ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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ハーディング指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管
10月4日午後8時前、パレ・デ・ボザールへ。ダニエル・ハーディング指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団)の演奏会である。インディアンサマー明けの曇り空で、気温も下がり、ようやくブリュッセルらしい天気が戻ってきた。

この日の座席は、舞台横の1列目。穴ぐらのような狭い空間で、周囲を厚い壁に囲まれている。不幸中の幸い、筆者の座席は列の端であり、後列に座席がなかったことから、かぶりつくようにして身を乗り出し、穴ぐらからひょっこりと顔を出すような態勢で、なんとか音響を確保した。おそらく客席からは奇妙に見えただろうが、背に腹は代えられない。

20111004-01

さて、プログラムの前半は、ラン・ランをソリストに迎えて、リスト/ピアノ協奏曲第1番と、ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ。筆者の座席からは、ラン・ランの背中しか見ることができなかったため、妙な顔芸に惑わされることなく、純粋に音色を鑑賞することができた。

ラン・ランの演奏をライブで鑑賞するのは今回が初めてだったが、彼の演奏は、実は、アジア人によく見られる優等生的スタイルであり、あの独特の演技と顔芸から受ける印象とは正反対なものであった。
もの凄い形相や格好をしながらも、指先だけは定位置に置かれていて、特に悩みもなくパラパラと弾き進められる。ピアノのタッチはクリアで、全般に小奇麗にまとめられているが、この日聴いた限りでは、中音域から高音域の音色が硬質で、わずかにトゲのある感じがする。そして何よりも、深みに欠け、響きも薄い。
高度な技術を兼ね備えていることは分かるが、リストにしても、ショパンにしても、詩人が語りかけるような、そんな香りは皆無であった。座席の違いという点を考慮したとしても、筆者が先月聴いたラファウ・ブレハッチによる演奏とは、音色の多様さ、そして音楽的な掘下げという点で、歴然とした差があったといわざるを得ない。
テレビでも放映済だが、ダニエル・バレンボイムがラン・ランに対して行ったレッスンにおいて、音色の探求という点を丁寧に説明していた様子が思い出された。

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プログラムの後半は、ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」。これは名演であった。

ロイヤル・コンセルトヘボウ管には、欧州の旧きよき時代に愉しめたであろう伝統的な響きの片鱗が、今もなお生き続けているように思われる。ベルリンフィルのように、ソリストの集合体のような感じではないし、他の西ドイツ系オーケストラに見られるような、恰幅の良い豪快な鳴りっぷりというわけでもない。落ち着きを払った重厚さが脈々と流れており、柔らかさとしなやかさを兼ね備えた格調の高いサウンドである。

特に驚かされたのは、その合奏能力の高さ。それも単に上手というレベルを超えていた。

第一に特筆すべきは、舞台上にいる奏者全員が、今その瞬間に生み出されつつある音楽の流れを、完全に共有できていたことである。
然るべきタイミングに、然るべきサウンドが鳴るというのは、当たり前のようで、実は、全く当たり前ではない。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管の場合、打点が出されてから実際に音が出るまでの時間が特に長いように感じられたが、彼らにとっては、指揮者のアウフタクトは、発音のためのアウフタクトではなく、音楽の方向性を確認するためのアウフタクトであり、演奏自体は、あくまでも彼ら自身のテンポ感に則って進行する。
舞台上には、弦楽器の先頭プルトを中心として、前方プルトから後方プルトへ、また木管楽器から金管楽器、そして打楽器へと、演奏者達のセンサーがシステマティカルに張り巡らされており、その網の目のようなネットワークに微塵の隙もない。また、個人プレイに陥る場面は皆無で、オーケストラという一つの集団としての演奏スタイルが常に徹底されていた。にもかかわらず、その演奏は、決して事務的だったり機械的だったりすることはなく、個々の奏者らは、非常に伸び伸びと楽器を奏でていた。

第二に特筆すべきは、各楽器の発音のタイミングが計算し尽くされていて、完璧にコントロールされていたことである。
これは、この日の座席位置だったからこそ認識できた点ではあるが、例えば、一般に遅れて聞こえることが多いとされる低弦セクション、木管後列(クラリネット・ファゴット)、そしてホルンセクションは、場面に応じて、紙一枚分くらい、あるいは半拍近くも発音のタイミングを早めるという操作を施し、来るべきハーモニーに向けた準備を行っていた。このタイミングで息を吹き込めば、あるいは弓を動かし始めれば、この箇所については、丁度よいバランスで鳴るはずだ、というのが感覚として身に付いているのだろう。
ティンパニ奏者の叩くタイミングのセンスに驚かされたことはたびたびあった(もちろん、この日のティンパニ奏者も、地味によい仕事をしていた。)が、弦楽器や管楽器においてこの点を実感させられたのは、今回が初めてであった。そのあまりの的確さと素晴らしさに、筆者の心の中では、ガッテンの連続であった。

第三に特筆すべきは、真摯で真面目な演奏姿勢である。
エロイカに関しては、ハーディングの指揮で、9月末にアムステルダムで3回、そして10月に入ってからもルクセンブルクとパリで1回ずつ演奏を重ねており、いまさら何を準備するのだという感じだが、休憩時間中も、早いうちから複数の奏者が舞台上に出てきて楽譜をさらっており、セクション内で奏法の確認なども行われていた。
演奏中も、指揮者に対して反発したり挑戦的な態度を示したりすることもない。指揮者の示唆を最大限に善解し、自信と誇りを持って、自分達の音楽として演奏をしている。彼らのプロ意識の高さに、深い感銘を受けた。

ハーディングは、マーラー・チェンバー・オーケストラを振っているときは、イケイケのガキ大将風の指揮ぶりであったのに、ロイヤル・コンセルトヘボウ管を前にすると、謙虚な若者風な体に様変わりしていたのが面白い。
それでも、音楽的な掘下げは十分に深かった。フレーズの運び、テンポや音量バランスのコントロールは、良く考え抜かれていて、非常に秀逸であり、ベーレンライター版を採用しつつも、譜面の表面的な処理にとどまらず、伸びやかでありながらも溌剌とした「音楽」を導き出していた。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管のフィルターを通すと、攻撃的なアクセントも、直截的ではなく、ベールを一枚被ったような音色で奏でられるので、説得力が増す。ハーディングの持ち味に、コンセルトヘボウ流の気品が纏うことで、素晴らしい相乗効果が生まれていたと感じた。

備忘のために、楽章別に若干感想を記すと、第一楽章に関しては、次々と移り変わる音色の変化が最良のバランスで描き分けられていたことが特に印象的であった。あわせて、ピアノやフォルテは、音量ではなく、音色で表現するものだということの本当の意味が感じ取れた。展開部は、全体の見通しが良く、山場に至っても、音が荒れたり破綻したりすることはない。280小節の切り返しは、テンポの運びが実に巧みであった。コーダでは、ハーディングのテンションが上がり、たまに打点が乱れることもあったが、オーケストラはこれに惑わされず、ハーディングの想いだけをしっかりと汲み取って、最適なタイミングで重厚な和音を鳴らしていた。

第二楽章では、冒頭の低弦を聴いて、その響きの深さに涙腺が緩みそうになる。オーボエの旋律も美しいが、その背後に現れる弦楽器の合いの手も非常に含蓄のある響きで素晴らしい。主要主題が戻ってくる中間部の音楽的な充実度の高さも、まさに理想系。

第三楽章は、客席がなかなか静まらない中で、やむを得ずの見切り発車で開始されたため、冒頭の数小節において、舞台上に若干の時差が出てしまう。実にもったいないと思うが、ここはブリュッセルなので、諦めるしかない。中間部のホルンは、目が飛び出るくらいに巧かった。

第四楽章はアタッカで開始。安定した進行である。211小節からのコントラバスが、セクションとして狙いすぎていて、ツボだった。あれだけ身体を張って弾いているのに、音が全く暴れないのが不思議。349小節から始まるポコ・アンダンテの、優しく、美しく、そしてどこか儚い響きは、今でも耳に残っている。431小節からのプレストで、普通なら多少ごまかしてしまう中高弦の刻みも、全員が全力でゴシゴシと弾いていて、迫力満点。ここでも音は全く荒れていなかった。

なお、あらゆるパートが技術的に完璧であったことは、言うまでもない。

筆者がこれまでに実演で接した数々のエロイカの中でも、この日の演奏が文句なしのトップ。満席の客席も、大いに沸いた。アンコールとして、「プロメテウスの創造物」序曲が演奏され、午後10時20分に終演。

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(公演情報)

Tuesday 04.10.2011 20:00
Centre for Fine Arts / Henry Le Boeuf Hall

Daniel Harding conductor
Lang Lang piano
Koninklijk Concertgebouworkest

Franz Liszt, Concerto for piano and orchestra no. 1, S. 124
Frédéric Chopin, Andante spianato et Grande polonaise brillante, op. 22
Ludwig van Beethoven, Symphony no. 3, op. 55, "Eroica"
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[2011/10/06 06:28] | 海外視聴記(ブリュッセル) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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