

ところで、この日の上演の立役者は、指揮を務めた園田隆一郎である。正統派イタリアオペラの音色を身に着けた数少ないマエストロであり、日本人指揮者で彼以上に的確にヴェルディを指揮できる人は他にいないのではないかと思う。
第一に、オーケストラの音色の重心を全くブレさせない卓越したコントロールが素晴らしい。指揮者の胸から上の一定の空間にオーケストラの音が手際よく収まるので、響きのバランスがよく、音色のニュアンスも的確に浮かび上がる。強奏部において、張りを失うことなく、しかし、歌を掻き消さない音量にまとめあげる手腕も見事だ。通常であれば、雑に弾き(歌い)散らかされてしまう箇所も、楽譜に忠実に丁寧に紐解き、音量のメリハリをつけていたのにも、唸らされた。
第二に、テンポ感において違和感を感ずる箇所が一つもないという点も、特筆に値する。個々を採ると、どれも歌いやすく無理のないテンポであり、しかも、音楽的に推進力とカンタービレの双方が備わっている。全体を俯瞰すると、場面相互間で矛盾や凸凹を引き起こすことがなく、一つのドラマとして統一感のある音楽設計を成し遂げられている。当たり前のようにも思えるが、実はこれをこの作品で実践するのは、相当に難しい。著名な指揮者や劇場の上演でも、不自然なテンポ変化に遭遇したり、わざとらしさや大袈裟さを感じてしまったりするなど、首を傾げたくなる箇所が何か所も出てくるのが常なのだが、この日の演奏では、そういった場面は一つもなかった。
第三に、歌手との呼吸の図り方が巧い。特にこの日は、ヴィオレッタとアルフレードが若手二人組であったということもあり、歌唱面で若干の乱れが生ずる場面も散見されたが、そうした状況を前にして、先回りしたり、間を図ったりと、さりげない助け舟を多数発信し、音楽の進行をサポートしていた。真のオペラ指揮者の証といえる。
ロッシーニのイメージに軸足を置いた音楽創りは、表面的には起伏や劇性に乏しいという評価を受けてしまうかもしれないが、俗っぽい盛り上がりはヴェルディが本来望むところではなく、むしろ全体のバランスを図りつつ、内面描写を自然と引き立たせる園田のようなアプローチこそが、この作品の奥深さに近づく第一歩となるのであろう。

オーケストラピットに入ったのは、東京フィルハーモニー交響楽団。技術的にアレっと思う箇所が無くはなかったが、園田のリードの下、イタリア「らしい」音色を演出できており、不満はなかった。日本のオーケストラは、どちらかというと、丁寧かつソフトで、淡い色合いの響きを持ち味とする。オープンな音色の金管楽器、やや下向きにズンと響く低弦、モダンで豊かな残響が残るホール特性などと相まって、東京フィルから聴かれる音色は、イタリア的な香り、すなわち、突き抜けるような空の解放感、軽快さ、滑舌の良さ、懐の深さとはやや異質ではあるものの、イタリアの空気を理解しつつ、日本人が日本人の肌感覚でまとめあげたサウンドという意味では、これはこれで良いのではないかと思った。

岩田達宗による今回の新演出の舞台は、シンプルかつスタイリッシュなもの。左右を暗めの赤と青の大きな壁で囲うことで、新国立劇場の広い舞台空間の視野を狭めるとともに、中央に置かれた白い斜めの台を駆使し、抽象的ながらも分かりやすい舞台に仕上がっていた。この白い斜めの台は、ヴィオレッタの病床を意味するため、第一幕と第三幕はともかく、第二幕でも流用することには台本上の一貫性はないが、限られた予算の中で、装置を効率的に活用しつつ、見せ方を変えることで、違ったものとして印象付けることに成功しており、違和感はなかった。また、装置をシンプルなデザインにしたのと対照的に、衣装にはかなり力が注がれていたため、全体として過不足ない印象に仕上がっていたのも、今回の舞台がうまくまとまった要因の一つに数えられるであろう。また、舞台上手前方に大きな鏡が置かれ、鏡を通じて自らを顧みるという演技が盛り込まれていたのは、興味深かった。場面によっては、コミカルな蛇足的な演技が介在することもあったが、今回の舞台では、余計な「物」が登場することもなく、観客の気持ちを本筋からそらすような要素がなかったのが良かった。また、第三幕のカーニバルの行進の場面で、本来は舞台裏で演奏されるところ、合唱を舞台上の一番奥に配置し、ヴィオレッタと対峙させていたのは、演出効果的にも、省エネの観点からも、鋭い発想の転換であったといえる。

なお、この日の上演は、関係者あるいはその知り合いの割合が高かったため、観客のマナーは、基本的には良かったが、上演中に、オペラグラスを落とす音が頻発したこと、1階席15列目上手側の一名が上演中に飲み物に手を伸ばす都度、長時間にわたりビニール袋のシャリシャリ音を鳴らしていたこと、第三幕前奏曲が始まったにもかかわらず階上席のご婦人がしゃべり続け、笑い声まで上げていたことなど、苦言を呈したくなる若干名の不届き者がいたのも事実。いずれも犯人はシニア層に間違いなく、こういう非常識な輩に対しては、然るべきアクションが取られるべきではないかと思った。


(公演情報)

藤原歌劇団公演

ヴェルディ作曲「ラ・トラヴィアータ」

2013年9月7日(土)15:00開演
会場:新国立劇場オペラパレス

公演監督:岡山 廣幸
指揮:園田 隆一郎
演出:岩田 達宗

出演
ヴィオレッタ:佐藤 亜希子
アルフレード:西村 悟
ジェルモン:須藤 慎吾
フローラ:関 真理子
ガストン:上本 訓久
ドゥフォール:東原 貞彦
ドビニー:和下田 大典
グランヴィル:久保田 真澄
アンニーナ:吉田 郁恵
ジュゼッペ:山内 政幸
使者:江原 実
召使:秋本 健

合唱/藤原歌劇団合唱部
管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
バレエ/スターダンサーズ・バレエ団
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[2013/09/08 00:02] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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