ましましの音楽日記
G.ヴェルディの作品をこよなく愛するオペラ愛好家による音楽日記です。筆者が鑑賞した海外でのオペラやコンサートの模様や、筆者自身が日頃行っている音楽活動などについて、不定期に綴っていきます。
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東京クァルテット―ハイドン、シマノフスキ、シューマン
11月24日午後8時前、ブリュッセル王立音楽院のコンサートホールへ。この日は、東京クァルテットによる演奏会。ハイドン、シマノフスキ、シューマンの作品が採り上げられた。

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ホールの入り口では、なぜか弦楽器の展示会が行われていた。ごった返すロビー内に無防備に並べられた弦楽器を見て、一抹の不安を感じる。

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さて、この日の座席は、Balcon 2の中央下手より。平土間席が300席程度という小さなホールゆえ、Balcon 2でも舞台からの距離は近い。程よく角の取れたまろやかな音色が舞台上から浮かび上がってきた。なお、このホールの響きは、木の香りが若干は漂うものの、基本的にはデッド。ホールの構造上、場所によってムラが生ずるだろうと予想されるため、恵まれた環境とはいえない。最大の難点は、外の騒音が漏れて聞こえることで、上空を飛行機が通るたびに、地鳴りのような振動が轟くのには、閉口せざるを得なかった。

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プログラム前半の一曲目は、ハイドンの弦楽四重奏曲第81番。全部で83曲あるハイドンの弦楽四重奏曲のうち、最後の曲集にあたる作品77「ロプコヴィッツ四重奏曲」の一曲目で、ハイドンの最後期の作品の一つである。

この作品におけるハイドンの書法からは、ある種の崇高さすら窺われる。瑞々しく溌剌とした響きの合間に、洒落っ気のある表現が顔をのぞかせ、ハッとさせるような陰影も差し込まれる。この日は、演奏開始直前に、客席内で携帯電話が鳴り止まないというハプニングが生じたが、ひとたび演奏が始まると、そんな喧騒は記憶の彼方へと消え、ほぼ満席のホール内は、彼らの物静かで優しい語り口の演奏に、スーッと惹きこまれていった。

彼らの演奏は、どこまでも自然体である。誰かがリードするわけでもなく、4人がそれぞれの仕事をキチンとこなし、ともに歩み、そして対話をする。一見地味だがしっかりした芯を提示する2ndヴァイオリンの池田氏と、優しく包み込むような懐の深さを感じさせるヴィオラの磯村氏とのペアは、この日も健在で、熟練の技といぶし銀の輝きを、あくまでも控え目に魅せる。1stヴァイオリンのビーヴァーは、ベテラン2名に支えられ、自由に伸び伸びと歌うが、出しゃばらないあたりが良い。チェロのグリーンスミスも、飛んだり跳ねたりしつつ、流れに乗るべきところではベテラン2名に寄り添い、若さでもって推進力をもたらしていた。このベテランと若手のコンビは、純度の高いハイドンの世界を浮き立たせるにあたり、必要十分な引き出しを持ち合わせていたといえる。内声部が描く微妙な和声の遷移は、水墨画のようで、殊のほか美しかった。

プログラム前半の二曲目は、シマノフスキの弦楽四重奏曲第1番。シマノフスキの第2期を締めくくる傑作とされる。

この曲では、雰囲気がガラリと変わり、旧きよきアメリカを連想させる鮮やかな色彩感が広がった。技術的に非常に難易度の高い作品と思われるが、多彩な曲想の数々がスッキリと収められており、見通しの良い流れが描かれていたといえる。特に、第二楽章後半に現れる淡く波立つ響きの遷移は、目を見張るものがあった。4挺による和声が完全に溶け合っていたとまではいえなかったことが残念だが、これはホールの音響の悪さに起因するところもあると思われ、そこまで求めるのは酷といえようか。

休憩を挟み、プログラム後半は、シューマンの弦楽四重奏曲第3番。一般に「室内楽の年」といわれる1842年に作曲された作品の一つである。

このシューマンでは、東京クァルテットの持ち味が存分に発揮されていた。内容が濃く、集中度も高い。しかし、語り口は柔らかで、心の隙間を満たすような包容力がある。また、聴衆との距離感の保ち方が絶妙で、付かず離れずな感じがとても良い。

第一楽章冒頭から、呟くようなフレーズの語尾が印象的。第一主題に含まれるスラースタッカートは、クリアだが温もりも感じさせる。これは、技術のみでは到底成し遂げられない。また、断片的なフレーズの数々がふっと浮かんでは儚く消える情景も美しく、これを演出する内声部による和声の移ろいも素晴らしい。そして、伸びやかな第二主題は、シューマン特有の絡み合うような裏打ちの伴奏を伴うため、演奏者にとっては目の釣り上がる瞬間だが、彼らの演奏からは、そんな事情は微塵も窺わせず、音楽の悦びがどこまでも自然に湧き上がっていた。無論、楔を打つように登場する数箇所のフォルテも、切れと響きを伴った適切なフォルテである。楽章全体を通じ、モルト・モデラートという曲想を完璧に具現化した進行で、シンプルな様式美とともに、落ち着きと安らぎが感じられた。

第二楽章では、変奏の進行とともに、高揚感と勢いが前面に出てきた。フレッシュな推進力と、熟練の匠の技とが、程よくミックスされている。静かな第三変奏の響きの美しさは忘れがたく、また、情熱的な第四変奏は、熱気を伴いつつも、リゾルートという曲想をわきまえた折り目正しい演奏で感銘を受けた。

第三楽章は、2ndヴァイオリンとヴィオラが奏でる付点音符によるリズミックな伴奏が神業だった。まさに名脇役。あまりの素晴らしさに、思わず溜め息が出る。筆者も一度で良いからこういう語り方を真似てみたいものだ。

第四楽章は、骨格のしっかりとしたアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ。前をしっかりと見据えたまっすぐな演奏で、ライブならではの高揚感も十分に味わえた。

この日は、彼らの真摯な演奏姿勢に感銘を受けたためか、演奏中は、ほとんど物音がせず、非常に静かであった。聴衆が静かに余韻に浸っている風景を目にするのは、ブリュッセルでは稀有なことである。彼らの演奏には、そうさせるだけの静かなパワーが漲っていたのだろう。

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30年間にわたり東京クァルテットを牽引してきた磯村氏と池田氏も、2013年6月をもって引退することが、つい先日発表された。舞台上の両名からは、有終の美に向けた強い意思のようなものが感じられた。引退前にもう一度、彼らの勇姿を拝みたいと思いつつ、帰路に着いた。


(公演情報)

Thursday 24.11.2011 20:00
Royal Brussels Conservatory

Tokyo String Quartet

Joseph Haydn, String quartet, op. 77/1, Hob.III:81
Karol Szymanowski, String quartet no. 1, op. 37
Robert Schumann, String Quartet no. 3, op. 41/3
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