ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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欧州行き(13年12月)②―サンティ指揮チューリッヒ歌劇場「ボエーム」
12月28日午前9時半すぎ、IC183にてシュトゥットガルトからチューリッヒへ。3時間の旅程である。峠を越えるため、雪化粧した牧草地も車窓から覗くことができた。

午後1時すぎ、宿泊先であるホテル・アドラーにチェックイン。勝手のわかったホテルは居心地が良い。いつものように、併設のレストラン、Swiss Chuchiでラクレットを食す。変わらず美味しいが、胃腸への負担が大きいのが珠に瑕。部屋に戻り、しばし仮眠。

午後6時半すぎ、チューリッヒ歌劇場へ。ネルロ・サンティ指揮によるプッチーニ「ラ・ボエーム」。クリスマス向けのリバイバル公演である。

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筆者の確保した座席は、いつものように平土間1列目中央。マエストロ・サンティのタクトを見るための定位置だ。

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この日のマエストロ・サンティは絶好調。第一幕前半や第二幕では、骨太かつ力強いタクトで舞台を牽引。歌手の入りに少しでも不安がよぎると、自ら歌い、言葉を発し、手綱を引き締める。82歳という年齢を微塵も感じさせない若々しいタクトには、情熱と職人魂が宿っていた。他方で、ロマンチックなアリアや重唱では、魔術師のようにタクトを動かし、緩急自在に操る。

プッチーニの楽譜は、テンポに関する指示が細かく指示されており、数学的な様相を呈している。また、インテンポを貫く場面と伸縮の大きい場面とが明確に分けられており、一筋縄にはいかない難しさがある。多くの場合、これらは不徹底のまま見過ごされるか、慣習に則った中途半端な扱いを受けるか、逆に生真面目に処理されてギクシャクするかのいずれかである。しかし、マエストロは、楽譜上の指示を完全に掌握した上で、歌として、また芝居として、一つの世界観のもとに「昇華」させることができる。筆者の目の前で言葉やフレーズが次から次へと表情豊かに花開いてゆく様子は圧巻である。また、通常であればスルーされてしまうような音符に対して、若干のアクセントを付すことで、オーケストラの響きに奥行きと陰影を施し、劇の進行上の緊張感を高めていた点も素晴らしい。歌と言葉を引き立てることに注力したプッチーニの書法の意味を実感できたことは、この日の最大の収穫であった。

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ところで、今回のマエストロの指揮で、第一に筆者が特に注目したのは、テンポや音量のバランス感覚である。速い箇所は、中庸な速度なのに、歯切れがよく、スピード感が満載だ。言葉も無理なく入るし、リズムが削がれることもない。もっさりした印象となる瀬戸際を見事に狙っている。ゆっくりな箇所は、大きく呼吸をとって緩めた直後の回復が鮮やかだ。また、管弦楽の規模が大きいプッチーニでは、歌を消さないようにすべく、音量を抑制することもあるが、マエストロは結構豪快に鳴らしていた。しかし、管弦楽の分厚い響きにオントップで歌手の声が乗っているバランスは一回も崩れなかった。これらの芸当は熟練の技であり、頭では理解できても、およそ真似できるものではない。

第二に注目したのは、マエストロの眼の動き。プッチーニほどの複雑な楽譜になると、事故を防ぐためには、歌手やオーケストラに対して細かくキューを出すことも、指揮者の重要な役割の一つとなる。マエストロが視線と左手を用いてテキパキと発するアウフタクトの的確さは、間近で観察していると、目からウロコ。どの瞬間も、ただのキューに終わらず、ニュアンスも含めたアウフタクトとして発せられているのが凄い。オーケストラの面々がタクトを注視していることと相まって、ピット内の一体感は半端なかった。

第三に注目したのは、フレーズを導く深い呼吸と、繊細な表情を司る左手のニュアンス。呼吸に関しては、マエストロは、プッチーニの旋律を空間的に捉えているようだ。歌手の息遣いを先取りした大きなブレスで、オーケストラに、そして舞台上に、エネルギーを送り込むと、柔和な膨らみがふわっと立ち昇る。そして、大きな円弧を描くタクトで宙に上げ、狙ったポイントにタクトで軽く叩き込む。ヴェルディやロッシーニとは異なるバトンテクニックを用いるのは、より複雑化したプッチーニの管弦楽の色彩感を踏まえたものであろう。他方で、静かな虹色の水面をイメージさせるような穏やかな場面では、十分な準備の時間をとった上で、壊れやすい大切なものを薄い膜の上に置くかのような仕草で、響きを解き放つ。そして、言葉のニュアンスを左手の指先で歌手に示唆する。すると、これがプッチーニらしい透明感のある淡い静寂が意味を持って現出する。この技には脱帽だ。

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音楽の構成も素晴らしかった。

第一幕は、ミミとロドルフォの二重唱に入る前までのテンポの一貫性と客観的なスタンスが清々しい。家主Benoitの登場シーンも日常の出来事の一つにすぎない。他方で、二重唱に入ってからは、台本の進行とともに、主観的な情景へと移行を始め、フレーズに与えられる緩急の揺さぶりも徐々に大きくなる。いきなり切り替わるのではなく、じわじわと。感情が高まりが音楽的に演出され、観客も役者もオーケストラも自然とクライマックスへと惹き込まれてゆくのである。そして、全てが整ったところで始まった二重唱の最終シーン「O soave fanciulla(おお、麗しい乙女よ)」では、プッチーニの卓越した管弦楽が絵巻物のように色彩鮮やかに展開。あらゆる細かい音符が一寸の滲みもなく虹色に瞬く光景は、大変印象的であった。

第二幕は、冒頭から骨太で力強い推進力に圧倒される。何が起きても全く動ずることなく、檄を飛ばしながら確かな歩みで突進。マエストロに漲る気合いが舞台のテンションを高める。この全体設計により、クリスマス・イヴの広場の空気が明確に打ち出すとともに、パルピニョールの絡みを客観的に処理し、運動会のようになりやすい第二幕中盤のPiu mosso(母親たちが子供を叱る場面)もクールにまとめることで、ストーリーの流れの中に変な凹凸が出来ることを防ぐ。他方、登場人物らの語りには、ブレスを大きくとって、プッチーニの指示通りの揺らぎを与え、スポットライトが当たったかのような演奏効果をさりげなく演出する。ムゼッタのワルツ以下も、マエストロは明快な考えに基づいてテンポを指示。プッチーニが記した厳格なテンポ設定通りに歌手が歌えるよう、細かくアウフタクトを発して牽引する。この強い意思が実り、繰り返されるワルツのメロディに一貫性が宿ることとなった。そして、遠くから聞こえてくるバンダによる行進も、血の吹き出すようなスリリングさで迫ってきて、緊迫感をさらに高める。熱く壮大なフィナーレは、最高潮に達し、幕切れとなった。

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第三幕では、ミミとマルチェロの心理的な違いを踏まえた表情の微妙な使い分けが秀逸であったことが思い出される。ロドルフォが加わると、マエストロは、台詞に合わせて、縦横無尽にタクトを操り、舞台に、そしてオーケストラに、次から次へと魔法をかけてゆく。その仕掛けの内訳は、もはや説明不可能だ。各場面で求められる悲嘆と哀しみを表現するのに必要十分な緩急の変化、しかもやりすぎないバランス感覚。多くの場合、瞬間的な見せ場の連続に終わってしまう第三幕を、芝居として仕立て上げたマエストロは凄い。また、随所に現れる淡い響きの数々も、透明に澄み渡っていて、溢れ出る感情とともに、覚醒の域に到達させられた。

第四幕冒頭は、第一幕冒頭と同じスピード感だが、若者たちの傷ついた心に迫るべく、適度に毒づいているのが新鮮さを醸し出す。合間に挿入されるガヴォットやカドリールは、あえて異質な要素としてクールに際立たせることで、その後の進行への布石を打つ。他方で、Vivo(ムゼッタ登場直前)は、楽譜通りに音量を守り、サーっと流すことで、突出した印象を与えないように配慮。何とか平常心を保とうとするロドルフォとマルチェロの心の矛盾が限界に達しそうになったことを暗示したところで、ムゼッタ登場を意味するヴァイオリンによる急激な上昇・下降音型にかき乱され、ミミの入室の場面に入る。ここから先は、コルリーネによる諭すような静かな語りを挟んで、ミミの透き通った心を映し出すような優しいニュアンスと清らかな響きに照準が合わせられてゆく。ミミの最期(lunga pausa)、息を引き取るのを見届ける間合いも巧い。幕切れのtutta forzaは、気持ちの高揚を完璧なバランスとメリハリで格調高く締めくくる。

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なお、この日出演した歌手陣は、一時期のチューリッヒ歌劇場に見られた豪華歌手のラインナップではなく、欧州で堅実に活躍を続ける若手を中心に据えたキャスティング。配役全体としてのバランスは良かった。ミミ役のエカテリーナ・シェルバチェンコも、ロドルフォ役のアルノルト・ルトコウスキーも、マエストロ・サンティのタクトに従って手堅く歌えており、ダイナミクスや感情表現の幅も合格点が付く仕上がりであったが、歌で泣かすにはあと一歩足りなかった。他方、ムゼッタ役のイヴァナ・ルスコとマルチェロ役のガブリエレ・ヴィヴィアーニは、役回りを踏まえつつ、舞台の流れにも良いアクセントを加えていて、好演であった。

フィリッペ・シレイルの演出は、台本の設定に沿った舞台で、オーソドックスかつ美しい舞台。安心して観られるプロダクションである。

カーテンコールは、いつものように温かい雰囲気に包まれ、マエストロ・サンティに対する絶大な拍手とともに、割とあっさりと終了。

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(公演情報)

LA BOHÈME
Giocomo Puccini
28 Dec 2013, 19:00

Conductor: Nello Santi
Producer: Philippe Sireuil

Mimì: Ekaterina Sherbachenko
Musetta: Ivana Rusko
Rodolfo: Arnold Rutkowski
Marcello: Gabriele Viviani
Schaunard: Yuriy Tsiple
Colline: Scott Conner
Benoît: Tomasz Slawinski
Alcindoro: Valeriy Murga

Orchestra: Philharmonia Zürich
Choir: Chor der Oper Zürich
Zusatzchor der Oper Zürich
Kinderchor des OHZ
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[2013/12/30 21:38] | 海外視聴記(チューリッヒ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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