ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ザルツブルク行き(11年8月)①―サロネン指揮「マクロプロス事件」
8月13日早朝、SN2901便にてウィーンへ、そしてOS917便に乗り継いでザルツブルクへ飛ぶ。OS917便の出発が遅れるとのアナウンスがあり、若干ヒヤリとしたが、30分遅れで出発し、無事にザルツブルク空港に到着した。

滞在先のNHザルツブルクにチェックインの後、旧市街の様子見に出かける。有名店シュテルンブロイのセルフコーナーで、白ソーセージとミートローフを食すも、かなり残念な結果に。せっかくの美味しいビールが台無しである。
気を取り直して、ゲトライドガッセを行くと、何やら雰囲気の良さそうな立ち飲みワインバーが。自分の嗅覚を信じて中に入ると、そこはSPORERという自家製リキュールとシナップの直売店兼カウンターバーであった。スタッフの方々が色々と親切に教えてくれ、しかも何種類もテイスティングさせてくれたため、未知のお酒についての基礎的な知識を入手するとともに、好みのタイプを見つけることができた。たまたま隣にいたカリフォルニアから来たという年配の音楽ファンとの談笑も盛り上がり、しばし楽しく過ごす。
テイスティングをし過ぎて、多少酔っ払ったので、観光客で溢れるモーツァルトハウスの前を通過し、ホテルへ戻り、仮眠。夕方6時前に起床し、着替えて、再び旧市街へと向かった。

ザルツブルク初日のディナーは、有名店アルト・ザルツブルクで摂る。川魚のソテー、エスカロップを選ぶも、前者はまあまあ、後者は可もなく不可もなく。エスカロップに関しては、全く別物ではあるが、以前に根室市内のレストランで食したものの方が断然美味しかった。サービスは一流だが、値段を考えると、料理の水準とは釣り合っていないかもしれない。ただ、食後のチーズにあわせて飲んだシナップは、昼に学んだ知識を総動員しながら自分の希望を述べたことが奏して、良いものが飲めたし、何よりも、岩山をくり抜いて創った雰囲気のある店内は、オペラに向かう着飾った老若男女で満席で、高級感と落ち着きの漂う空間に滞在できただけでも良しとすべきようにも思える。

夕方8時半すぎに、祝祭大劇場へ向かう。この日の演目は、ヤナーチェク「マクロプロス事件」。筆者の中でのザルツブルク音楽祭がいよいよ開幕である。

20110813-01

劇場内は、お洒落なフォーマルウェアで着飾った人々でいっぱいであった。この日の座席は、1階席23列目3番。よく言われているが、祝祭大劇場の客席は、傾斜が付いているため、どの座席からでも舞台がよく見え、また音響も抜群である。

20110813-02

さて、上演についてだが、総評的に述べれば、今回の上演では、この非常に難解な作品を、親しみやすく、わかりやすく、原作に忠実に、素直に描いていたといえる。休憩なし、場面転換なしという制約の下での上演だったが、舞台セットにおいて、下手側のガラスの中、中央下手側の通路、中央の裁判所の法廷風の空間、上手側のガラスの前後の空間という区分けが、構造的にも色彩的にもシンプルかつ明快になされており、役者の立ち位置も、そのコントラストを存分に活かしたものとなっていたため、常に変化が生み出されていた(筆者らが取り組むオペラ上演では、限りなく低予算で行わなければならないため、豪華な大道具を設けることは到底不可能だが、それでも、床の色合いと、舞台上の机や椅子といった小道具の質感を工夫し、平台の高さも加味すれば、照明を駆使することで色々と面白くできそうだということに気付けただけでも、非常に勉強になった。)。

最も印象的であったのは、各役者に対する演技指導の秀逸さ。各役者のキャラクターの違いが一目瞭然に理解でき、しかも首尾一貫しているのが心地よい。台本にも忠実だ。ヒロインであるエミリア・マルティは、表面的には冷たいドSキャラだが、今回の上演では、この役に対してヤナーチェクが感じたであろう同情心が、一つひとつの仕草の中で見事に浮かび上がっており、300年以上の生を得た彼女の多面性と深さが演劇的にも十分に表現されていた。なお、個人的には、コレナティー博士につき、頭が堅く要領の悪い、いわゆるプロトタイプ的な弁護士像が強調されていた点がコメントに困るところではあるが、実際、この業界にこういう弁護士がいることは事実であり、色々と想像を巡らしつつ、失笑せざるを得なかった。

この作品では、独白的な場面や動きのない二重唱の場面が割と長い時間続く。これらの場面では、ストーリーにアピール力があまりないため、演出的には、これをどのように見せるかが一つの課題となるが、今回の演出では、視覚的な意味における第三局や第四局の活用により、この課題を克服していた。

第一幕では、下手側のガラスの中に閉じ込められたエミリア・マルティの分身ともいえる若い女性と老婆が登場したり、上手側の舞台前方の待合室風の空間の椅子でクリスタとヤネクが二人の世界を築かせたりすることで、視覚的な多様性が生み出されていた。第二幕では、舞台監督が中央下手側の通路から繰り返し登場し、老婆に花束を渡すという行為を、様々な花束で繰り返すことにより、エミリア・マルティに対して男どもが夢中になっている様を暗示的に表現していた。中央奥の裁判官席を窺わせる位置から、クリスタが事の成行きを無言で観察し続けるという設定も、説得力がある。第三幕冒頭では、演奏の開始前に、合唱メンバーが三度にわたり舞台に登場し、舞台中央奥の区間や、中央下手側の通路を埋め尽くすという設定にすることで、事件の成行きに対する一般市民の注目度を暗示するかのような表現もなされていた。第一幕に入る前に、下手側のガラスの中で、エミリア・マルティの分身である若い女性と老婆の二人組にストーリーのエッセンスを無言で語らせるという手法も、この難解な作品においては、とても効果的である。穴を掘って埋めるではないが、全体を通じて、それ自体にはあまり意味のない行動を、背後や舞台袖で繰り返し行わせることにより、舞台上の停滞を止めるという手法は、それが何らかの暗示的な意味を醸し出す限りにおいて有効であるということを学んだ。

キャスト陣に関しては、全員が、その与えられた役について、然るべき姿を適切に表現していたといえる。中でも、ヒロインであるエミリア・マルティ役のアンジェラ・デノケは、歌唱・演技ともに非の打ち所がなく、観客からの拍手も特に大きかった。

他方で、オーケストラは、譜面を追いかけるだけでも目が回りそうな複雑怪奇なこの作品を手堅くまとめていたという意味では、それだけで賞賛に値するが、ウィーンフィルの実力からすれば、もっと上が狙えたはずである。ヤナーチェクは、例えば、3拍子の3拍目に込み入った和音を置き、そこから次の1泊目にシンプルな終止形に導くというような和声進行を好んで活用するが、この日の演奏では、シンプルな終止形は決まるものの、複雑な和音によるアウフタクトの響きについては、和声としてしっくりと来ない場面が散見された。別の言い方をすれば、音程は合っているが、響きとして、そして和音として、華が開かない。リズムの切れも、全体的にいま一歩。細かいパッセージで、たまにミスも聞こえる。それゆえ、ヤナーチェクの書いた鮮烈な音像は、十分には浮かび上がってこなかった。

オーケストラがポリフォニックにブレンドされる場面での響きの美しさ、そして、幕切れ前の高揚感の醸し出し方は、ウィーンフィルならではといえるし、全体的に各楽器の音の分離が極めてクリアであったことも、ウィーンフィルの実力の高さを如実に表すものといえるが、演奏者側において音楽を奏でることに喜びが共有できていない、つまり、事務的に音符を処理することに終始し、この日の上演を仕事の一環として片付けてしまっていることがピット内の空気から感じ取れてしまうため、物足りなさが残ってしまうのだ。過密スケジュールで疲労感が滲み出てしまっているのだろうか。他のオーケストラであればここまでは言わないが、本当に凄いウィーンフィルを知ってしまった筆者としては、オーケストラに関しては、辛口評とならざるを得ない。

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なお、今回の上演とは関係ないが、実は、「マクロプロス事件」という作品、台本自体に不可解な箇所が何箇所かある。例えば、封印された書簡について、彼らは勝手に開封してしまっているが、裁判沙汰になっている以上、本来であれば、裁判所のような公的機関の面前で、正式な手続に則って開封作業が行われるのが筋である。また、そもそも最高裁で判決が出ているのに、その後で、このような証拠が発見され、それにより結論が左右され得るという設定も、おかしな話である。裁判の相手方であるプロス男爵が任意に同意している以上、問題はなさそうにも見えるが、翻意する可能性も否定できず、遺産相続という問題の複雑性に鑑みると、この業界にいる筆者としては、背中が痒くなる場面が多かった。普通にオペラを鑑賞する立場からすれば、どうでもよいような話かもしれないが。

終演後は、近くのワインバーに入ろうと試みるも、人が一杯で入れず、帰り道にあったその他のバーやレストランにも、何となく入る気分になれず、チェーン店のWEIN&COで赤ワインを一本購入し、ホテルのバーでアペロール・スピリッツを1杯飲んで部屋に戻る。そして、購入した赤ワインをチビチビと飲みながら、この日記を記し、就寝。


(公演情報)

Leoš Janáček • Věc Makropulos (Die Sache Makropulos)
Oper in drei Akten
Neuinszenierung
In tschechischer Sprache mit deutschen und englischen Übertiteln
Koproduktion mit dem Teatr Wielki, Polnische Nationaloper

LEADING TEAM
Esa-Pekka Salonen, Musikalische Leitung
Christoph Marthaler, Regie
Anna Viebrock, Bühnenbild und Kostüme
Olaf Winter, Licht
Joachim Rathke, Mitarbeit Regie
Malte Ubenauf, Dramaturgie
Jörn H. Andresen, Choreinstudierung

BESETZUNG
Angela Denoke, Emilia Marty
Raymond Very, Albert Gregor
Peter Hoare, Vítek, Rechtsanwaltsgehilfe
Jurgita Adamonytė, Krista, seine Tochter
Johan Reuter, Jaroslav Prus
Aleš Briscein, Janek, sein Sohn
Jochen Schmeckenbecher, Dr. Kolenatý, Rechtsanwalt
Linda Ormiston, Eine schottische Hausangestellte (Uklízečka /Komorná)
Peter Lobert, Ein Zivildienstleistender (Strojník/Lékar)
Ryland Davies, Hauk-Šendorf
Sasha Rau, Jin Ling
Silvia Fenz, Mary Long
Anita Stadler, Anita Stadler
Wiener Philharmoniker
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[2011/08/15 00:01] | 海外視聴記(ザルツブルク) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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