ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ウィーンリングアンサンブル2014
1月6日午後7時前、サントリーホールへ。ウィーン・リング・アンサンブルによる24回目の来日公演。2014年最初のコンサートに相応しいニューイヤーコンサートである。

2013年3月に67歳で逝去したヴォルフガング・シュルツのポジションは、ウィーン・フィルのソロ・フルート奏者であるカール=ハインツ・シュッツに受け継がれた。その前年に加わったダニエル・フロシャウアー、ロベルト・ナジ、ヴォルフガング・トムベックの3名も合わせると、実に9名中4名が入れ替わったことになる。無邪気に駆け回るシュッツの軽快な音色。両隣の重鎮らと呼吸の合ったアンサンブルで存在感を示したフロシャウアー。安定感抜群かつ伸びやかな音色で魅了するナジ。全体の響きの色合いを舞台照明のように地味にコントロールするトムベック。今年の来日公演では、そんな新たに加わったメンバーが巻き起こした「風」が、ウィーン・リング・アンサンブルの演奏スタイルに対して、大変面白いかたちで作用し、丁々発止の刺激的な演奏会となった。

筆者が確保した座席は、1階席4列目上手側端。ライナー・キュッヒル、ダニエル・フロシャウアー、ハインリヒ・コルまでは十分に視界に入るが、その他のメンバーは、ロベルト・ナジとミヒャエル・ブラデラーの両名の背中越しに覗くような格好になる。そのため、各楽器の音がバランスよく分離して聴こえることに加え、メンバー間のアイコンタクトや駆け引きを間近に観察できる。ペーター・シュミードルの表情を十分に拝めなかったのは心残りだが、逆に、日頃はあまり陽の当たらない中低声パート(セカンド・ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ホルン)の絶妙な間合いと職人的な技巧の数々には、ため息が出てしまった。

ところで、ウィーン・リング・アンサンブルのメンバーと、元日の夜にミュンヘンを発つ飛行機で乗り合わせたことは、既にご報告済みだが、驚いたことに、彼らは日本に到着した翌日夜のNHKニューイヤーオペラコンサートに特別ゲスト出演するとともに、1月4日には名古屋で、また1月5日には埼玉で、それぞれ公演を行っている。そのタフさには畏れ入るばかりであるが、さすがの彼らにとっても、今回の旅程は、かなりの過密スケジュールであったと思われ、この日の公演の前半プログラムでは、表情から疲労の色が窺われた。

プログラム前半は、シュトラウス一家の5作品。

オペレッタ「ジプシー男爵」序曲とワルツ「天体の音楽」は、オーケストラによる演奏に馴染んでいる耳には、9名のアンサンブルでは物足りなさも感じる。特に、旋律を一手に任されたファースト・ヴァイオリンは、名手キュッヒルをしても、そのボリューム感を表現するのは難しい。幕開きの曲ということもあり、旋律の歌い方にやや力みや硬さがあるようにも受け取れた。とはいっても、ウィーン・フィルの腕利きの主要メンバーたちによるアンサンブルの凄味は、随所に煌めく。響きの転換の鮮やかさ、重なり合う楽器の響きのふくよかさは、ウィーン・フィルによる演奏を凌ぐほどに純度が高い。少なくとも主要メンバーの間では、ウィーンの流儀が中堅や若手へと継承されていることを再確認することができた。

他方、「アンネン・ポルカ」は、作品構成がアンサンブルに適しているため、演奏に無理がない。一つひとつ丁寧にカッチリとニュアンスを付けるキュッヒルの表情は、真剣そのもので、作品の名称から読み取れる女性的なニュアンスからは程遠い。しかし、旋律の魅力は最大限かつ完璧に引き出されており、聴きごたえがあった。

続くワルツ「オーストリアの村つばめ」では、ペーター・シュミードルとヨハン・ヒントラーがそれぞれ客席から演奏をして登場するという演出で、客席を驚かせる。また、シュミードルは、鳥のさえずりを随所にちりばめ、真顔のキュッヒルと対峙するという一幕まであった。結果、会場の空気が和み、音楽自体に伸びやかさが生まれてきたようだ。活き活きとしたワルツの節回しと優雅な拍子感が実に心地よかった。

プログラム前半の締め括りは、ポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」。あのカルロス・クライバー盤を上回るほどの超高速で、度胆を抜かれる。猛烈な勢いで煽るシュッツに、キュッヒルとコルがムキになって挑み、ナジとブラデラーが乗り遅れまいと喰らいつく。それでも動じないトムベック。外面的には綺麗にまとまって聴こえるのだが、テーブルの下ではボールの蹴り合いが繰り広げられていた。見ているだけで吹き出してしまいそうな光景であった。

休憩を挟み、演奏に落ち着きと柔軟さが加わった。

プログラム後半一曲目は、オペレッタ「くるまば草」序曲。キュッヒルの奏でるワルツの旋律に、伸びやかさと艶やかさが戻る。この日のベストともいえる充実の仕上がりであった。二曲目のプッチーニのオペラ・メドレーは、「ボエーム」の各旋律を主軸に据えつつ、他のオペラの名旋律をいくつか挟み込むという構成。ウィーン流のプッチーニは、イントネーションが独特ではあるが、響きの造り方が一貫していて、全くブレない。そして、美しい。オペラの各場面が鮮明に映像として浮かび上がっているかのような錯覚に陥ったのには、驚かされた。オーケストラ・ピットから湧き上がるような高揚感とともに、クライマックスで紅潮したコンマス・キュッヒルの一面も窺われ、印象深い演奏となった。

三曲目のワルツ「うわごと」も、冒頭のトレモロから響きの立ち方が尋常ではなかった。歌曲的な旋律の繊細さは、ニュアンスに富む。芳醇な響きの拡がりに、素直に身をゆだねることができた。続くワルツ「モーツァルト党」では、モーツァルトらしい青白く透明な響きが新鮮。ワルツのリズムに基づき改作されているのに、モーツァルトそのものが前面に現れてくるのが不思議だ。モーツァルトに対する彼らの本気モードを垣間見られた。

プログラム後半の最後に演奏されたのは、エジプト行進曲と、オペレッタ「メリー・ウィドウ」から「女・女・女のマーチ」。この2曲に関しては、仕込んだネタが炸裂。実はこれが一番やりたかったのではないかと思われるドラマー・キュッヒルによる大太鼓とシンバルに、「おんなー」という掛け声で会場を笑いの渦に導いたシュミードルの一発芸。どんなにふざけても、演奏自体が完璧なので、超一流の芸として、ネタが鮮やかに決まる。

アンコールは、ツィーラーのポルカ「気も晴れ晴れと」、J.シュトラウスIIのワルツ「美しく青きドナウ」、J.シュトラウスIのラデツキー行進曲。「美しく青きドナウ」は、泣く子も黙る神々しい演奏で、思わず襟を正したくなる。この作品を聴いて感動したのは、これが初めてだ。ラデツキー行進曲では、シュミードルが会場の手拍子をコントロールし、朗らかな雰囲気で演奏会はお開きに。

繰り返しになるが、この演奏会は、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートよりも、はるかに完成度が高いし、内容的に充実している。本当に貴重な機会だ。この日は、某社の招待客が百名近く動員されていた模様。結果として、空席は昨年よりも少なかったが、演奏会の価値が理解できない層が多数来場したことにより、会場の空気が乱れていたのが口惜しかった。もう少し小さな会場で、これらの作品と真剣に向き合える聴衆だけを集めて、演奏会が開催されることを強く望む。


(公演情報)

ウィーン・リング・アンサンブル 日本ツアー 2014
1月6日(月)19:00 サントリーホール

ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)
ダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン)
ハインリヒ・コル(ヴィオラ)
ロベルト・ナジ(チェロ)
ミヒャエル・ブラデラー(コントラバス)
カール=ハインツ・シュッツ(フルート)
ペーター・シュミードル(クラリネット)
ヨハン・ヒントラー(クラリネット)
ヴォルフガング・トムベック(ホルン)

J.シュトラウス II : オペレッタ「ジプシー男爵」序曲
ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「天体の音楽」
J.シュトラウス II : アンネン・ポルカ
ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「オーストリアの村つばめ」
J.シュトラウス II : ポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」
J.シュトラウス II : オペレッタ「くるまば草」序曲
プッチーニ : オペラ・メドレー
(プッチーニ没後90年記念/「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」などから)
ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「うわごと」
ランナー : ワルツ「モーツァルト党」
J.シュトラウス II : エジプト行進曲
レハール : オペレッタ「メリー・ウィドウ」から「女・女・女のマーチ」
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[2014/01/07 17:30] | 国内視聴記 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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