ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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フセイン指揮モネ歌劇場管―ショスタコーヴィチ「レニングラード」他
11月10日午後8時前、パレ・デ・ボザールへ。日没後の冷え込みには、冬の気配が感じられる。

この日は、レオ・フセイン指揮モネ歌劇場管弦楽団による演奏会。「レクイエム」と題されたこの演奏会では、ペンデレツキ「広島の犠牲者への哀歌」、カンチェリ「晴れやかな悲しみ」、ショスタコーヴィチ交響曲第7番「レニングラード」という、いずれもアンチファシズムをテーマに作曲された作品が採り上げられた。先日まで上演されていたエネスコ「オイディプス王」にも、アンチファシズムが浮かび上がる場面があり、これら一連の作品群を採り上げたモネ劇場の11月公演からは、何か強烈なメッセージが発せられていたようにも読み取れる。演奏前に行われたフセインによるスピーチでも、アンチファシズムという共通テーマの存在が強く謳われていた。こういうプロジェクトを、格調高く、そして平然とやってのけるあたりが、この地域の文化の真髄なのかもしれない。席が埋まらず、Balcon 2が閉鎖されていたのが勿体ない。

さて、この日の座席は、Balcon 1 Face-Frontの3列目。舞台上の音が一つの面となり強い音圧で迫ってくるような印象で、音響面で特に不満はなかった。弦楽器が舞台の最前方に張りつくように並んでいたことも、功を奏したと思われる。奥行き感は感じられないが、今回採り上げられたような作品では、このホールのデッドな音響がむしろプラスに働いたといえるだろう。難点は、廊下の騒音が割と頻繁に聞こえてくるあたりだろうか。

20111110-01

一曲目は、ポーランド人の巨匠ペンデレツキが1960年に作曲した52弦楽器のための「広島の犠牲者への哀歌」。前衛的な音楽書法を駆使して作曲された現代無調音楽の代表作で、トーン・クラスター(いわば奏すべき音響の帯域を黒く塗りつぶす手法)を中心に、不確定音や微分音、新奏法(楽器の胴を打つ、楽器の駒や緒留の上部を弾くなど)も用いられている。

筆者は過去に一度だけこの作品の実演に接したことがあるが、そのときは雑音満載の騒々しい曲という印象しかなかった。しかし、今回改めて実演に接し、この作品において目指された演奏効果、そして、それらが醸し出す鮮烈で生々しいインパクトを、初めて体感することができた。舞台上から押し寄せてくる音の壁は、彼ら一人ひとりの個性により、隅から隅まで埋め尽くされ、巨大な絵画を目の当たりにしているようであった。「集団」というよりも「個」の集まりと称すべきベルギーのオーケストラの特性がプラスに作用した好例といえようか。作品の真価が如何なく表現された名演であったといえる。

二曲目は、グルジア人でベルギー在住の作曲家、カンチェリが1984年に作曲したBright Sorrow Requiem (to the 40th Anniversary of the Victory over Fascism)。一曲目から続けて演奏された。

抑圧されたロングトーンによる不協和音のキャンバス上に、短調の旋律の断片が筆で添えられる。そこに、祈りを示唆するような児童合唱ないし独唱が織り込まれる。また、突如として、金管楽器やパーカッションを伴った勇ましい戦闘場面も差し挟まれる。一曲目のペンデレツキと同様、「音楽」というよりも「音」の集合体といった体であり、全曲で30分近くにも及ぶことから、聴き通すだけでも骨が折れる作品だが、モネ児童合唱団の子供たちの集中力と、フセインによるメリハリのある進行により、最後まで会場の緊張感が失われることはなかった。カンチェリの音楽書法はベルギーのオーケストラの特性ともよくマッチしており、モネ歌劇場管のサウンドを存分に楽しむことができた。

休憩を挟み、後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」。題材や書法、時代背景の点で、かなり異色な作品である。

さて、演奏についてだが、結論からいえば、変態演奏であった。指揮者が変態なのではなく、オーケストラが変態。ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルや、ケーゲル指揮ライプツィヒ放送交響楽団といった超絶的名演に見られるような、重苦しさやストイックさとは正反対。いかにもベルギーらしい、不思議な香りのする名演奏が展開した。先週末にベルギーのオーケストラでの初舞台を体験したばかりの筆者は、随所に現れるベルギー流の節回しの数々に直面し、笑いをこらえるのに必死であった。

第一楽章の第一主題は、例によって、輪郭は緩いが、腰の据わった野生的な響き。第二主題は、重すぎず、軽すぎず、心地よいタッチで、当たり障りなく描かれる。このあたりの響きの立ち上がり方を見ると、モネ歌劇場管のクオリティの高さを実感する。小太鼓のリズムとともに突き進むことで有名な展開部では、「戦争の主題」が楽器を変えながら12回繰り返されるが、担当する奏者によって節回しやニュアンスが全く異なるから面白い。小太鼓のリズムに合わせようという意識は毛頭なく、要は、最初と最後が合っていればよいというスタンスである。2群の金管を擁した大迫力の合奏が始まると、舞台上は発火し、各奏者がこれでもかとばかりに、弾きまくり、吹きまくる。暴力的に叩きつけるのではなく、空いている空間を見つけてそこに自分の音色を強烈に押し込んでくる感じといえば、少しは雰囲気が伝わるだろうか。ホルンを主体としたうねうねと動くラインの存在感が凄かった。

第二楽章は、淡々と進むが、粗野でぶっきら棒な感じが垣間見られたのが、いかにもである。

第三楽章冒頭のコラール主題は、楽器の音色のブレンド具合もよく、またヴァイオリンによる息の長い旋律も、歌にあふれていたが、過度に内面的にならないところが、彼ららしくてよかった。旋律の歌回しからは、ベルギー人のフランス語のイントネーションが想起された。中間部に現れる疾走するような場面の押し出しの強さは、第一楽章と同様。

さすがに第四楽章になると、舞台上にも客席にも疲労感が見え隠れするようになったが、さすがは歌劇場オーケストラで、緊張感を絶やすことなく、教科書通りに事を運び、きっちりと勝利の結末を描いて終演。

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冒頭にも書いたが、ベルギーのオーケストラは、「集団」というよりも「個」の集まりである。アンサンブルの手法は、一人ひとりから発せられるコシのある音色がその都度寄り集まって太い流れを創り出すというもの。隣国オランダを代表するロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団の厳格で重厚なアンサンブルと方向性が真逆であることは言わずもがなだが、パリに所在する名門オーケストラの数々と比べても「個」の自由度は圧倒的に高い。拠って立つべき共通の価値観ないしベースが存在しないという点が、他国のオーケストラとは、根本的に異なるところだろうか。

ここでは、個々の奏者が自分の「歌」をきっちりと歌い上げることを何よりも優先している。多少の時差が生じてもお構いなし。集合スポットにおいて、適当に帳尻を合わせることで調整する。音外しや音程の滲みもそれなりに発生するが、目立たぬように上手く取り繕う技術に長けているので、普通に聴いているだけではミスの存在に意識が及ばない。無論、決定的な場面(つまり聴衆の多くがミスに気付くような箇所)でのミスは皆無である。他方、肝は据わっているので、戦闘場面を描いたような勇ましく豪快な音楽における押し出しは強烈。いったん火が付くと、一気にテンションがあがり、飲み会のコールのようなお祭り騒ぎが発生する。加えて、ブリュッセルはフランス語圏なので、音の輪郭は曖昧だが、その中身は詰まっていて、しゃべる分量も多い。響きに華もある。オーケストラの音色には、そのお国柄が強烈に反映されるのだな、ということを改めて痛感した。

この日の演奏会は、長かった。終演は午後10時40分。しかし、筆者がベルギーで観た演奏会の中では間違いなくベストであり、残り2ヶ月弱のうちにこれを超える演奏会に接することもおそらくはないであろう。そう断言できるくらいに充実度の高い演奏会であった。


(公演情報)

La Monnaie Symphony Orchestra
Requiem

Thursday 10.11.2011 20:00
Centre for Fine Arts / Henry Le Boeuf Hall

Leo Hussain conductor
Denis Menier choir leader
La Monnaie Symphony Orchestra , La Monnaie Children's Choir

Krzysztof Penderecki, Threnody for the Victims of Hiroshima
Giya Kancheli, Bright Sorrow (Requiem on the 40th anniversary of the victory against fascism)
Dmitry Shostakovich, Symphony no. 7, op. 60, "Leningrad"
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[2011/11/11 19:28] | 海外視聴記(ブリュッセル) | トラックバック(0) | コメント(0) |
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