ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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東京・春・音楽祭 特別公演 ムーティ conducts ヴェルディ(第一日目)
10月30日午後7時前、すみだトリフォニーホールへ。リッカルド・ムーティ指揮東京春祭特別オーケストラによるヴェルディ生誕200年記念特別公演。ヴェルディを愛する音楽ファンの間では、企画発表時から注目を集めていた。この日はその初日であり、会場内には著名な評論家やその他の業界関係者、そして一家言ありそうなコアな音楽ファンが集結し、ピリピリとした空気が流れていた。

発売初日に確保した座席は、1階席1列目中央上手より。マエストロのタクトや息遣いを間近に拝めるベストポジションである。中央ブロックの前方席は、マエストロのコアなファンで埋まっており、演奏中の環境はすこぶる良かった。

プログラム前半は、「シチリア島の夕べの祈り」序曲と第三幕よりバレエ「四季」。

序曲の冒頭は、弦楽器の反応が鈍く、また木管楽器のハーモニーが濁るなど、不安要素も多かった。しかし流石は、ポテンシャルの高いプロ奏者らの集合体。曲が進行するにつれて、マエストロのタクトに吸い寄せられるように響きがまとまってゆき、音色がイタリア的に変化していった。まるで、歌劇場におけるオープニングのような臨場感があった。これには集まった聴衆が一斉にブラボーを発する。

続くバレエ音楽は、オペラ上演時にもしばしばカットされてしまうマイナーな作品。丁寧なリハーサルが行われた痕跡が十分に窺われた。演奏に30分近くを要するが、その間、集中が途切れることはなく、整理整頓された密度の濃い演奏であった。管楽器の静かなカンタービレとその背後に拡がる無限の静寂から、懐の大きな陽気なスウィングまで、ヨーロッパの四季の移ろいが洗練された響きとともに縦横無尽に引き出された感がある。なお、部分的にではあるものの、弦楽器や木管楽器において、指を回すことに精一杯になってしまった箇所が散見されたのがやや残念。こういった箇所では、ヴィルトゥオーソ的な観点からは非常にレベルが高かったが、真面目すぎて色合いの乏しさを感じてしまったのも事実である。ともあれ、無色透明なキャンバスを相手に、これだけ多彩な表情を引き出したマエストロの勝利といってよいであろう。

プログラム後半は、「運命の力」序曲と第二幕より「天使の中の聖処女」で開幕。

序曲に関しては、日本のオーケストラも演奏し慣れているはずなのだが、意外にもテンポの落ち着きが悪く、スピード感やニュアンスをめぐって、舞台上に様々なベクトルが見え隠れしていた。フレージング上も、エッジの効きが悪く、陰影に乏しかった。そのため、マエストロのタクトも交通整理に終始せざるを得ず、マエストロが名門オーケストラを相手に繰り広げてきた数々の名演奏に比べると、かなり不発であったといわざるを得ない。

続く第二幕フィナーレは、東京オペラシンガーズの男声合唱が、ピュアトーンの洗練されたハーモニーで、宗教的な色合いを演出し、期待感を高めたものの、バス・バリトンの加藤宏隆の演じた修道院長に役柄に相応しい威厳が伴わず、また、ソプラノの安藤赴美子が演じたレオノーラも表情の硬さが声に表れてしまい、感動的なフィナーレからは程遠い仕上がりになってしまった。やはりオペラ全幕を観るときの感動とは、天と地ほどの差がある。聴衆の反応も非常に素直で、会場内にやや気まずい雰囲気が漂ったのは否定できない。

次に演奏されたのは、「マクベス」第四幕より「虐げられた祖国」。

この作品でも、東京オペラシンガーズの合唱が存在感を示していた。抑圧された民衆のほの暗い響きをポリフォニックに構築し、内に秘められた熱い想いが純音楽的に表現されていた。合唱指揮のロベルト・ガッビアーニの手腕による部分も大きいであろう。もっとも、オーケストラの方は、やや事務的に演奏しているような感じもあり、作品に対するオーケストラの理解が十分には追いついていなかった可能性はある。歌劇場のオーケストラであれば、合唱と一体化し、会場の涙を誘うことができるのであろうが、そこまで求めるのは贅沢といえようか。

最後は、「ナブッコ」の有名なナンバーが採り上げられた。

まず演奏されたのは、この作品の代名詞と称しても過言ではない合唱曲。「ナブッコ」第三幕より「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」。最初のフレーズである「Va, Pensiero」を合唱が歌い始めると、やや停滞しかけていた会場内の雰囲気がようやく解放に向かい、純粋に音楽に浸れる環境が整った。クールな表情を貫いてきたマエストロの横顔にも、イタリア人としての情熱が静かに迸りはじめる。言葉の一つひとつに熱い想いが注ぎ込まれ、会場内は深い感銘に包まれた。東京オペラシンガーズもマエストロの要求によく応えられていたと思う。コーダの響きの美しさは、この世のものとは思えないほどであった。

そして、締め括りは「ナブッコ」序曲。テンポ的に前に転がる瞬間も垣間見られたが、概ね安定感があり、堂々とした力演であった。オーケストラの自由度と柔軟さが高まり、各奏者が伸び伸びと演奏していたのが印象的であった。録音で馴染んでいたマエストロの演奏には含まれていなかった新たな解釈も見られ、個人的にも新鮮な気持ちで臨むことができた。コーダの高揚感も申し分なく、何とか無事にこの日の演奏会を終えることができたといえる。

なお、アンコールとして「運命の力」序曲が準備されていた模様であるが、マエストロのその場の判断で、アンコールをやらずに終了。来春に控えるローマ歌劇場来日公演へのプレリュードとして、綺麗なまとめ方であったと思う。

今回、間近で観たマエストロは、やはり凄かった。この至近距離であるがゆえに、知ることができたマエストロのタクトの秘密の数々。無駄な動きは全くないし、立ち姿は非常に綺麗。奏者の自由度を最大限に引き出しつつも、必要十分なアウフタクトで、絶妙にアンサンブルをコントロール。「歌」を基調とした音楽の流れを重視し、意識の中には入れつつも、あえて細かい音符を振らないという芸当も使いこなす。そして、わずかでも危険を察知すると、すかさず振り向いて、ヘルプ信号を一度だけ送り、立ちどころにして立て直す。しかもアンサンブルを整えるというよりも、むしろ音楽的な流れを強めるニュアンスでアウフタクトを発する。オペラ指揮者としてのマエストロの真骨頂を目の当たりにしたように感じた。なお、マエストロの場合、拳を振り上げるような力強い動きに目が奪われがちであるが、実のところ、タクトの動きは、シンプルかつオーソドックスであり、基本に忠実であった。しかし、マエストロが別格であると感じたのは、拍後に魅せるタクトや左手の微妙な仕草や変化から、繊細かつ複雑なニュアンスを無限大に紡ぎ出していたこと。指揮台の上から発せられるオーラの神々しさは、半端ない。立ち姿が作品を語り、そして楽譜そのものを浮かび上がらせることができる指揮者というのには、なかなかお目にかかれるものではないだろう。

ところで、今回の演奏会に登場した東京春祭特別オーケストラは、コンサートマスターの矢部達哉を筆頭に、都響やN響など、在京オケ首席奏者クラスを中心とした臨時編成オーケストラ。そのため、例えば、都響メンバーの場合、日中は週末に控えたインバルとのマーラーチクルスのリハーサルが入っているなど、合間を縫ったスケジューリングで、GPも前日に実施されたと聞いている。リハーサルと準備に十分な時間をかけたとはいえ、やはり寄せ集めオケには限界があり、奏法や音色の不揃いが目に付くとともに、若干のバタバタ感も否めなかったが、仮に在京オケのどこかを起用していたとすれば、逆にその団体特有の色や限界に阻まれ、マエストロ・ムーティの色が十分に引き出されなかった可能性もある。ヴァイオリンの奏法の不統一、チェロの音程のわずかな乱れ、木管楽器のハーモニーの不揃い、ティンパニ以外の打楽器の反応の悪さなど、細かい点を挙げればキリがないが、結果的にはベターであったと考えるほかはないであろう。なお、コンサートマスターを務めた矢部の奮闘ぶりは際立っており、マエストロに忠実に、イタリア的な奏法を完璧に習得し、そして実践していた真摯な姿には、大変感銘を受けた。

このオーケストラが第二日目にどこまで化けるか、筆者の期待は高まるばかりであった。


(公演情報)

東京・春・音楽祭 特別公演 ヴェルディ生誕200年記念
ムーティ conducts ヴェルディ

2013年10月30日(水)19:00開演
すみだトリフォニーホール

指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
ソプラノ:安藤赴美子
バス・バリトン:加藤宏隆
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ、宮松重紀

曲目
ヴェルディ:
歌劇《シチリア島の夕べの祈り》序曲
歌劇《シチリア島の夕べの祈り》第3幕より バレエ「四季」
歌劇《運命の力》序曲
歌劇《運命の力》第2幕より「天使の中の聖処女」
歌劇《マクベス》第4幕より「虐げられた祖国」
歌劇《ナブッコ》第3幕より「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」
歌劇《ナブッコ》序曲
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[2013/11/02 21:08] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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