ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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チューリッヒ行き(11年10月)②―サンティ指揮チューリッヒ歌劇場「ドン・パスクワーレ」
10月28日午後6時半、宿泊先であるホテル・アドラーを出て、オペラ座へ。この日の演目は、ネッロ・サンティ指揮チューリッヒ歌劇場によるドニゼッティ「ドン・パスクワーレ」。

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この日の座席は、Parkett-Loge 6 rechtsの1列目。1.Rangよりも舞台に近く、また、Parkett-Logeの正面席と異なり、階上席の屋根も若干被る程度なので、音響的にも視覚的にも最高のポジションの一つと思われる。

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今回の「ドン・パスクワーレ」は、1997年新演出の再演で、プロダクションの内容は、2006年収録のDVDで公開されているが、今シーズンはこの日が初日。

初日というのは、概してミスが散見されがちである。加えて、この日は、オーケストラに、経験の浅い若手奏者が混じっていたと思われ、普段に比べると、やや精彩を欠く場面も見受けられる。ティンパニを担当した若い女性も、自信なさげな様子。オケ全体で、何度かフライングが発生し、また、第三幕前半のレチタティーヴォでは、2ndヴァイオリンが場所を見失う場面も生じた。

2ndヴァイオリンのトップの若者は、まだ慣れていないと見受けられ、マエストロの棒と顔、そしてコンサートマスターの運弓を凝視しっ放し。それでも、トップ奏者としての役割を果たそうと、必死になって喰らい付いていたのが印象的であった。周りのベテラン奏者らも、そんな彼を温かく見守っている様子で、若手を育てる十分な環境が備わっていると感じた。

そうはいっても、プロである以上、水準は保たなければならない。この日は、演目が軽めな印象のためか、劇場内の観客もリラックスモードで、ヴェルディの上演時に比べると、緊迫感が薄い。オーケストラも前述のとおり、万全ではなく、劇場内の空気も相まって、まったりとした空気が流れていた。

そんな空気を察してか、マエストロは、冒頭からいつになく険しい表情。泣く子も黙る気合いのこもった真剣な眼差しは、彼が超本気モードの際に現れる。プロフェッショナルの王道を進むマエストロの背中と横顔に、筆者は釘付けになった。

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序曲は、やや無難にまとめた感じだったが、2006年収録と同様、限りなく自然なテンポの移ろい、そして響きの凝縮した軽快さは、健在である。伸びのあるカンタービレも、魅力的であった。たった数分間で、観客全員をドニゼッティの世界に連れて行くマエストロとオーケストラの手腕は、さすがである。

第一幕第一場は、ドン・パスクワーレと医者マラテスタ、そしてエルネストの絡み合いがポイントとなるが、2006年収録と比べると、ドン・パスクワーレ役のルッジェーロ・ライモンディの動きがやや鈍い。70歳という年齢を考えると、やむを得ないか。マエストロは、ライモンディの調子に鑑み、安全を期しつつも、軽快さを失わないギリギリのタイミングを狙い、手堅く音楽を進める。

第一幕第二場になって、マエストロはオーケストラに歌心を注入。オーケストラピットから、柔らかいオーラがふわりと立ち上がる。この導入も見事。ノリーナ役のイザベル・レイは、2006年収録と同様、卓越したテクニックと、華やかな表現で、安定した歌唱を披露。ただ、響きが若干硬かったかもしれない。

第二幕冒頭のエルネストのアリアは、2006年収録でこの役を演じたフローレスの圧倒的な歌唱を知ってしまうと、誰が出てきても霞んでしまう。エルネスト役のボグダン・ミハイは、レッジェーロな伸びのある柔らかい美声で、概ね良好だったが、線が細いことに加え、声域のチェンジが生ずる箇所で引っかかりが生じてしまい、その欠点がこのアリアで如実に出てしまったようだ。頑張っていたようだが、客席の反応は渋かった。

場面は進み、ノリーナとドン・パスクワーレが結婚を決める箇所に至ると、オーケストラピットから、美しいカンタービレが湧き上がった。しかし、エルネストが飛び込んでくると、場面は急変し、静まり返った不気味な響きが顔を出す。そして、結婚が成立し、ノリーナがあばずれ女に早変わりすると、舞台上には次第に熱気を帯びてくる。ノリーナ役のレイの歌唱に艶が増したように感じた。

第二幕フィナーレは、ドン・パスクワーレ役のライモンディの早口が回りきらないが、第一幕第一場と同様、マエストロによるテンポのコントロールは、まさに神業で、全ての要素が然るべき箱に収めた上で、幕切れに向けた盛り上がりを演出する。仮にこれが少しでも速ければ、早口が回らず、アンサンブルが破綻し、逆に遅ければ、イタリアオペラ的な高揚が湧き上がらない。こんな芸当が出来る指揮者は、世界広しといえども、他にいないのではなかろうか。

休憩後の第三幕第一場は、まず、ドン・パスクワーレの台詞が客席の笑いを大いに誘い、劇場内の空気を和ませる。合唱も登場し、舞台に華やかさが増すと、客席の緊張感も高まってきた。

ノリーナがドン・パスクワーレに平手打ちを食わせると、そこからは、マエストロの音楽の真骨頂。何かに取り憑かれたかのように、前へ前へと音楽を運ぶ。とにかくまっすぐ。素敵である。

ドン・パスクワーレと医師マラテスタの早口言葉の二重唱は、2006年収録に比べると、テンポを若干落ち着かせざるを得ず、その分、スリリングな高揚感が殺がれていたが、5年という歳月の経過を考えると、やむを得ないだろう。

第三幕第二場は、ノリーナ役のレイがエルネスト役のミハイに完全に勝ってしまっていたが、ともあれ、2006年収録と同様の流れで手堅くまとめられ、閉幕。

演出に関しては、2006年収録と同様なので、特にコメントはないが、医者マラテスタの悪戯のレパートリーが増えたり、ドン・パスクワーレのカツラを用いた演技が加わったりと、細部に若干の変更が見られた。なお、2006年収録では画面がズームになっていたために確認できなかった背後の様子等も観察でき、新たな発見もあった。なお、第二幕フィナーレでは、舞台上で物が飛び交うが、こういうのを見ると、物がオーケストラピット内に落ちてしまうのではないかとハラハラしてしまうので、心臓に良くない。

今回、実演に接して強く認識したのは、この作品におけるオーケストラの色彩感の豊かさ。これは、絹織物のように柔らかく、そしてキメの細かい弦楽器の旋律に、木目調の艶を伴う木管楽器が重なることで、初めて生み出されるものだろう。

また、スケールレンジの幅広さも、想像以上。磨き上げられた弱音部の透明感、全体として柔らかめにまとめられた響き、それに強奏部の華やかさが加わることで、ドニゼッティのスコアが立体的に蘇った。オーケストラは、弦楽器の人数を10-8-6-5-4に絞った中編成だったが、この設定が巧妙で、機動性や透明感を確保しつつ、シンフォニックな響きの広がりをも表現することを可能にしていた。

マエストロのタクトは、本当に素晴らしい。今回の演目である「ドン・パスクワーレ」は、音楽の構成がシンプルなので、マエストロの音楽創りの基礎が随所に垣間見られる。歌手に然るべきルバートを許容しつつも、全体が非常に引き締まって聴こえるというのは、イタリアオペラの理想型だ。許容するルバートの程度も、音楽的に、演技的に、そして物理的に、完全に計算されている。歌手に対して多少のストレスをかけることはあるが、無理を強いることは絶対にない。マエストロの手綱の締め具合は、神業以外の何物でもない。

今回、特に驚かされたのは、レチタティーヴォにおけるオーケストラの合いの手の導き方。レチタティーヴォは、オーケストラにとっては、動きが変則的に感じられ、しかも予測不能な要素が多いため、多くの指揮者は、タイミングを計る以上のことが出来ずに終わっているのが実情だ。しかし、マエストロは、台詞の一つひとつを自分の風呂敷の上で泳がせた上で、文字通り相槌を打つかのように、合いの手を自然に流し込む。直前の空気の流れ方が、通常の場合と根本的に異なるのだ。しかも、そのヴァリエーションの幅広さは、百科事典を眺めているようである。にもかかわらず、オーケストラに対する指示は、非常に明確かつ的確。これ以上分かりやすく振ることは、およそ想定できない。

マエストロの描く音楽は、頑固なまでに生真面目だ。自由にやらせているように見えて、実は、根底には、終始一貫したインテンポが流れており、喜劇であったとしても、純音楽的に完成されている。それでいて、舞台上で繰り広げられる笑いを誘う演技の数々と矛盾することは一切なく、むしろ絶妙なコラボレーションが生み出されるから、実に不思議だ。

マエストロの化け物ぶりを存分に堪能し、オペラ座を後にした。

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終演後は、ホテル併設のレストラン、スイス・クッチ(Swiss Chuchi)で、ラクレットを。ここは、観光客のみならず、地元客でも、常に混みあっている。すごく美味しいかといわれれば、それほどでもないが、スイスの食事情を踏まえると、ここのサービスの良質さ、使い勝手の良さ、味の安定感は、総合評価で上位にランクインするだろう。午後11時半頃、部屋に戻り、就寝。


(公演情報)

Don Pasquale Donizetti (Revival)
Friday, 28.10.2011, 19:30-22:15

Conductor Nello Santi
Producer/production Grischa Asagaroff
Set and costume design Luigi Perego
Lighting Jürgen Hoffmann
Orchestra Zurich Opera House Orchestra
Choir Zurich Opera House Choir

Isabel Rey (Norina)
Ruggero Raimondi (Don Pasquale)
Bogdan Mihai (Ernesto)
Oliver Widmer (Dottor Malatesta)
Joa Helgesson (Un notaro)
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[2011/11/01 08:35] | 海外視聴記(チューリッヒ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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