ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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リヨン行き(11年10月)①―大野指揮リヨン国立歌劇場管弦楽団
10月15日朝、SN3587便にてリヨンへ。飛行機の出発は午前9時50分なので、ゆっくりできるかと思いきや、この日は、工事の影響で空港行きの列車に大幅な遅延が生ずるとの情報を前日にネットで入手したことから、移動手段をバスに切り替えざるを得なくなり、午前7時には家を出なければならなかった。

正午ころ、リヨン市内に到着。この日の宿泊は、イビス・リヨン・パール・デューレ・アール。世界中でチェーン展開をしているIbis系列のホテルである。設備は簡素だが、部屋も明るく綺麗で、フロントの対応も良い。最上階の部屋からは、フルヴィエールの丘に沈む夕日も拝むことができ、居心地は上々であった。

さて、チェックインの後、事前にチェックしてあったレストラン、le bec & Takaに向かう。しかし、到着してみると、店名が変わっていて、中の様子も違う。なんと1週間前にリニューアルオープンしたばかりだとのこと。かつての2つ星レストランの面影はなく、東京にもよくありがちなカフェレストランに成り下がっていた。味は言わずもがな。大ハズレ。

早々に引き上げ、旧市街やフルヴィエールの丘などを観光し、ホテルに戻り、しばし休憩。

そして、午後7時半頃、気を取り直して、オペラ座へ。大野和士指揮リヨン国立歌劇場管弦楽団による演奏会だ。会場内には、リヨン在住の日本人が多数詰め掛けており、リヨン日本人会の組織力にも驚かされた。

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この日の座席は、Parterre H列の下手側。舞台上は、現在上演中のショスタコーヴィチ「鼻」のセットのままで、逆にそれが独特の雰囲気を醸し出していた。会場がオペラハウスであり、適切な反響板が存在しないため、音響的にはデッド。しかも、筆者の座席は、平土間前方よりであったため、管楽器の音が遠く聞こえる。それゆえ、上層階であれば、また違った印象となるであろう。ともあれ、音の分離は比較的良好で、スタジオで聴いているかのように細部まで克明に聞こえ、また弦楽器の音圧も十分に感じられたので、全体としてみれば悪くないポジションだったといえる。

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プログラムの前半は、プロコフィエフの交響的絵画「夢」と、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。どちらも、ショスタコーヴィチが交響曲第1番を作曲する少し前の時期に作曲・初演されており、青年ショスタコーヴィチの眼には、最先端の音楽として映っていたであろう作品といえる。

さて、一曲目のプロコフィエフの交響的絵画「夢」だが、プログラムの冒頭ということもあり、響きのまとまりという観点からは、いま一歩な仕上がりであった。
マエストロは、丁寧な足取りで、手堅くアンサンブルをまとめつつ、後半に控える山場に向け、淡々と音楽を進めていく。そして、周到な準備の下で訪れたクライマックスでは、それまでは堅い表情であったオーケストラから豊麗な音楽が湧き上がった。このあたりの運び方は、さすがである。
曲全体を通じて、歩調が終始一貫していたため、緊張感のある音楽創りになっていたと思われる。

二曲目は、リヨン国立歌劇場管弦楽団の首席ソロ・コンサートマスター、カジミェシュ・オレホフスキをソリストに迎えて、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。
この曲は、技術的にも、アンサンブル的にも、極めて難易度が高い作品である。3管編成で、チェレスタ、ピアノ、そして2台のハープまで要するが、作曲技法としては、極めて室内楽的と思われ、様々なパートが複雑に絡み合いながら、音楽が進行する。それゆえ、バランスや統一感を失わずに演奏しきることは、容易なことではないが、身内で固めた布陣ゆえに、指揮者、独奏、オーケストラの三者の呼吸はぴったり。マエストロの的確なバトン捌きにより、楽器の噛み合わせが見事に浮かび上がっていた。また、オレホフスキの持ち味である艶のある歌回しにより、独奏ヴァイオリンに与えられた官能的な旋律が伸びやかに奏でられていたのも印象的であった。

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プログラムの後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第1番。ショスタコーヴィチというと、イメージ的には、荒々しさや重苦しさが先行するが、この作品は、ショスタコーヴィチの19歳のときの作品。中後期の作品に通ずる雰囲気も垣間見られるが、全体としては、若々しく、そして溌剌とした音楽だ。

この日の演奏は、彼らが現在上演中の「鼻」を通じて会得したと思われる精緻な感覚が存分に発揮された演奏で、いわゆるショスタコーヴィチ的な演奏とは一線を画す名演であった。

第一楽章は、キレのあるリズムが印象的。場面によって、リズムの切れ味が絶妙にコントロールされていて、軽快な響きから、やや荒々しい日々イまで、グラデーションのように変化する。音楽が盛り上がるのに合わせて、微妙にテンポを引き締め、高い緊張感を演出するマエストロのバトンテクニックには、驚かされる。また、途中に現れる伸びやかなカンタービレも見事。厳格なテンポからしばし開放されたオーケストラからは、巨大なうねりが生じた。

第二楽章も、スピード感のある展開。ピリッとした雰囲気の中、コーダに向けて一気に駆け抜けた。粗が生じないところが素晴らしい。

そして白眉は、第三楽章。オーボエの哀愁に満ちた旋律に始まる緩序楽章は、若々しくもあり、また中後期のショスタコーヴィチの深遠な世界をも予感させる。各々の楽器がよく鳴っていて、歌心も深く、実に内容の詰まったカンタービレであった。静まり返った場内は、深い感動に包まれた。

そして、アタッカで開始される最終楽章では、重い静寂に包まれながら進行する前半部分の響きの透明感や、クライマックスに向けての劇的な盛り上がりに、心が惹き込まれる。思えば、あっという間に、最後の壮大なトゥッティに到達していた。

交響曲第1番の出来には、マエストロ自身も非常に満足したようで、オーケストラのメンバーに向け、充実感に満ちた笑顔で、小さなガッツポーズを送っていたのが、とても印象的であった。

万雷の拍手に応えて演奏されたアンコールは、ショスタコーヴィチのジャズ組曲第2番から「第2ワルツ」。哀愁に満ちた豊潤な音色が舞台上から溢れ出した。会場内は音楽の悦びに包まれ、図らずも涙が出そうになる。

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リヨン国立歌劇場管弦楽団は、名手も多いが、個々の技術水準の平均を採ると、他の名門オーケストラと肩を並べるレベルとはいえない。しかし、フランスのオーケストラらしい華やかな色彩感に加え、機動的で、緻密なアンサンブルを構成する力を兼ね備えており、ラテン系の歌心も兼ね備えている。しかも、活気とやる気に満ち溢れている。この日は、弦楽器の人数が12-10-8-6-5という小さめの編成であったが、その特徴が存分に発揮されており、小回りの効いたアンサンブルから、豊潤な響きまで、幅の広い表現を楽しむことができた。

そして、何といっても、この日の立役者は、マエストロ大野である。

今年4月の「ルイザ・ミラー」でも感じたが、不思議なことに、彼が指揮台に立った時点で、これから演奏される音楽のビジョンが明快に浮かび上がる。そのビジョンとは、想像を絶するほどの研究に支えられた客観的な設計図であり、あらゆるパーツの位置付けが完璧に計算されている。

しかし、実際の演奏は、分析結果の披露とは全く異なる。むしろ、そういった背景の存在は、表面的には全く感じさせない。彼が、アウフタクト(しかも、客席からは気付かれないようにしつつも、オーケストラのメンバーに対しては、通常よりもさらに前から周到に予感させているところが凄い。多くの場合、アウフタクトは、直前になってようやく示されるものだ。)とともに、設計図上で事前に準備済みの引き出しを開けると、待ってましたとばかりにオーケストラのメンバーがそこに飛び込み、十分落ち着きを保ちながらも、ベストのタイミングで、伸びやかに音楽を奏ではじめる。カンタービレが湧き上がる場面、そして音楽が高揚感を増していく場面では、大きく視界が開けるとともに、舞台上に華やかな香りが立ち昇り、また、大きなうねりが発生する。まるで魔術師だ。

個々のパーツを取り出してみると、特段珍しいことはしておらず、とてもオーソドックス。しかし、全体を通して聴いてみると、論旨が明快で、非常に筋が通っている。終演後の充実感の高さは、格別である。

改めてマエストロの凄さを肌で感じた演奏会であった。

終演後は、メルシエール通り沿いの有名店、Le Merciereで、エスカルゴのパイ添えと、フォアグラを。活気のあるブションの雰囲気で、味も悪くはなかった。午後11時という時間帯と使い勝手を考えると、知っておいて損のない店といえる。

演奏会の感動が醒めぬうちにホテルに戻り、就寝。

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(公演情報)

Samedi 15 Octobre 2011 à 20h30
Soirée Slave

Direction musicale : Kazushi Ono
Kazimierz Olechowski : Violon
Orchestre de l'Opéra de Lyon

Serge Prokofiev : Rêves, poème symphonique op. 6
Karol Szymanowski : Concerto pour violon et orchestre n° 1, op. 35
Dimitri Chostakovitch : Symphonie n° 1 en fa mineur, op. 10

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[2011/10/18 07:16] | 海外視聴記(リヨン) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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