ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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チョン指揮フランス国立放送フィル―NHK音楽祭
10月5日午後6時前、NHKホールへ。チョン・ミョンフン指揮フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団の出演するNHK音楽祭。仕事の関係で泣く泣く諦めた9月30日分のリベンジとして、直前にチケットを入手し、来場した。

筆者の確保した座席は、1階席R2列9番。ヴィオラの最後列とコントラバスを正面に見据え、チョンのタクトを斜め横から拝むポジション。弦楽器の生音が強く、管楽器は視界に入らず遠く感じるが、そもそも音響が劣悪なホールであり多くを期待できないことに加え、彼らのアンサンブルの様子を至近距離から観察するというこの日の目的に照らすと、一応は納得のできる場所である。

この日は、2階席の両サイドを中心に、まとまった空席が見受けられた。NHK音楽祭の客層は、一週間前のみなとみらいホールと比べると、どうしても見劣りしてしまう。年配層の発するノイズを回避する術はなく、名曲を好む大衆的な聴衆が多い点でも、マニア的な高揚に欠ける。もっとも、この日はチョンの卓越したカリスマ性が如何なく発揮され、日頃はノイズの絶えないNHKホールの客席がほぼ静まり返る瞬間が随所に見られたのはせめてもの救いであった。

プログラム前半は、いずれも一週間前にみなとみらいホールで聴いた作品である。

一曲目はベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」は、手馴れた仕上がりで、前回と変わらぬ完成度であった。

この日は至近距離で鑑賞できたため、個人的には、みなとみらいホールで味わった洗練された響きの由来を探ることに注力した。このオーケストラの素晴らしいところは、弦楽器セクションに行間を埋める能力があるという点である。セクション全体としての音楽の方向性と香りが共有できているため、音符のない瞬間にも絶えず音楽が進行している。相互の呼吸も合っているので、自然体のうちに複数のパートが互いに寄り添って、和声進行を編み出してゆく。このきめ細かいアンサンブルこそが、チョンのリードの下に生み出されてきたバックボーンであり、このオーケストラのレベルを飛躍的に向上させる原動力になったのだと確信した。また、みなとみらいホールの3階席では美観を伴ったバランスのよい響きとして感じられた金管セクションも、実は舞台上では相当炸裂していることに気付かされたのも、この日の新たな発見。爆演部分と静かなカンタービレが的確に描き分けられているが故に、メリハリが効いて聴こえてくるのではあるが、想像以上のパワーとノリの良さに驚かされたというのが正直な感想である。

二曲目は、ビゼー「カルメン」から抜粋。一週間前にみなとみらいホールで聴いた曲のうち、カルメンが歌唱するナンバーについて、藤村実穂子の独唱版に差し替えられて演奏された。

歌が入ると、テンションが上がるのであろうか。「前奏曲」から勢いがあり、オーケストラ全体がノリノリであった。チョンの指揮も煽り気味であった。粗い部分もあったが、この日は今回のツアーの千秋楽であり、細かい部分は大目に見るべきであろう。何よりも全員が愉しそうにアンサンブルを行っているのが印象的であった。オーケストラの中で、相互にアイコンタクトを図りながら、フランス人としてのプライドに賭けて、最高の瞬間を絶えず模索している様子が微笑ましかった。

一週間前よりもさらに濃厚なテイストとなった「アラゴネーズ」を経て、演奏は「間奏曲」へ。プログラム前半の静かなクライマックスといえる美しさであった。フルートとクラリネットのカンタービレの背後で、静かに瞑想するオーケストラ。音楽的な奥行きの深さに完全に打ちのめされた。

「動」と「静」の組合せで準備が整い、藤村の歌唱による「セギディーリャ」が始まる。まずは様子見といったところか。続く「アルカラの竜騎兵」は、カッチリとした構成の中に、弦楽器によるお洒落な合いの手が光る。

表情が化けたのは、続く「ハバネラ」。藤村はドイツ的な発想に裏打ちされた作品の捉え方を志向すると思われるが、その計算高い描き分けが「ハバネラ」に表れるカルメンの多重人格性を如実に浮かび上がらせる。フリーな印象のカルメンとは一味違う聴き応え十分の「ハバネラ」であった。

「衛兵の交代」を経て、舞台はクライマックスである「ロマの歌」へ。チョンは後半に向けてぐいぐいと手綱を引き締めてゆくが、藤村の歌唱を聴く限り、テンポ感に全く違和感がなく、また歌に無理が生じていないことに驚かされる。そこまで計算した上でのテンポ設定であったのかと納得。藤村による貫録の歌唱により、華々しく締め括られた。

会場内には、藤村のファンも多かった模様であり、階上席から熱烈なブラボーが贈られる。アンコールは、サンサーンスの歌劇「サムソンとデリラ」より「あなたの声に心は開く」。これは外しようのない名曲である。ロマンチックな雰囲気に会場は酔いしれた。個人的には、音色に対するオーケストラの意識の高さに改めて脱帽。生音ベースであっても、これだけ繊細かつ色彩的な音の創り込みができるがゆえに、明晰かつ香り高いサウンドが生み出されるのだということを再認識させられた。

プログラム後半一曲目は、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。この日の演奏の中では、最も完成度が高かった。機能的な楽器の重なり合いが相互に化学反応を起こし、巨大なスケールの音楽へと結実してゆく様子が何ともいえない充実感をもたらしてくれた。

「序奏」では、動機を重ねてゆく弦楽器セクションの各パートの音色の均質性に改めて度胆を抜かされる。磨き抜かれた響きとは、こういう音色をいうのであろう。生音でも綺麗というのは、相当なことである。

「火の鳥とその踊り」に続く「王女たちの踊り」では、しっとりとした情感が丁度良い加減で舞台上から立ち上り、幻想的な響きに心が奪われる。

トゥッティの一撃で開始される「カッチェイ王の魔の踊り」も、外面的には野蛮であるが、演奏水準としては、全く隙のない緻密なテンポ感で、チョンの完璧なコントロールに目を奪われる。金管と打楽器による整然としたド迫力も凄まじい。

「子守唄」から「終曲」は、一週間前にも聴いたナンバー。客席のノイズが雰囲気をぶち壊すのではないかという不安も杞憂に終わり、最弱音の静寂の緊張感を経て、荘厳なクライマックスが構築された。

プログラム後半二曲目は、ラヴェルのバレエ音楽「ラ・ヴァルス」。

冒頭のヴィオラの旋律から、気分は既に現代のパリにあった。オーケストラに自由度を与えて、フランス人のリズム感でワルツを踊らせ、旋律を歌わせつつ、締めるところでは瞬時に的確に集合点を示してアンサンブルを整えるチョンのタクトは、やはり神業である。後半は、はち切れんばかりの大音響により狂乱の場が演出され、やや粗削りながらも、圧倒的なクライマックスとなった。

この日も聴衆は沸きに沸いた。演奏水準だけでは計れない心に響く何かがあったことは確かだ。オーケストラ内の雰囲気と風通しの良さ、そしてマエストロとの信頼関係は、舞台の印象を大きく左右する。

アンコールは、ラヴェルの組曲「マ・メール・ロア」より「妖精の園」。楽器の積み上げにより構築される壮大な世界観。彼らによる最後のアジアツアーの締めくくりとして、舞台上はこみ上げる想いに溢れていた。達成感と充実感がひしひしと伝わってくる舞台に、筆者自身も目頭が熱くなった。

終わってみれば、理屈なしに素晴らしいと実感できる演奏会。チョンの退任前に、このコンビによる名演を再び目にすることができるであろうか。そんな思いを抱きつつ、NHKホールを後にした。


(公演情報)

2013年10月5日(土)18:00開演
会場:NHKホール

指揮:チョン・ミョンフン
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
管弦楽:フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」
ビゼー:歌劇「カルメン」から抜粋(前奏曲、アラゴネーズ、間奏曲、セギディーリャ「セビリアのとりでの近くに」、アルカラの竜騎兵、ハバネラ「恋は野の鳥」、衛兵の交代、ロマの歌「にぎやかな楽の調べ」)
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
ラヴェル:バレエ音楽「ラ・ヴァルス」
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[2013/10/06 22:16] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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