ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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チューリッヒ行き(11年10月)③―サンティ指揮チューリッヒ歌劇場「セビリャの理髪師」
10月29日午前、国鉄で隣町のバーデンへ。バーデンとは、ドイツ語で温泉という意味。チューリッヒ中央駅から快速列車で15分という立地ながら、街並みは日本の温泉地に似ていて、ひなびた雰囲気が懐かしさを感じさせる。

バーデン駅から徒歩10分ほどに位置する温泉施設、テルマルバーデンへ向かった。施設内は温水プールのようで、水着を着用の上、入水するが、硫黄泉の立派な温泉だ。土曜日のお昼時は、年配の方から家族連れ、渋いオーラを出す若いカップルなど、15名ないし20名ほどが、泳いだり、バブルに身をゆだねたりしながら、くつろいでいた。筆者も小一時間ほど疲れを癒す。

昼過ぎにバーデンを後にし、国鉄でチューリッヒに戻り、新市街の中心にあるデパート、グローブスで買い物を楽しむ。日本のデパートに似たデパ地下の雰囲気が心地よい。ブラッセル滞在が長引くと、物が揃った場所でのショッピングが貴重なのだ。ホテルに戻る途中、大聖堂の隣に、日本のヤマハショップに似た体裁の音楽総合ショップを見つけた。弦楽器売り場があったので、ヴァイオリン用の弱音器を購入。ブリュッセルでは、これを見つけるのも一苦労なのだ。

いったんホテルに戻り、しばし休息の後、午後7時頃、オペラ座へ。この日の演目は、ネッロ・サンティ指揮チューリッヒ歌劇場によるロッシーニ「セビリャの理髪師」。2009年新演出の再演で、DVD化されている2001年収録のものとは、プロダクションが異なる。キャスト陣には、活きのいい若手と、経験豊かなベテランが配されており、今シーズンの注目公演の一つである。

この日の座席は、平土間7列目の中央下手側。平土間から眺める舞台からは、他の座席では得られない迫力と雰囲気が伝わってくる。オーケストラの響きは、その距離の近さゆえ、生々しい音色だが、想像していたよりは、柔らかい響きであった。マエストロを拝むにはかなり厳しいポジションだが、前列の観客の頭の間から、マエストロの横顔と指揮棒の先端を辛うじて観察することができた。

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筆者の座席が平土間だったからかもしれないが、序曲は、オーケストラピット内で響きがまとまらず、上手側と下手側で音がバラバラになってしまった感がある。チューリッヒ歌劇場の場合、木管楽器が指揮台から上手側に向かいオーケストラピットの壁沿いに4列に分けて並ぶという配置が採られることがあり、この場合、上手側奥に金管楽器と打楽器が陣取ることから、平土間前列で聴くと、音の重心が上手側に偏った印象となりやすい。そんなデメリットがそのまま現れてしまったようだった。

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しかし、幕が開くと、途端に響きが凝縮し、このオーケストラらしいきめの細かい響きが展開し始めた。第一幕第一曲冒頭の低弦とファゴットの歩みは、さりげない強弱のメリハリが、軽快ながらも趣のある足取りをイメージさせる。この導入は絶品だ。アルマヴィーヴァ伯爵が歌う「ご覧、空が白み」は、なかなかの仕上がりで、期待が膨らむ。畳みかけるアンサンブルが魅力の「ありがとうございます、旦那様」は、舞台上の合唱のテンポが転んでしまい、うまく噛みあわないが、この程度は実演ではよくあることで、マエストロも、何度か調整を試みるも、最後は割り切った表情で、無難に収める。

フィガロの登場で、一気に舞台が引き締まった。マエストロもそれを狙っていたようで、気合いのこもった鼻息とともに、第二曲に対する渾身のアウフタクトが示されると、オーケストラから生命力と推進力に漲った輝かしいAllegro Vivaceが噴出。これを受け、フィガロ役のマッシモ・カヴァレッティが圧倒的な歌唱と強烈なインパクトをもって、この有名なカヴァティーナを一気に歌い上げた。歌唱後の客席からの拍手も、この時が一番大きかった。

こういうムードになってくると、舞台は相乗的に良くなっていく。

第三曲「もし私の名を知りたければ」では、アルマヴィーヴァ伯爵役のマリオ・ゼッフィリがキレのある輝かしい歌唱をみせ、続く第四曲、フィガロとアルマヴィーヴァ伯爵の二重唱は、勢いとスピード感のある音楽に、笑いを誘う小ネタが満載で、充実していた。

ロジーナ役のクリスティナ・ダレツカも、これらに負けない強烈なオーラを放ちながら、舞台上に登場。バルトロ役を演ずるベテラン、カルロ・ショーソンとの対比が見事にはまっていた。ロジーナが歌う第五曲「今の歌声は」は、ロジーナの強さを前面に出したニュアンスだが、軽やかな跳躍は、力みもなく、デリケートな優しい声色で仕上げられており、この日のロジーナのイメージを鮮烈に印象付けることに成功していた。

第六曲、バジーリオのアリアには、深遠な空気や、快感に身を震わす模様、さらには大砲の一撃のような爆発といった具合に、多彩な表情が織り込まれている。この曲におけるマエストロとオーケストラの表現力は、実に素晴らしいもので、ロッシーニ・クレッシェンドの勢いだけに終わらない充実した演奏であった。バジーリオ役のロベルト・タリアヴィーニも、然るべきバジーリオ像を描けていたと思われる。

第七曲「それじゃ私なのね」では、「私で当然」とでも言いたげな女王様的なオーラが全開。キャラ設定がここまで徹底されると、痛快だ。

第八曲「わしのような医者に向かって」は、後半の早口言葉の場面で、ロジーナをロープで椅子に縛り上げる演技をバルトロにさせる演出であるため、歌う側にかなりの負担をかけることとなるが、ここもマエストロの絶妙なテンポ設定により、バルトロ役のショーソンの迫真の演技と歌唱が見事に結実し、大迫力でもって観客に迫った。

第一幕のフィナーレは、この日の白眉。演奏も演技も、どんどん凄みを増していき、異様なテンションの盛り上がりが感じられる。フィガロが飛び込んでくる場面でのコントラバスの迫力のある刻みは、筆者の耳に生々しく残っている。いわゆるロッシーニ上演の枠を完全に超越した巨大なクライマックスが構築され、第一幕終了。

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休憩を挟み、第二幕に入ると、コントのような演技が多数用いられるようになり、客席は終始笑いに満ちるようになる。しかし、その反面、音楽的な緊張感は薄らいでしまった。

第十曲「あなたに平安と喜びがありますように」は、コント調でも構わないが、第十一曲「真実にして不屈の情熱を持つ」は、旧対新がテーマであり、また、ロジーナ役にとっては、音楽的な見せ場の一つでもあるので、もう少し音楽に集中できる演出が望ましかったのではなかろうか。

いわゆるシャーベット・アリア、第十四曲「爺さんは妻を求め」では、オーケストラの集中力に陰りが見え、技術的には決して難しくはないはずなのに、精彩を欠いた音がわずかに混じってしまった。

それでも、第十五曲「嵐の音楽」あたりからは、強い意思を感じさせるマエストロの的確なタクトによって、舞台全体に緊張感が戻り、フィナーレに向けて着実に音楽が進展。堅固ながらも躍動感に満ちた幕切れが構築された。

チェザレ・リエヴィの演出は、チューリッヒ歌劇場によく見られるスタイリッシュな現代的舞台。第一幕冒頭で、ロジーナのいるバルコニーが舞台のてっぺんに置かれ、客席から顔が見えないというのは、観客の興味をそそる意味で良い仕掛けだと感じた。マリオ・ボッタによるデザインも、すっきりとしていて、悪くはない。全体としては、台本の流れに沿っていて、特に違和感はなかった。

ただ、音楽の流れとそぐわない、要は、やり過ぎな演技や小ネタが散見され、それが鑑賞の妨げになっていたことは否定できない。フィガロの持ち運ぶスーツケースから何度となくキリンの長い首が出てきたり、官能的で刺激的な映像を映し出したり、物の投げ合いというコント的演技を行わせたりすることに、どれだけの意味があったのだろうか。立ち位置の構成や、台本に沿った演技の組立てに関しては、アサガロフ演出の2001年収録のDVDと比べても、かなり良い線にまで達していたと思われるだけに、笑いを誘う安易な仕掛けが混ざってしまったのが残念であった。

マエストロは、昨日よりも表情が柔らかく、にこやかな笑顔が窺われた。この日のように、キャスト陣に勢いがあり、強烈な個性が漲っている場合は、彼らに割りと自由にやらせた上で、引き締めるべきポイントでギュッと手綱を締める方が流れがよいのだろう。とはいっても、マエストロによる手綱の締め具合は、昨日同様、神業の域であり、ロッシーニ・クレッシェンドへの流し込み方の自然さは、言葉で表現し尽せない。生真面目な音楽創りも徹底されており、磨き抜かれた旋律美、洗練された刻みやリズム、テンポ設定の一貫性から醸し出される音楽的な格調の高さは、立派であった。

ちなみに、今年80歳のマエストロは、この日も、指揮に、チェンバロにと、大活躍であった。その精力的な活躍ぶりには、ただただ頭が下がる想いである。

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カーテンコールは、かなりの盛り上がり。キャスト陣の中では、フィガロ役のカヴァレッティに対して、客席からは絶賛の嵐。ロジーナ役のダレツカ、そして、バルトロ役のショーソンにも、盛大な拍手が贈られる。アルマヴィーヴァ伯爵役のゼッフィリも、かなり良かったし、頑張っていたと思われるが、他の役者が強烈すぎたことに加え、第二幕でパワーが減衰していたようにも感じられたことから、多くのブラボーを誘うまでには至っていなかった。もちろん、マエストロに対しては、客席からブラボーの大合唱。この歌劇場にしては珍しいほどのノリの良い拍手で、会場内は大いに盛り上がり、閉幕となった。

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終演後は、昨日と同様、ホテル併設のレストラン、スイス・クッチ(Swiss Chuchi)で、エスカロップのリゾット添えを。終演が遅れたため、ラストオーダーぎりぎりの入店となったが、予約していたこともあり、快く受け入れてもらえた。午前0時頃、部屋に戻り、ワインを嗜みながら、夏時間の終了を見届ける。10月最終日曜日、午前2時59分の次が午前2時になったのに、ちょっと感動した。


(公演情報)

Il barbiere di Siviglia Rossini
Saturday, 29.10.2011, 19:30-22:30

Conductor Nello Santi
Producer/production Cesare Lievi
Set design Mario Botta
Costumes Marina Luxardo
Lighting Jürgen Hoffmann
Orchestra Zurich Opera House Orchestra
Choir Zusatzchor

Christina Daletska (Rosina)
Liuba Chuchrova (Berta)
Mario Zeffiri (il Conte Almaviva)
Carlos Chausson (Bartolo)
Massimo Cavalletti (Figaro)
Roberto Tagliavini (Basilio)
Davide Fersini (Fiorillo)
Armando Pina (Offizier)
Thomas Forde (Ambrogio)
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[2011/11/01 08:38] | 海外視聴記(チューリッヒ) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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