ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ローマ行き(13年11月)①―ムーティ指揮ローマ歌劇場「エルナニ」
11月29日午前1時すぎ、NH203便にて羽田からフランクフルトへ。約2時間の乗継でLH230便にてローマ・フィウミチーノ空港へ。フランクフルト行きは、多数の外国人搭乗客の影響を受け、ビジネスクラスが超満員。アップグレードに失敗し、プレミアム・エコノミーの利用を余儀なくされた。酒食はラウンジで済ませ、「エルナニ」の予習とフテ寝に徹する。

午前11時前に宿泊先であるHotel Diclezianoにチェックイン。テルミニ駅前の広場から一本入ったところにある4つ星ホテルは、アクセスもサービスも良好。バスタブ付きの快適な部屋に、一泊あたり税抜き100ユーロ程度で宿泊できるのが嬉しい。

正午すぎに市バスでトラステヴェレ地区に向かい、サンタ・チェチーリア・イン・トラステヴェレ教会に立ち寄った後、テスタッチョにある有名レストラン、フェリーチェ・ア・テスタッチョで昼食を摂る。サラリーマンや観光客で満席の賑わいだが、名物のトンナレッリ、ハンバーグ風の肉料理、ローマ風カルチョーフィのいずれも、悪くはないが、そこまで美味しいとは思えなかった。店員の対応も一見スマートだが、混雑ゆえに雑然としており、再訪したいという気分にはならない。昼食後は、夜食の買い出しを兼ねて、オスティエンセ駅脇のイータリー本店でショッピングを楽しみ、ホテルに戻る。

午後7時半頃、ローマ歌劇場へ。リッカルド・ムーティ指揮によるヴェルディ「エルナニ」。今シーズンの開幕演目で、二日前に初日を迎えたばかりの新演出だ。

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発売初日に筆者が確保した座席は、2階層(1stOrdine)の舞台から6つ目の右手ボックス1列目。舞台上手側が僅かに見切れるが、マエストロの指揮を斜めから直視できる最高のポジション。音響的には、若干バランスが悪いものの、オーケストラピットや舞台上から発せられる臨場感のある音色を捉えることができるので、演奏者の視点からは嬉しい場所であった。

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ローマ歌劇場の2013/2014シーズンは、直前になって、破産更生の可能性に反対した労組側がストライキを通告し、一時は開幕自体が危ぶまれたが、労組と市側とのギリギリの折衝の結果、ストライキは中止となり、11月27日は、大統領、市長、文化相、各国大使らを貴賓席に迎え、圧倒的な成功により無事に開幕初日を迎えることができたと報じられている。第三幕の合唱曲「カスティーリャの獅子が目覚めんことを」をアンコールに応える形で再度演奏したとの情報もあり、意気込みの強さが窺われる。なお、このあたりの情報は、有名なブログ「南イタリアの申し子~リッカルド・ムーティ / IL FIGLIO DEL SUD~IN OMAGGIO AL MAESTRO RICCARDO MUTI~」で詳しく紹介されているので参照されたい。

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この日は二日目の公演にあたるが、開幕中止の危機という大きな困難をくぐりぬけて成長したローマ歌劇場の輝かしい姿が存在した。「誰も侵すことのできない音楽だけの離島」という報道記事の形容がピタリと当てはまる空間であった。

そもそもマエストロ・ムーティのローマ歌劇場での音楽造形は、スカラ座と遺した1982年の名演とは、その方向性を明確に異にしていた。鋭角的な力強さよりも、人間的な温かみを強く印象付ける。マエストロの激しい指揮振りは今回は見受けられず、むしろ優しく微笑みかけるような表情に包まれていた。同様の傾向は、昨シーズンの開幕公演「シモン・ボッカネグラ」でも感じられたが、今回の舞台では、より成熟したテクスチュアの下で際立っていた。

無論、音楽的な完成度の高さは比類ない。驚くべきは、マエストロの解釈や意図が、オーケストラや合唱、独唱の面々の身体に十分に染み渡っており、寸分の狂いも感じさせないほど、稀有な調和が生み出されていたこと。レガートを基調とした柔軟かつ巧妙なカンタービレが脈々と続く一方で、和声進行に伴う色合いの変化が克明に浮かび上がる。合いの手一つを採ってみても、そこには全く迷いがなかった。スコアに描かれた音符の一つひとつに至るまで、崇高な様式美に包含され、しかも主体性と一体性を持って活き活きと語りかけてくる。全てが驚異的であった。

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さて、第一幕の第一曲の導入曲、第二曲のカヴァティーナ、第三曲のカヴァティーナは、いずれも1982年のスカラ座との上演に比べると、テンポがかなり落ち着いていた。初期のヴェルディという安易なレッテルから想起される熱血的・躍動的なコン・ブリオとは印象が違っていた。この日の偶然か、それとも今回の上演全般に通ずるのか、現時点では分からない。頻発するコロラトゥーラの走句を見越した安全策であった可能性も否定できない。このような状況は、幕開き直後には起こりがちではあるが、合唱の動きも若干ビハインド気味で、エルナーニ役のフランチェスコ・メーリの滑らかな歌唱と相まって、推進力が足りないようにも感じられた。出鼻をくじかれたと感じた聴衆もいたようで、キレ味のやや鈍かったエルヴィーラ役のタチアナ・ セルジャンに対してブーイングを浴びせる者もいた。

しかし、第四曲のシェーナに入ると、音楽に息吹が蘇り、躍動感が高まった。ドン・カルロ登場の足取りを表現する序奏部において、舞台上の色合いが一気に転換したのであるが、振り返ると、国王ドン・カルロという人物に対してマエストロが与えた性格表現に裏打ちされた処理であったと思われる。ともあれ、この瞬間を転機として、舞台全体のテンションはしり上がりに高まり、手に汗を握る瞬間の連続となる。

第五曲の第一幕フィナーレ冒頭で歌われるシルヴァのソロにおいて、イルダール・アブドラザコフが優美な旋律を深々とした声で歌うと、劇場内から爆発的な喝采が湧き上がり、この日の上演の行方が決定づけられた。抜群の安定感を誇る合唱に牽引され、申し分のないフィナーレとなった。

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第二幕の第六曲、シルヴァとエルヴィーラの結婚を祝う混声合唱は、愛と優しさに満ちた柔らかい雰囲気に包まれる。マエストロと合唱の間で交わされるアイコンタクトの数々が微笑ましい。続く第七曲は、エルナーニとエルヴィーラの二人きりになった瞬間から、音楽の緊張感が一気に高まった。シルヴァの存在感が強いと、第七曲における三角関係が際立つので、面白さが倍増する。場面の切り替えの鮮やかさ、そしてテンションの高さと演奏効果を完璧に整えるバランス感覚の鋭敏さは、マエストロの独壇場であった。

第八曲のアリアでは、調子を上げてきたカルロ役のルカ・サルシが多彩な声色により要所を絶妙に歌い分け、淡々としつつもドスの効いたシルヴァ役のアブドラザコフとともども、第二幕のドラマを引き締めた。とりわけ印象的であったのは、カルロの歌う後半部のカバレッタ「Vieni meco, sol di rose」で、ここでは、言葉の意味に相応しく、ppの囁きの中にゾクゾクさせるほどのニュアンスが籠められており、誘われたエルヴィーラもこれでは万事休すといわざるを得ないシチュエーションが醸し出されていた。また、マエストロによる楽譜の処理も天才的で、オーケストラを聴いているだけで誰がどのような心情であるかが瞬時に理解できるというのは、驚異的であるというほかはない。酸いも甘いも嚙み分ける国王ドン・カルロの多面性と計算高さ、他方で若気の至りとも取れるような一面など、この場面でマエストロが描いたドン・カルロ像は、ある意味で通常の範囲を超越していたと思われる。

第九曲は、もともと台本において展開に拙速さが否めないため、特に2つの重要なキー・ポイント、すなわち、国王カルロがエルヴィーラを愛している恋敵であることをシルヴァが初めて知る場面、またエルナーニがシルヴァに角笛を渡す場面に関し、もう一呼吸欲しいと感じるが、マエストロの指揮のもと、キビキビとした動きの中で、各要素がピシッと枠の中に納まり、充実した幕切れとなった。

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第三幕は、第十曲のシェーナと第十一曲の合唱の冒頭部分で、マエストロは究極のppを狙い、演奏者側も完璧に応えていたものの、劇場内の静寂が十分に保てていなかったのが残念。もっとも、初日の上演時にアンコール演奏が行われた合唱曲「カスティーリャの獅子が目覚めんことを」では、愛国心に訴え、そして劇場の再生と発展を願う演奏者全員の想いが、直球で客席に届けられたのを受け、劇場全体が静まり返った。第十二曲のフィナーレは、直前の合唱曲で力みすぎた反動のためか、やや印象が薄まってしまったように感じられたが、バランスの取れたアンサンブルで、上々の仕上がりであった。

第四幕は、ようやく幸せを見出したエルナーニとエルヴィーラの二人を引き裂くシルヴァという構図だが、その結末が宿命であることを終始一貫して暗示させるような音楽の展開が秀逸であった。シルヴァ役のアブドラザコフの存在感が圧倒的で、エルナーニとエルヴィーラによる愛の二重唱を完全に吹き飛ばすほどの迫力があったが、それはそれで台本上納得のゆく出来栄えである。

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カーテンコールでは、主要キャスト陣にもれなく大喝采が送られていたが、中でもシルヴァ役のアブドラザコフと、エルナーニ役のメーリに、より大きなブラボーと拍手が飛んでいた。もちろん、マエストロ・ムーティに対しては、劇場全体から爆発的なブラボーの嵐が湧き上がった。舞台上の演奏者らからは、初日、二日目を終え、ようやく安定軌道に乗り始めたことに対する安堵の表情が窺われたように思われた。

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終演は午後11時20分頃。足早にホテルに戻る。イータリー本店で買い込んだワインと食材とともに、しばし余韻に浸る。


(公演情報)

ERNANI

Teatro Costanzi
Musica di Giuseppe Verdi

Venerdì 29 novembre, ore 20.00

Direttore: Riccardo Muti
Regia, scene e costumi: Hugo de Ana
Maestro del Coro: Roberto Gabbiani
ORCHESTRA E CORO DEL TEATRO DELL’OPERA
Nuovo allestimento

Interpreti
Ernani: Francesco Meli
Don Carlo: Luca Salsi
Don Ruy Gomez de Silva: Ildar Abdrazakov
Elvira: Tatiana Serjan
Giovanna: Simge Büyükedes
Don Riccardo: Antonello Ceron
Jago: Gianfranco Montresor
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[2013/12/08 14:28] | 海外視聴記(ローマ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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