ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ライナー・キュッヒル ヴァイオリン・リサイタル第二夜
10月11日午後7時前、東京文化会館小ホールへ。ライナー・キュッヒルによるヴァイオリン・リサイタル第二夜。入場者数は定員の半分くらいであろうか。関係者や音大生と思しき人たちと、本気モードの熱いファンとに二分されており、異様な空気に包まれていた。

東京文化会館小ホールは、室内楽を聴くには最高の場所。ゆったりとした空間が音色に膨らみを与えてくれる。ピアノとヴァイオリンの音量バランスも完璧である。

筆者が確保した座席は、J列中央上手より。ステージから少し距離を置いたことから、第一夜と違って、ある程度客観的に鑑賞できた。

プログラム前半一曲目は、シューベルトのヴァイオリン・ソナタ イ長調 D.574。

シューベルトの歌心が的確に描かれており、響きの抜き具合やニュアンス付けが絶妙である。個々のパッセージをみると、表情が多彩に織り込まれているが、全体の印象としては、やや辛口ですっきりとした仕上げになっているのがキュッヒルらしい。シューベルトの野心的な挑戦も垣間見られた。

楽章別にみると、第一楽章は彫りが深いAllegro moderato。きちんとmoderatoであるところが素晴らしかった。第二楽章はキレの良いScherzoで、中間部との対比も印象深かった。第三楽章は折り目正しいAndantinoで、音の進行が驚くほど正確。第四楽章では、キリッとしたスピード感があり、バランス感覚に富んだ終楽章であった。カーボン弓特有の硬さやノイズが気になったが、やはり木目調の古典作品の演奏にカーボン弓はあまり適さないということであろうか。

プログラム前半二曲目は、プフィッツナーのヴァイオリン・ソナタ ホ短調 Op.27。先週のヤマハホールの公演とセット券で販売しておきながら、あえて同じ作品をプログラムに載せるところに、意図を感じざるを得ない。

ホールや座席位置の違いにより、これほどまでに印象が変わるのかと、驚いてしまった。眼の前で観たときは、オーケストラのように力強く華々しくエネルギーを発する姿に圧倒されたが、むしろこの日は、軽やかかつ鮮やかなボウイングの妙と、音楽的な拡がりの大きさに感銘を受けた。スタンスは第一夜と同じだが、作品に対する理解がより進んだように感じられた。とりわけ、第二楽章冒頭から太いカンタービレに貫かれ、楽章全体が巨大な山のように感じられたのは、何かのマジックではないかと思わずにはいられなかった。

なお、一曲目のシューベルトではいま一つ相性の良くなかったカーボン弓だが、この作品では、カーボン弓の特性であるレスポンスの良さと鮮明さが音色に艶を添えるとともに、ハイポジションにも負けない機能性の高さが効果的に活かされていた。

プフィッツナーの演奏を終えた後の熱狂的な拍手に、一瞬笑顔を見せたキュッヒルの横顔に、演奏に対する満足度があらわれていたように感じた。

プログラム後半は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 Op.47「クロイツェル」。これこそがベートーヴェンである。素晴らしすぎて言葉を失った。今まで聴いた演奏は、いったい何だったのであろうか。この日の余韻が完全に消えるまでは、この作品を聴くのは封印しようと真剣に思った。

この作品には、中期のベートーヴェンらしい直球の表現もあれば、シンプルな旋律の中に映り込む優しさや哀しさもある。喜怒哀楽が明快に描き分けられている。キュッヒルが超越しているのは、それらを単にヴァイオリンの奏法として示すのではなく、交響曲にも匹敵するほどのスケール感で把握した上で、鋭敏かつ率直に表現し切っているところである。音の全てに意図が詰まっていて、しかもギュッと凝縮している。あえて弾きにくいボウイングを採用していた箇所が散見されたが、キュッヒルの研究の末に到達した達人の域といえよう。

第一楽章は、最初の和音からノックアウト。序奏部が始まった瞬間から、背筋を伸ばして襟を正さずにはいられない緊迫感に包み込まれる。主部に入ってからも、ステージ上で繰り広げられるのは、ヴァイオリンとピアノによる演奏という次元を完全に超越したベートーヴェンの音楽そのものであった。

第二楽章がまた素晴らしかった。この作品の変奏をここまで深く愉しく聴かせた演奏があったであろうか。変化と躍動感に富み、しかし様式観が保たれ、孤高の精神性も窺わせ、神の域にあると感じた。

第三楽章も内面的なドラマに満ちていた。高揚して夢中になっている自分が会場には存在した。振り返ると、濃密な時間があっという間に過ぎ去ってしまっていた。

カーテンコールで、本気モードの熱いファンらが静かに燃えたのは、言うまでもない。63歳を迎えたキュッヒルの最も円熟した時期に、最高のコンディションでこの作品の演奏に触れることができたのは、筆者個人にとってかけがえのない経験となった。

ところで、第一夜、第二夜を通じて、ピアニストとして共演した加藤洋之の頑張りも忘れてはならない。単に呼吸が合っているというレベルにとどまらず、作品とキュッヒルの音楽観に精通し、全体構成を把握した上で、キュッヒルのヴァイオリンを邪魔することなく、しかし必要な支えは十二分に展開するという共演者に求められる最高レベルのセンスが光っていたといえる。とりわけ、クロイツェルソナタでは、軽快さと若々しさを失わず、キュッヒルのストイックな演奏スタイルともよく調和し、共演者として素晴らしい演奏を披露していた。ベーゼンドルファーの深みのある音色との相乗効果もあったが、ピアノがどんなに鳴らしても、ヴァイオリンとピアノが対等に語り合っているという状態が失われなかったのには、正直驚かされた。

アンコールは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番より第三楽章、同第6番より第二楽章。そして締め括りは、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ K.296から第三楽章。クロイツェルソナタの印象を美化するに相応しい選曲である。デザートに至るまで、音楽的な完成度が高く、頭の中はグルグルになった。

来年秋は、ブラームスのホルントリオを演奏するという。これは文字通り万障を繰り合わせて会場に出向かなければならない。その前に、マスタークラスやウィーン・リング・アンサンブルの演奏会もあるが。


(公演情報)

ライナー・キュッヒル ヴァイオリン・リサイタル

10月10日(木) 19:00開演
会場:東京文化会館小ホール

ライナー・キュッヒル(Vn)、加藤洋之(Pf)

シューベルト:ヴァイオリンソナタ イ長調 D.574
プフィッツナー:ヴァイオリンソナタ ホ短調 op.27
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 op.47「クロイツェル」
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[2013/10/12 00:58] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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