ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ライナー・キュッヒル ヴァイオリン・リサイタル第一夜
10月4日午後7時前、銀座ヤマハホールへ。ライナー・キュッヒルによるヴァイオリン・リサイタル第一夜。永年にわたり共演を重ねる加藤洋之によるピアノとのデュオ・コンサートである。

新しくなったヤマハホールを訪れるのは今回が初めてであるが、333席のコンパクトなホールは、客席から舞台までの距離が近く、室内楽を楽しむ空間として理想的である。モダンかつクリアでありながら、温かさも感じられる音響で、聴いていても疲労感がないのがよい。

筆者が確保した座席は、1階席2列目中央。眼の前にキュッヒルを拝むことのできるポジションで、神業のボウイングから、舞台上での細かな仕草や表情まで、全てが見える。舞台との一体感はこの上ない。特に印象的であったのは、純粋に音楽に入り込む素朴かつ清らかな瞳。これだけ多忙な日々にありながら、音楽を愛する心に満ちていることに改めて驚かされた。また、ふとした瞬間に見せる笑顔やチャーミングなやり取りは、聴衆の気持ちをも和やかにさせる。演技でも何でもなく、素の表情であるのが素敵だ。オーケストラやオペラで見せる怖い表情は、職人気質に裏付けられたプロ意識の表れであり、本当はとても優しい方なのであろうと瞬時に悟った。

さて、プログラム前半には、ヴァイオリン・ソナタ二曲が配された。

一曲目は、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ ホ短調K.304。二楽章のシンプルな構成だが、多彩な表情が織り込まれており、密度は濃く、筆者のお気に入りの作品の一つである。キュッヒルの演奏スタイルは、ウィーンの伝統に則った様式観を前提にしたキレのあるフレージングが特徴的であるが、この日の演奏では、ヴィブラートを抑えめにした淡い音色を貴重にしつつ、太く深いフォルテから、枯れた弱音まで、バランスよく巧みに配置し、作品に秘められた引き出しの多くを浮かび上がらせていた点が特筆される。ヤマハのカーボン弓を用いていたことから、音色の変化がクリアに、そして増幅されて伝わったことにも由来するであろう。加えて、この日の演奏は、作品全体が歌に満ち溢れていることに気付かせてくれたという意味でも、白眉であった。キュッヒルの表情からも、モーツァルトを心の底から愛する想いがひしひしと伝わってきた。

二曲目は、プフィッツナーのヴァイオリン・ソナタ ホ短調Op.27。こちらは、モーツァルトとは打って変わって、奥行きのある華麗な演奏であった。技巧的なパッセージの鮮やかさは目が覚めるようであり、たった一台のヴァイオリンから、オーケストラのような響きの拡がりが感じられることには、目が点になるほどの衝撃を受けた。ウィーン国立歌劇場とウィーンフィルのコンサートマスターとして40年以上のキャリアを持つキュッヒルは、オーケストラやオペラから室内楽等に至るまで、全ての時代のあらゆる音楽を理解し、日々演奏を続けている。その経験値の違いは歴然としており、類まれな知見に裏付けられた音楽の説得力は計り知れない。第一楽章の華やかさとキレ、第二楽章の堂々とした歩み、第三楽章の推進力、いずれも自然かつ雄弁であり、音楽が高い次元で結実していたと思われる。

プログラム後半は、小品が並べられた。

一曲目は、チャイコフスキーの「懐かしい土地の思い出」から「瞑想曲」「スケルツォ」「メロディ」。ウィーンフィルが奏でるチャイコフスキーの音色がそこにはあった。やや陰りのある色合いと、さりげなく挿入されるチャーミングなニュアンス、そしてカンタービレにおいて濃密に歌いつつも、ふっと圧力を抜いて解放する呼吸が堪能できた。もっとも、この日の演奏では、この作品に関しては、その後に演奏される作品とは別の弓で奏されたため、カーボン弓特有の硬さがやや目立ってしまい、ふくよかさに欠けたのが残念であった。

二曲目から五曲目までは、クライスラーの作品群。「ウィーン奇想曲」「スペイン舞曲」「ロマンティックな子守歌」「ジプシー奇想曲」の四曲が一気に演奏された。弓を取り替えて奏されたクライスラーは、これぞウィーンといえる香り高い演奏であった。プログラム構成としても、四楽章構成のヴァイオリン・ソナタといった仕立てで、巧みな選曲である。それぞれにキャラクターの違う四曲を通して聞くと、クライスラーの魅力が倍増して伝わるのが不思議だ。「ウィーン奇想曲」における音色のふくらみ、「スペイン舞曲」における折り目正しいキレのあるフレージング、「ロマンティックな子守歌」における温かい音色、「ジプシー奇想曲」におけるややおどけた表情など、オーケストラやオペラアリアにも通ずるような表情の多彩さを存分に愉しませてもらえた。

プログラムの最後は、ヴィエニャフスキの「グノーの『ファウスト』の主題による華麗なる幻想曲」Op.20。圧巻のフィナーレであり、曲が進むにつれて、聴衆全員の気持ちがステージ上に吸い寄せられていくのを肌に感じる。超絶技巧が冴えわたるとともに、キュッヒルの歌心が溢れ出し、堂々とした貫録のある演奏であった。筆者は、ヴァイオリンという楽器の魅力をここまで縦横無尽に展開できる奏者に出会ったことがない。ヴァイオリン弾きである自分でも、「ヴァイオリンって素晴らしいな」と素直に感じる至福のひと時であった。

熱烈な拍手に迎えられて演奏されたアンコールは四曲。サラサーテの「序奏とタランテラ」とモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ ヘ長調K.374より第三楽章の二曲は、おそらく当初からの予定通り。モーツァルトに始まり、モーツァルトに終わるとは、なかなか洒落ているではないかと一人で感心していたが、拍手は一向に収まる気配をみせず、急遽、クライスラーの作品から「道化役者」と「美しきロスマリン」も演奏された。「美しきロスマリン」の洗練されたスマートさとキレのあるワルツのリズムにノックアウト。これは絶対にまねできない。

噂によると、前日の早朝に成田空港に到着したばかりとのこと。この年齢で、これだけヴァイタリティに溢れ、かつ音楽的にパーフェクトなステージをできるというのは、驚異的である。なお、終演後のサイン会では、CDにサインをもらうとともに、握手もしてもらう。これで自分も少しは巧くなれるであろうか。ともあれ、次週に控える第二夜が今から待ち遠しい限りである。


(公演情報)

2013年10月4日19:00開演
会場:ヤマハホール

ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
ピアノ:加藤洋之

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K.304
プフィッツナー:ヴァイオリン・ソナタ Op.27
チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出
クライスラー:ウィーン奇想曲
グラナドス/クライスラー編:スペイン舞曲
クライスラー:ロマンチックな子守歌
クライスラー:ジプシー奇想曲
ヴィエニャフスキ:グノーの「ファウスト」の主題による華麗なる幻想曲 Op.20
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[2013/10/05 11:42] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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