ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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モネ劇場―エネスコ「オイディプス王」
11月1日午後7時半頃、モネ劇場へ。2011/2012シーズンの2つ目の演目は、エネスコ作曲「オイディプス王」。開幕演目の「メデア」といい、今回の「オイディプス王」といい、Opera House of the Year 2011の名に相応しい、実にマニアックなチョイスである。

20111101-01

今回は、直前まで予定が決められなかったため、手頃な座席が残っておらず、最上階であるBalcon 4の2列目という絶望的な場所しか確保できなかった。そのため、あまり期待せずに出掛けたのだが、会場に着いてみると、スタッフ曰く「最上階を封鎖したので、これから渡すもっと良い座席に移動しろ」とのこと。その座席とは、平土間の前から3列目の中央付近で、1stカテゴリー相当であった。

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モネ劇場は、毎回ほぼ満席なのが通例だが、この日は祝日であったため、特に1stカテゴリーに残席が多かったのだろう。捨てる神あれば拾う神ありとは、こういうことをいうのだろうか。ともあれ、たった12ユーロで、118ユーロの特等席に座ることができたことから、途端に気持ちが晴れやかになる(なお、この劇場では、休憩後は、空いている席に勝手に移動してよいという暗黙のルールがあるようだ。実際、休憩の間、筆者の座席の周辺では、階上席から移動してきたと思われる多数の人々による椅子取りゲームが華やかに繰り広げられた。上演中は客席から割と物音や喋り声も聞こえてくるし、余計なストレスを感じないためには、細かいことはあまり考えず、肩の力を抜いて観劇するのがこの劇場での過ごし方として適切である。)。

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さて、上演の方だが、かなり渋い作品だ、というのが第一印象である。

部分的にみると、例えば、第一幕や第二幕第三場のように、合唱が活躍する場面等において、旋律性のある大迫力なシーンがみられる。エネスコは、この作品を作曲するにあたり、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」から多大な影響を受けたとのことで、実際、似たような雰囲気が感じられる場面もあった。だが、そういった場面を繋ぐ経過部や、朗唱風の独唱が続く場面では、音楽的な緊張感が薄く、冗長に感じられるため、せっかく築かれた高揚感がプツリと切れてしまうという致命的な欠陥を、この作品は抱えている。

また、この作品においては、超巨大な楽器編成が求められるが、その利用法は、お子様ランチのように、色々な音色を盛り込んでみました、という以上のものではなく、無駄に楽器が多いとの印象である。この点において、同じく超巨大編成を要求するリヒャルト・シュトラウスとの格の違いは、歴然としていた。

加えて、「オイディプス王」というギリシャ悲劇は、主人公の出生から余生までというロングスパンに及ぶ時間軸の中から、転機となる場面のいくつかを切り取り、時系列順に並べるという構成を採るため、全体としてみると、時間軸上の連続性を欠く。それゆえ、音楽の流れを活かした有機的結合が図りにくいというデメリットを内在する。内容面でも、いわゆるオペラ的な見せ場を見出すことが相当困難な作品であり、このストーリーにそのまま依拠した場合、オペラとしては散漫な印象とならざるを得ないだろう。実際の印象としても、各幕各場のバランスが良くないように感じた。

全てがそうとはいわないが、やはり、有名になれなかった作品には、それ相応の理由があるようだ。

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ところで、今回の演出は、La Fura dels Bausというカンパニーが担当したが、いわゆるオペラ的なマンネリ化した舞台と異なり、演劇的センスが光る見応えのある舞台であった。言葉での説明が難しいが、客席から見ていると、舞台上における焦点の遷移が、中央から周辺へ、という流れではなく、むしろ周辺から中央へ、という流れになることが多く、その周辺というのも、上下左右前後と、変化に富んでいた。高さ、幅、奥行きという三次元空間を存分に活かしたセットや立ち位置は、演劇的にみれば、特に目新しさを伴うものではないであろうが、オペラ演出としては、かなり新鮮に映った。

印象に残った点を列記すると、冒頭の第一幕では、4層構造の巨大な壁面が舞台前面に押し出され、その壁面を古代風の衣装に身を纏った合唱メンバーらが埋め尽くしていた。4階建ての建造物のインパクトは、絶大である。

第二幕第二場は、オイディプス王が狭い三叉路での争いの末に実父であるライオス王を殺害してしまうという場面だが、土木工事現場の設定で、一昔前によく見られたレトロなライトが効果的に活用されていた。ライオス王を乗せた乗用車がライトを煌々と照らして舞台奥から迫ってくるシーンは、運転免許教習のビデオに登場する夜間の交通事故の模様を連想させる。続く第二幕第三場では、舞台中央に、第二次世界大戦中で使用されたような戦闘機の模型が置かれ、この作品におけるスフィンクスの位置付けを象徴的に示していた。

とりわけ衝撃的であったのは、第三幕。舞台上には、疫病に侵された死体が多数横たわり、ガスマスクをした兵士たちが死体の処理に追われる。天井からは、大量のスモークと水蒸気が噴射され、冷ややかな空気と若干の異臭が舞台上から客席に向けて漂ってくる。真相を知ったオイディプス王が両目を潰すシーンは、あまりにもグロテスクで、思わず目を覆いたくなる。演出ノートによると、2010年10月にハンガリーで起きた有毒物質汚泥流出災害にヒントを得ているとのことである。さすがに、大量のスモークや水蒸気の噴射は、楽器弾きの立場からすると、度を超しているといわざるを得ないが、その他に関しては、むしろ台本に沿った的確な表現の一つと評価されるであろう。

第四幕は、オイディプス王が余生を過ごす楽園であるが、ここでは、現代社会に見られるような要素は排除され、第一幕と同様、ろうそくの灯りを貴重とした柔らかいセットに落ち着いていたのが印象的であった。

ともあれ、「時間」と「運命」という演出上の基本コンセプトは、実に明快に示されていたと感じた。

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音楽面では、合唱の活躍ぶりが第一に目を引いた。人数が多かったこともあるが、隅々までよく練習が行き届いていて、かなり高水準の仕上がりであった。
これに対して、オーケストラに関しては、横の流れは良好で、第一幕後半の盛り上がりでは、大きなうねりも感じられたが、タテの線を厳密に合わせて音色を積み重ねるような箇所では、ことごとく和音が定まらない。音の出だしや切りの瞬間が合わない場面も散見される。他面、おどろおどろしい低音の響きや、煌びやかな木管楽器の数々、そして、破壊力のある金管セクションや、瞬間的にやる気を出して野生的な響きを醸し出す弦楽器など、パーツを取り出すと魅力的な響きも随所に見られる。良くも悪くもベルギーのオーケストラである。
キャスト陣に関しては、作品が渋すぎたので、コメントし辛いが、この難しい演目を最後まで演じ切っただけでも十分賞賛に値するのではなかろうか。

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モネ劇場は、予算面でかなり恵まれていると見受けられる。貧弱に見える場面はなく、準備が周到に重ねられた形跡がある。プロダクションの充実度という意味では、世界のトップレベルに入る水準だったといえよう。

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終演は、午後11時すぎ。メトロとトラムを乗り継いで帰宅。こんな作品を見たら、さぞかし寝つきが悪いだろうと思いつつ、ベッドに入るも、幸い、変な夢にうなされることもなく、普通に翌朝を迎えることができた。


(公演情報)

Oedipe

Tu 1 November 2011, 20:00 (La Monnaie)

Music direction / Leo Hussain
Director / Alex Ollé (La Fura dels Baus), Valentina Carrasco

Oedipe / Andrew Schroeder
Tirésias / Jan-Hendrik Rootering
Créon / Robert Bork
Le Berger / John Graham-Hall
Le Grand-Prêtre / Jean Teitgen
Phorbas / Henk Neven
Le Veilleur / Frédéric Caton
Thésée / Nabil Suliman
Laios / Yves Saelens
Jocaste / Natascha Petrinsky
La Sphinge / Marie-Nicole Lemieux
Antigone / Ilse Eerens
Mérope / Catherine Keen
Une femme thébaine / Kinga Borowska

Orchestra / La Monnaie Symphony Orchestra & Chorus
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[2011/11/04 04:56] | 海外視聴記(ブリュッセル) | トラックバック(0) | コメント(1) |
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コメント
モネ劇場の演目は特に近年、ヨーロッパの首都にある歌劇場としてはアムステルダムと双璧でトンガリ具合がすごくて、現代のオペラ文化を牽引したいというこだわりが感じられるので、気に入ってます。アムステルダムの歌劇場にもぜひ、足をお運びになってください。

今回は、座席がグレードアップされて、ラッキーでしたね。
わたしは、あさって日曜日の千秋楽に行きます。平日夜は無理なので、マチネ専門。
エネスコの室内楽などは結構好きなので、唯一のオペラにも期待してます。しかし、今シーズンからはモネの全ての演目が終了後3週間ストリーミングされるので、チケット買うのを早まったかな、とも思いましたが、楽しんでこようと思います。
[2011/11/04 17:57] URL | レイネ #NWeVXXfQ [ 編集 ]
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