ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ミラノスカラ座来日公演2013「リゴレット」
9月9日午後6時前、NHKホールへ。ミラノ・スカラ座来日公演2013「リゴレット」初日。ベストキャストが揃うのはこの日だけであるため、会場内は、本気顔のオペラファンで溢れ、殺伐とした緊張感に包まれていた。

筆者が確保した座席は、2階席L1列。舞台からそう遠くはなく、音響も悪くはないので、この場所であればまだ許せると思えるくらいの環境ではあった。PAにより調整された音場ゆえ、生の音を愉しむというオペラ本来の醍醐味からは程遠いが、やむを得ない。

さて、この日の舞台は、レオ・ヌッチとエレーナ・モシュクの二人に尽きる。特に、ヌッチのリゴレットが人間国宝の域にあることは、もはや揺るぎのない事実ではあるが、彼の役者としての並外れた表現力と存在感、そして舞台人としての研ぎ澄まされたプロ意識とオーラに、会場全体が興奮した。これは「事件」と言っても過言ではない。日本のオペラ上演史に残る感動的な舞台であり、筆者の心にも深く刻み込まれた一夜となった。

舞台が熱を帯び始めたのは、第一幕第二場のリゴレットとジルダの二重唱である。ジルダとリゴレットの対話に描かれる心情変化と内面のせめぎ合いは、モシュクとヌッチの歌唱と演技から、生身の人間の事象として浮かび上がる。会場全体の期待感が一気に高まったのが感じ取れた。そして、会場に詰めかけた観客の気持ちに火が付いたのは、第一幕第二場の最大の見どころであるジルダのアリア。弱音の美しさと味わい深い滑らかなコロラトゥーラには、観客の脳を覚醒状態にトリップさせるほどの魔力が潜んでいた。男声合唱の好演、ヌッチの抜群の締めくくりに、会場内は異様な盛り上がりを見せ、第一幕のカーテンコールから大騒ぎとなった。

第二幕は、ヌッチの独壇場だ。シェーナとアリアにおいて、おどけた姿から半狂乱に切り替わる瞬間にみられた歌舞伎役者のような変貌ぶりと鋭い眼光は、今でも筆者の脳裏に鮮明に焼き付いている。ジルダとリゴレットの二重唱も充実のクライマックス。とりわけ、会場内からの「ビス!」に応えて繰り返された「そうだ、復讐だ!」は、その直前にドゥダメルに宛てて発せられた複数のブーイングを完全に捻じ伏せるほどの気合いの入り様であり、鬼気迫るものがあった。会場内は沸騰寸前の状態にまで盛り上がり、一階席を中心に早くもスタンディングオベーションが発生した。

第三幕は、この日の舞台の主軸を握った二人が陰にまわることもあり、どちらかというと醒めた雰囲気の中で進行した。音楽的な白眉であるはずの四重唱と三重唱において、音楽的にも舞台的にもまとまりが全く感じられなかったのには、思わず目と耳を疑ってしまったが、ともあれ、最後は、ヌッチの演ずる感動的な幕切れに、会場内のテンションが再び高まり、何とか気持ちが繋がった。

なお、マントヴァ公爵役を務めたのは、フランチェスコ・デムーロ。伸びのある明るい声で、各場面をスマートにまとめ、申し分ない歌唱であったが、ヌッチとモシュクを前にすると、どうしても存在感が薄れてしまう。この日に関しては、やや損な役回りに当たってしまったようだ。

指揮を務めたのは、グスターボ・ドゥダメル。響きを捉えるセンスは良いし、変化球とも見て取れるさりげない小技も音楽的には理にかなったもので、イタリアものとの相性の良さは窺われる。オーケストラからスカラ座らしい明るく華やかな音色と美しいカンタービレを引き出せていたという意味では、筆者個人としては、ハーディングよりも高く評価する。少なくとも筆者がここ数年の間に観劇したスカラ座の公演においては、ここまで素直な音色が聴けたことはなかった。伸び伸びと演奏しているときのスカラ座管弦楽団は、全体としての響きも良いし、個々の奏者が奏でる音色やカンタービレにも華があって、ひと際美しい。この点は、この日の公演で満足の行くものであった。

しかし、トータルでみたら、ハーディングと同様、ドゥダメルも落第点である。最大の問題は、ドゥダメルが採用したテンポ設定。全てにおいて、ギヤ一段分速い。歌手が息を継ぐ間すらも与えられないというのは、いかがなものか。音楽的な意図は分かるが、あれでは普通は歌えないだろう。合唱も含め、歌が崩壊しなかったのは、歌手らの実力が恐ろしく高かったからだ。全てにおいて、もう一呼吸、余裕があれば、ヌッチの老練な技と、モシュクのコクのある歌回しを堪能できるとともに、作品全体を通じて、声の積み上げによりもたらされる深い感動が得られたのではなかろうか。また、三重唱や四重唱といった歌のアンサンブルを取りまとめる力に欠けていたのも、問題であった。第三幕の内容の薄さには、さすがに閉口させられた。さらに問題なのは、歌手とオーケストラとの音量バランスが図れていなかったこと。強奏部において歌を掻き消してしまったのは、歌を聴いていない証拠である。ブーイングが出るのもやむを得ないといえよう。

なお、今回の上演は、1994年制作のジルベール・デフロ版の演出。絢爛豪華にして壮大なスケールを持つ重厚な舞台は、伝統的であるとはいえ、やはり見応えがあったことは事実だ。最近のモダンな演出にはない温かさが舞台全体から伝わってくる感じがした。ただ、使い古された感もあり、舞台としての新鮮さや、滲み出るインスピレーションのようなものは、伝わってこなかった。新と旧のどちらを採るかは、帯に短し襷に長しの中でのチョイスになってしまうのが現代の哀しい現実なのかもしれない。

というわけで、コンテンツとしては、必ずしも万全ではなかったが、この日の公演は、座長ヌッチの存在感が全てであり、負の要素を全て跳ね除けるだけの圧倒的なパワーに漲っていた。各回の公演に誠意を持って全力で取り組む一方で、あらかじめ第二幕の後に「ビス!」を仕込んでおく(ヌッチが関係者に事前に伝えてあったアンコール実行計画がネット上で拡散され、「ビス!」の大合唱になったらしい)など、エンターテインメントとして観客を愉しませる術にも長けており、舞台人の鏡のような存在である。加えて、カーテンコールにおいて、舞台の両端や3階席の奥の方にいる観客にもエールを送るとともに、若造ドゥダメルを全力で引き立て、会場全体から送られる大喝采を共演者全員でシェアしようと気遣うヌッチの心意気には、本当に頭が下がる。

筆者にとって二回目となるヌッチの「リゴレット」は、新たな発見と深い感銘を残した。おそらく余程のことがない限り、三回目はないと予想するし、仮にあったとしても、これだけの熱気と興奮を味わうのは難しいようにも思う。日本での一期一会が生み出した奇跡的な瞬間に立ち会えたことに感謝。


(公演情報)

ミラノ・スカラ座来日公演2013
2013年9月9日(月)18:30開演/NHKホール

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
「リゴレット」全3幕

指揮:グスターボ・ドゥダメル
演出:ジルベール・デフロ

マントヴァ公爵:フランチェスコ・デムーロ
リゴレット:レオ・ヌッチ
ジルダ:エレーナ・モシュク
スパラフチーレ:アレクサンドル・ツィムバリュク
マッダレーナ:ケテワン・ケモクリーゼ
ジョヴァンナ:ジョヴァンナ・ランツァ
モンテローネ:エルネスト・パナリエッロ
マルッロ:セルジョ・ヴィターレ
ボルサ:ニコラ・パミーオ
チェプラーノ伯爵:アンドレア・マストローニ
チェプラーノ伯爵夫人:エヴィス・ムーラ
廷吏:ヴァレリー・トゥルマノフ
小姓:ロザンナ・サヴォイア

ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団
ミラノ・スカラ座バレエ団
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[2013/09/13 00:17] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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コメント
ファルスタッフでの感想を寄稿しましたので、リゴレットでも一言。
15日にリゴレットを見ました。前日のファルスタッフには失望しましたのでこの日は期待していたのですが、結果は前日同様・・・
レオ・ヌッチ座長ばかりが目立ちすぎ、その座長様もやっつけ仕事の印象でした。第二幕リゴレットのアリアでの大拍手に、おどけたリアクションはいただけません。同幕のフィナーレでのアンコールはもう「お約束」感アリアリですが、客席から手拍子が起きたのには腰が抜けそうでした。会場いたるところから「シー!!」と声が起きたのはせめてもの救い。
その他の脇役(あえてそう呼びたい)の方々は、東欧オペラハウスの引っ越し公演とどっこいどっこい・・・
何でもかんでも噛みつきたいわけではありません。でも、今回の来日は正直、かの「ゼッフィレルリ演出 ドン・カルロ」で天井桟敷から響いたという「ヴェルディも泣いている」という声を再度あげたくなる内容でした。ドン・カルロの時と違い、歌手だけでなく演出もイマイチ。本場のオペラが見れて感激しているビギナーはともかく、東京のオペラ通諸氏は今回の舞台をどう見られたのでしょうか?
口直しに翌日見に行ったサントリーホールでのワルキューレ第一幕のほうが好ましく感じた東京での4日間でした。
[2013/09/29 21:34] URL | よしくん #AzmySJ4g [ 編集 ]
感想をお寄せいただき、ありがとうございました。「リゴレット」に関しては、Bキャストの人選がいまいちで、11日と15日の公演では、ヌッチ座長の存在が余計に目立ってしまっていたようですね。私自身は、ヌッチとモシュクを観ることが目的であり、当初からそれ以上は期待していなかったので、特に不満はなかったですが、公演の完成度という観点からは、苦言を呈したくなるお気持ちもわかります。
[2013/09/29 23:02] URL | 筆者 #- [ 編集 ]
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