ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ザルツブルク行き(11年8月)⑥―ムーティ指揮「マクベス」
8月16日、この日は夕方まで特に予定はない。折角の機会なので、市街の観光スポットを巡ることとした。訪れたのは、ホーエンザルツブルク城塞、パパゲーノ像、モーツァルト広場、モーツァルトの生家、大聖堂という超定番コース。いずれも行くこと自体に価値がある場所といえようか。

さて、昼食は、超高級レストラン、ゴルデナー・ヒルシュにて。牛肉をゼラチンで固めた前菜、団子スープ、子牛のソテーに、赤ワイン(Jois 2007/Markus Altenburger)を合わせてみた。前菜は、基礎がしっかりしている上に、柑橘系ソースがとても良いアクセントになっていた。団子スープも、純度の高いコンソメ、余計な味付けがなく肉本来の旨みが活かされた肉団子、それらの掛け合わせにより広がる豊潤な味わいは、一流レストランの成せる技である。子牛のソテーも、ソースとの相性がよく、洗練された雰囲気を醸し出す。そして、これら全てがワインと抜群のコラボレーションを創出する。パンケーキ&デザートワインで締め、今回のザルツブルク滞在中で初めての至福の食を愉しめた。値段は、他の有名レストランの倍になるが、昨今の円高の情勢下では、都内の良い感じのビストロで食べたのと同じくらいであり、超一流のサービスも考え合わせると、十分に納得が行くレベル。ザルツブルク滞在中、ゆっくりと時間がとれるときを狙って、是非一度は訪れてみたいレストランの一つといえる。

昼食を終え、ぶらぶらと街を歩き、ホテルへ戻り、夜に備えてしばし仮眠。午後6時半すぎにホテルを出て、フェルゼンライトシューレへ。この日の演目は、ムーティ指揮によるヴェルディ「マクベス」。今回の旅程は、このためにあったといっても過言ではない。前評判も高く、会場に入る前から心が高まる。なお、今回の座席は、前から17列目の下手側ブロック。舞台からの距離も近く、臨場感をもって楽しめるポジションだ。

20110816-01

午後7時半、マエストロが登場し、開演。2回の休憩を挟み、午後11時15分に終演。あまりの素晴らしさに、もはや説明不能。言葉に置き換えようとすると、途端に、あの「響き」の数々が矮小化され、陳腐化してしまう気がして、筆が進まないが、それでもあえて説明を試みると、概ね以下のとおり。

今回は、何といっても、弱音の表現が極限まで洗練されていたことに、大変な衝撃を受けた。

「マクベス」において、ヴェルディは、主役のベル・カントを否定し、マクベスやその夫人の歌唱部分のほとんどを「朗唱」により構成した。それゆえ、内面表現については、小さい声で台詞として語られる場面が多い。オーケストラが創出した「静」の空間においては、そうした言葉の一つひとつが異常な緊張感を持って、観客の心に届いていた。

いわゆるアンサンブル・フィナーレにおいても、合唱の音量が絶妙にコントロールされており、各役者による心境の独白が、小さな声であるにもかかわらず、自ずと浮かび上がっていた。また、通常であれば歌い散らかしてしまうことの多い独唱や合唱の箇所も、音楽的に丁寧にまとめられ、息の長いフレーズ感が生み出されていた。

管弦楽の手法との関係でも、「マクベス」では、ヴェルディは、動きのない静寂の持続により不安と緊迫を表現することに成功しているが、ムーティ&ウィーンフィルの創出した「静」の響きの透明感は、異様なほどの劇的効果をもたらしていた。あれだけのピアニシモは、他のオーケストラでは実現できないのではなかろうか。

こうした「静」の持続を通じて劇場内に充填されたエネルギーは、クライマックスを前に頂点に達し、劇的かつ情熱的でありながらも、格調の高い緊迫したフォルテシモに結実していた。淡く繊細な質感と色彩感、そして音楽的な見せ場を創出する巧さといったウィーンフィルの持ち味を知り尽くしたマエストロ・ムーティによる、正に歴史に残る芸術的解釈であったといえる。

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他方で、この日のウィーンフィルは、前日聴いたヴェルディ「レクイエム」のときと比べると、よりイタリア的な方向にシフトしており、岩盤を背後に持つフェルゼンライトシューレの響きとも相まって、33歳のヴェルディの若さや勢いも見事に表現されていた。とりわけ第二幕第三場は、文字通り、イタリアであった。舞台上で役者が演技をすることも踏まえ、テンポには多少の余裕が与えられており、歌手が自然に歌えるように配慮されていたが、かといって流れが停滞することはなく、スピード感も適度にあり、王道を行く解釈であった。

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最も感情が揺さぶられたのは、やはり第四幕。第一場では、マエストロ・ムーティは、それまでは控えていた溢れんばかりの歌心を舞台に注ぎ込んだ。涙無しには聴くことができない感動的なシーンであった。そして、第二場もこの雰囲気で進めるかと思いきや、ここで奏でられたヴァイオリンのメロディは、意外にも簡素で、哀しさも感じさせるもの。確かにストーリーを考えれば、このコントラストは、非常に合理的で説得的である。第三場では、マクベスの死によりそのまま幕を閉じる初版が採用され、劇的な高揚感はひとしおであった。

マエストロ・ムーティは、この日は、非常に若々しい指揮ぶりで、全体を引き締めるとともに、「マクベス」の巨大な世界観を創出していた。音符の一つひとつ、台詞の端々に至るまで、マエストロによる最高の解釈が徹底され、そして磨き上げられていた。リハーサルにおいては、相当入念な準備がなされたのだろう。ヴェルディの上演は、やはりこうでなければ。
なお、この日のウィーンフィルのメンバーは、「影のない女」や「レクイエム」と比べると、必ずしもベストメンバーというわけではなかったようで、テンポの落ち着きの悪い箇所や、綻びが生ずる箇所などが、若干ながら見受けられたが、そういう兆候が見られると、マエストロ・ムーティは、スッと立ち上がり、簡にして要を得た合図をもって、瞬時にアンサンブルを立て直す。
ともあれ、70歳とは到底思えないパワーと迫力である。

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ペーター・シュタインによる今回の新演出は、シェイクスピアの世界をシンプルに表現した正攻法で、オペラというよりも、戯曲としての上演にこだわったものであった。フェルゼンライトシューレの舞台の持ち味もよく活かされており、オーソドックスでありながら、切れ味のある見ごたえのある舞台であった。音楽を邪魔することがなく、ストーリーの理解を妨げるような余計なモノも出てこないにもかかわらず、なるほどと思わせる要素が随所に垣間見られるというのは、さすがである。

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なお、キャスト陣では、マクベス役のジェリコ・ルチッチとマクベス夫人役のタチアナ・ゼルジャンが、「朗唱」という基本を踏まえた上で、声を張り上げることなく、多彩な表現力をもって数々の苦悩を描き出していた点が素晴らしかった。マクダフ役のジュゼッペ・フィリアノティも、第四幕の独白とアリアを、出すぎず引っ込みすぎず、適度な存在感をもって伸びやかに歌い上げていた。

繰り返すが、今回の「マクベス」は、マエストロ・ムーティによる歴史的名演である。終演後のカーテンコールは、もちろんブラボーの嵐。でも、マエストロは、一歩下がって、他の演奏者全員を称える姿勢。これだけの名演、通常であれば、延々と続くと思われるカーテンコールも、マエストロのバイバイという合図をもってあっさりと終了。こういう立ち振る舞いが自然にできるような男性に自分もなってみたいものである。

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終演後は、感動を胸に、そのままホテルへ。購入したワインでグラスを傾けながら、就寝。ザルツブルク最後の夜は、こうして更けていった。

翌日は、シュティーゲル・ブロイ(Stiegl Brauwelt)で工場見学とランチ。その後、いったんホテルに戻り、そこから車で空港へ向かい、OS924便にてウィーンへ、そしてSN2908便に乗り継ぎブリュッセルへ。深夜0時半前に自宅に戻った。


(公演情報)

Giuseppe Verdi • Macbeth
Oper in vier Akten
Neuinszenierung
In italienischer Sprache mit deutschen und englischen Übertiteln

LEADING TEAM
Riccardo Muti, Musikalische Leitung
Peter Stein, Regie
Ferdinand Wögerbauer, Bühnenbild
Annamaria Heinreich, Kostüme
Joachim Barth, Licht
Lia Tsolaki, Choreografie
Heinz Wanitschek, Kampfszenen
Thomas Lang, Choreinstudierung

BESETZUNG
Željko Lučić, Macbeth
Tatiana Serjan, Lady Macbeth
Dmitry Belosselskiy, Banquo
Giuseppe Filianoti, Macduff
Antonio Poli, Malcolm, König Duncans Sohn
Anna Malavasi, Kammerfrau der Lady Macbeth
Gianluca Buratto, Arzt
Andrè Schuen, Diener Macbeths
Liviu Gheorghe Burz, Mörder
Ion Tibrea, Ein Herold
Michael Wilder, Erste Erscheinung
Benedikt Gurtner, Zweite Erscheinung/Fleance
Philipp Schweighofer, Dritte Erscheinung
Robert Christott, Stephan Schäfer, Volker Wahl, Drei Hexen
Wiener Philharmoniker
Mitglieder der Angelika Prokopp Sommerakademie der Wiener Philharmoniker, Bühnenmusik
Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
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[2011/08/18 21:20] | 海外視聴記(ザルツブルク) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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