ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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パリ行き(11年10月)①―チョン指揮フランス国立放送フィル
10月7日午後5時前にオフィスを出て、ブリュッセル南駅へ。午後5時半すぎに出発するタリスでパリに向かう。列車に遅れが生ずればアウトというギリギリのスケジュールだったが、特に問題は生じず、午後7時半すぎにサル・プレイエルに到着した。

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この日の座席は、平土間のF列の上手側。サイドに伸びるバルコニー席が右手上方に迫っており、右側からの響きが若干減殺されるように感じた。また、この場所だと、舞台上の音は、筆者の頭上を飛び越えて、平土間後列で着地していると思われる。舞台からの距離が近いにも関わらず、弦楽器の響きはダイレクトには届いてこず、舞台の中央から後方に陣取る管楽器に至っては団子状になって聴こえてくる。いまいちなポジションであった。

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さて、この日は、チョン・ミョンフン指揮フランス国立放送フィルの演奏会。ベルリオーズ/劇的交響曲「ロミオとジュリエット」(抜粋)、メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」、ロッシーニ/「ウィリアムテル」序曲というなかなか凝ったプログラムだ。

プログラムの前半は、ベルリオーズ/劇的交響曲「ロミオとジュリエット」から第2部、第3部及び第4部。

ロミオの孤独な姿を描写する第2部冒頭は、動きを伴わない弦楽器によるシンプルな和声進行ゆえ、逆に綻びが生じやすい場面だが、チョン・ミョンフンは、場面を完全に掌握しており、一瞬の隙も感じさせない。高度の緊張感と完璧なバランスにより、静寂の美を浮かび上がらせていた。冒頭の音色を聴いただけでも、この日の演奏に対する期待は高まる。
遠くから舞踏会のざわめきが聴こえてくる場面における遠近感は、自分がコンサートホールにいることを忘れさせるほどにリアルであり、また、舞踏会の場面における艶やかさとしなやかさを兼ね備えたキレのあるダンスは、目が覚めるほどに鮮やかだった。いわゆる貴族的な社交の場ではなく、知性と気品に溢れる現代版エリート達の集まりの場を感じさせた。

澄み切った夜を描写する第3部冒頭も、音楽的に非常に純度が高い。ワーグナーが「今世紀における最も美しいフレーズ」と称した愛の情景の旋律は、ソフトな語り口で、抑制が効いているが、どこかにラテン系の血が騒ぎ、聴く者の心に迫る。言語のニュアンスにも通ずるところがあるが、彼らの醸し出す音色は、押し付けたり、力技になったりすることはなく、あくまでもソフトで色彩的。ごく稀にポルタメントを忍び込ませたりするなど、エスプリも効いている。イントネーションのツボが、拍頭よりも若干後ろに置かれるのも、興味深い。チョン・ミョンフンの持ち味である構成力と歌心との相乗効果により、聴き応えのある仕上がりであった。

愛の妖精の女王マブを描く第4部は、派手ではないものの、煌くような精妙な色彩感が印象的だ。フランス系のオーケストラは、ドイツ系やイギリス系のオーケストラのように拍子単位でアンサンブルを構築するのではなく、口調やニュアンスを軸に合わせる傾向が強い。上昇音型における湧き上がるような色彩感は、このオーケストラならではといえる。スケルツォという速いテンポ感で、細かい動きがアクロバティックに組み合わさるため、合奏の難易度は高いが、意図して合わせようはしていないのに、実は、細部に至るまで「ほぼ」完全に揃っているという現実に驚かされる。このさりげないナチュラルさが、いかにもパリらしい。

こういう色彩感に溢れるオペラ的な作品においては、チョン・ミョンフンは、屈指のマエストロである。スコアに対する深い洞察と細部における徹底した磨き上げ、息の長いフレーズが相互に織り成すカンタービレの連鎖、最初から最後まで一瞬の隙も感じさせない構成の巧みさ、そして、ここぞという場面での追い込みによる劇的な高揚、これだけの表現力を兼ね備えた指揮者は他には見当たらない。天才的なセンスに甘んずることなく、日々の勉強を怠らない大変な努力家であることがよく分かる。筆者は、昨年秋に、ヴェネチアのフェニーチェ歌劇場において、彼の指揮する「リゴレット」のプレミエを鑑賞したが、そのときの興奮が改めて思い出された。思えば、この「リゴレット」こそが、筆者のオペラ熱に再び火を付けたのだった。ドレスデン・シュターツカペレの首席客演指揮者への就任により、どのような進化を遂げていくのだろうか。まさに目が離せないマエストロの一人だ。

さて、プログラムの後半は、メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」。

そこには、より自然体のチョン・ミョンフンとフランス国立放送フィルがいた。この作品は、非常にストイックに書かれているため、実際に演奏しようとすると、頭に血が上る瞬間の連続で、あたかも障害物競走のようになってしまうことが多い。しかし、彼らの演奏は、そんなことは微塵も感じさせない。暑苦しさや豪快さとは程遠く、全体を通じ、風通しのよい爽やかな音楽であった。「足し算」ではなく、「引き算」に軸足を置いた組立てであったことが、バランスの良さを導く決め手であったのかもしれない。

第一楽章は、冒頭からとても流れがよい。提示部の細かいニュアンスも完璧。とりわけ、提示部の繰り返しの直前に置かれたブリッジの部分の仕上がりの秀逸さは、特筆もの。この部分は、地味だが、割と破綻する確率の高い難所なのだ。展開部の構成も見事なもので、見通しがとても良い。225小節から始まる断片的な旋律を硬めに創り込むことで、メリハリの効いた音楽に仕上がっていた。

第二楽章は、若干落ち着いた余裕のあるテンポ設定。木管楽器のオブリガートをバックに、若干控え目な口調で奏でられたヴァイオリンの旋律の繊細さに、目頭が熱くなる。低弦を中心に、淡々と進む足取りが、重すぎず、軽すぎず、実に適度な趣きを醸し出していた。

第三楽章には、スコア上には、感傷的な音色や荘厳な響きに通ずる要素が散りばめられているのだが、彼らは、それらをあえて避け、楽観的で開放的な音楽に徹する。トリオのヴァイオリンの合いの手が非常に冴えた響きでホルンとファゴットの旋律に呼応していた。

そして、第四楽章。速い。凄い。圧巻。チョン・ミョンフンらしいクライマックスの創り方だ。場所によって管楽器が幾分転びそうになるところもあったが、音楽としての筋は通っている。このテンポのもとでも音が荒れないのは、さすがだ。あっという間に最終楽章が過ぎ去った。

曲全体を通じて、起承転結のはっきりした設計で、説得力があった。こうして全楽章を通して聴いてみると、各楽章の意図がより明快に浮かび上がる。内容の濃い良い演奏であった。

そして、プログラムの最後を飾ったのは、ロッシーニ/「ウィリアムテル」序曲。機が熟したとは、まさにこういうことをいうのだろう。冒頭のチェロのカンタービレがとても野生的で情熱的。第2部のトゥッティの迫力も十分。第3部のコールアングレとフルートの調べも華やかで申し分ない。こういうアリア的な箇所におけるチョン・ミョンフンのタクトは、演奏者から実に良い歌を引き出す。有名な第4部の行進も、チョン・ミョンフンらしいテンポ捌きで、幕切れに向かって一気に突き進む。前の二曲と異なり、オーケストラの勢いを前面に出した演奏は、この日のプログラムの締めくくりとしては、大変効果的であった。

チョン・ミョンフンとフランス国立放送フィル。このコンビの相性の良さは、折り紙つきだ。チョン・ミョンフンは、他のオーケストラに客演した際には、要所要所で力みが入ることがあるが、フランス国立放送フィルを前にしたその指揮ぶりは、非常に自然体。指揮者とオーケストラという関係ではなく、お互いに相手を仲間として認識していることがよく伝わってくる。
この日の客層も素晴らしかった。楽章間の咳やざわつきの多さは、フランス人ゆえ、やむを得ないが、音楽が始まると、場内はシーンと静まり返り、全員が演奏に集中していた。演奏後の反応も、とても素直で、ストレートなもの。
金曜日の夕方にブラッセルから移動するという一か八かのスケジュールではあったが、無理をして駆けつけるだけの価値のある貴重な体験をすることができた。

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終演後は、宿泊先であるエトワール・パーク・ホテルにチェックインの後、近くのワインバー、L'Ecluse Carnotへ。鵞鳥と鴨の盛り合わせをアテに、グラスワインを数杯。日本語メニューもあり、外国人に対しても非常に親切だ。料理の味も上々で、使い勝手が良い。値段的には、銀座の半額、ブラッセルの倍といったところか。いい気分でホテルに戻り、就寝。

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(公演情報)

Orchestre Philharmonique de Radio France - Myung-Whun Chung
vendredi 07/10 2011 20:00

Orchestre Philharmonique de Radio France
Myung-Whun Chung : direction
Svetlin Roussev : violon

Programme
Hector Berlioz / Roméo et Juliette (extraits symphoniques)
Entracte
Felix Mendelssohn / Symphonie n° 4 "Italienne"
Gioacchino Rossini / Guillaume Tell: Ouverture
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[2011/10/09 09:24] | 海外視聴記(パリ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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